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『僕と私の殺人日記』 その30

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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「ユイカちゃんの言うことが正しいか、実験しないとね」

「そうだね、いい感じに人間が転がってるわ」

狂っている女子二人は権太くんに詰め寄る。けがの痛みで動けない権太くんは、ただただ泣いていた。

「泣かないでよ、みっともない。男の子でしょ? 少し痛いけど我慢してね」

注射をする看護師みたいなセリフを言って、リナちゃんはナイフを振るった。

「ちょっと待って、リナちゃん!」

ユイカちゃんの声でリナちゃんの手が止まる。

「普通に殺したら、実験にならないから少しずつ殺しましょう。まずは・・・目を潰すとか」

「なるほどー。いいかも」

悪魔のようなユイカちゃんのアドバイスで、リナちゃんは権太くんの右目を刺した。

「うぎいいいいい!」

権太くんの悲鳴が校庭に響き渡る。次に左目を刺して、権太くんの瞳はなくなった。目から血を流して、手で抑えている。

「えーと、次は、ど、れ、に、し、よ、う、か、な!」

目の次に刺したのは、二の腕だった。筋肉の繊維を断ち切られて、白い骨が露わになる。 その次は、手の指を一本一本切り落とす。血が放射状に広がった。その後も、狂気の実験 は足首やふくらはぎまで及んだ。

「最後は胸にしよっと!」

心臓のある部分にナイフが深々と突き刺さり、権太くんは死んでしまった。突如、離れていた心が身体に結びつく感覚がした。どうやら入れ替わったようだった。

「どう? 入れ替わった?」

待ちかねたようにユイカちゃんが聞いてくる。

「最低だよ・・・。こんなのってありかよ!」

「ユウくんになっちゃったわ。まだまだ殺し慣れてないみたいね。残念、残念」

うれそうに、楽しそうに悪魔が言った。

「・・・なんで? なんで君はそんなに人殺しに協力するんだ?」

ぼくは泣きながらユイカちゃんに聞いた。

「完成させたいから」

「え?」

「リナちゃんがそのナイフに選ばれた時から、決まってたの」

「それは、どういう・・・」

その時、顔に冷たいものを感じた。水滴が肌を伝う。ぽつり、ぽつりとそれは空から降 ってくる。

「あ、雨が降ってきたよ! 権太くんが見つかったら大変! 早く学校にしまって隠そ う!」

ユイカちゃんは平然とした顔で、権太くんの散らばった指を集め始めた。ぼくは雨に濡れながらそれを見るしかできなかった。

一人で権太くんの亡骸を学校に引きずり、一仕事終えたユイカちゃんは汗を拭った。

「死体ってけっこう重いのねー。だれかさんが手伝ってくれないから疲れたよー」

あまりにも人間味の無い言葉に、ぼくの心は沸き立った。

「なんで死体を見ても平気なの?どうして 殺されるのを見て何とも思わないの!!」

「なんで、どうしてって、それしか言えないの? 聞くばっかりで何も考えないね、ユウ くんは」

ユイカちゃんの言葉にぼくは何も言えなかった。ナイフのように鋭く尖った言葉が胸に 突き刺さったみたいに感じた。

「さっ、雨が強くなる前に帰ろう。服と傘を用意してあるから、早く着替えて」

何事もなかったように、ユイカちゃんは服を差し出す。 ぼくは苦しくなって怖くなって、その場から逃げ出した。 雨に濡れて走った。顔に雨粒が当たり、痛い。心の中では血の雨が降っていた。服についた血が雨水と混じり合い、薄く滲んだ。叫びながら走った。

雨が強さを増した。叫び声 をかき消した。激しく落ちる水滴に打たれて、顔の感覚がわからない。自分が泣いているのかもわからない。冷え性の身体がひどく震えた。 遅いぼくの足は家に向かって、懸命に走り続けた。

田んぼに無数の波紋が浮かび上がり、 鏡のような水面が水飛沫で真っ白に染まっている。植えられた緑の苗が、寂しく、列をつくっ て並んでいた。 家のある山が見えた。薄暗い雲の下でそそり立つ杉山が、黒い要塞を思わせる。山を登った。全力で斜面を駆け上がる。砂利道が濡れて滑りやすい。息が絶え絶えになって喉が痛かった。

それでも走った。途中で、突き出た岩に躓き、転んだ。顔に勢いよくぶつかっ て鼻血が出た。身体中が痛かった。でも、心の方が痛くて何も感じなくなった。立ち上がって家へ走った。 ずぶ濡れ、泥まみれのぼくは家にたどり着いた。

「まあ、どうしたの! リナ!」

「これはまたひどいな。早く入りなさい」

おかあさんとおとうさんがぼくを出迎えてくれた。とっても温かくてやさしい。家に入 っても顔に水滴が流れていて、自分が泣いているとわかった。 良太がタオルを持ってきてくれた。身体を拭いて、きれいな服に着替えた。ヒーターで暖まりながら、傷ができたところを手当てしてもらった。うれしくて、うれしくて、たまらなかった。

ぼくは固めた決心を、さらに固めた。

「おかあさん、おとうさん、良太。話があるんだ・・・」

ぼくはこれまでに起きたことを家族に話した。ナイフのこと。ミーちゃんのこと。ぼく のこと。リナちゃんがおかしくなったこと。人を殺してしまったこと。トンネルのこと。 ユイカちゃんのこと。今さっき権太くんとノブ夫くんを殺したこと。 全部、話した。何度も、謝った。 許されないことをしたのに、家族はぼくを責めなかった。おかあさんは泣きながらぼくを抱きしめてくれた。おとうさんは、一緒に警察へ行こうと言ってくれた。良太は刑期が終わったら迎えに来てやる、と生意気なことを言った。

みんな、あったかくて涙がでた。 すべての元凶であるナイフを両親に渡した。もうこれでだれも死ぬことはない。ぼくが罪を、悲しみを全部受け入れる。


それがぼくの役目だから。


続く…


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