『僕と私の殺人日記』 その26
※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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金曜日
朝日が闇を貪り、眠らない夜を終わらせる。
吐き出された朝が夜明けを告げ、すべてを 照らし出す。 珍しく早く起きたリナちゃんは、窓から降り注ぐ朝日を浴びた。
「う~ん、たまには早起きもいいわー。今日も張り切って殺すわよー」
白く澄んだ光が有無を言わさず、ぼくたちを包み込む。心が洗われる気持ちになった。 でもきれいになれたのはぼくだけで、リナちゃんの心はどす黒くドロドロしているままで悲しくなった。
みんなで食卓についた。鮭の塩焼きに豆腐の入った味噌汁。どれもおいしかった。これが全部、命、だというのが不思議に感じる時がある。ぼくはそれを忘れて食べていた。
当たり前と思っていたけど、当然のように命を奪って食べていた。そんな自分が時々、恐ろ しくなった。
「そういえば、トンネルが崩れたんだってな。会社に有給を申請していたとはいえ、大変なことになったぞ」
「そうよね~。やっぱり古かったのかしら。町へ買い物しに行けないわ」
「もし、殺人犯がこの村にいたら、一巻の終わりだな。はっはっは」
「やだ、父さんたら、怖いこと言わないでよ。外に出れなくなっちゃうわ」
「それは悪いこと言っちゃったな。ごめん、ごめん」
怖がるおかあさんにおとうさんは冗談交じりに笑う。まさか、目の前でごはんを食べている実の娘が犯人だとは、思ってもみないようだ。
「わたし、出かけてくるね」
リナちゃんは朝ごはんを食べるや否や、席を立った。気持ちが先走っているのがぼくにはわかる。
「あら、もう出かけるの? 最近、よく外に出るわね?」
「えっとね、ユイカちゃんと楽しいことして遊んでるの。今日も遊ぶ約束をしてるんだ!」
「そうだったの。昼から雨が降るらしいから、気をつけて行ってらっしゃいね」
「そういえば、今日から六月か。梅雨の時期だな。早めに帰ってくるんだぞ」
「うん! 行ってきます!」 元気いっぱいに家を出たリナちゃんは、昨日、ユイカちゃんと約束した場所に向かった。 朝の空気はまだ冷えていて、弱い肌が凍りそうだった。
今日の空は曇っていて薄暗い。おかあさんの言っていた通り、雨が降りそうだ。リナちゃんはそう思い、急いで約束の場所へ走った。
「遅いぞ、リナ!」
「呼び出した人が遅れるのは、感心しませんね」
「まあまあ、ユイカたちが早かったんだよ。許してあげて」
約束した場所、学校には権太くん、ノブ夫くん、ユイカちゃんがいた。遅れたことに、 男子は怒っているようだ。
「しょうがないでしょ! うちが学校から一番遠いんだから。これでも走って来たのよ!」
リナちゃんも黙ってはいない。相変わらず男子とは仲が悪いようだ。
「それで、何でこんな時に遊ぶんだ?」とぶっきらぼうに言う権太くん
「そうですよ。殺人犯がこの村にいる可能性もあります。トンネルが通れるまで大人しくするべきではないですか?」と的確に指摘するノブ夫くん。
二人はあまり乗り気ではないらしい。朝早く呼び出されたのが、よほど不満なのだろう。 昨日、帰る前にユイカちゃんから提案があった。トンネル付近の住民が死んだことは、 まだだれも知られていない。騒ぎが大きくなる前に先手を打とう。
一番、警戒が強まるのは子供のいる家庭だ。だから、朝早く遊ぶようにでも言って、学校へ来てもらおう。ユイカが呼び出しておくから。
そんな感じで男子がここにいる。ぼくは戦慄した。正気の沙汰じゃない。リナちゃんはともかく、ユイカちゃんは何なんだ? どうしてそこまでして人殺しに協力するんだ? 何がこの子をそうさせるんだ?
「こんな時だからだよ。もし殺人犯がいたとしても、トンネルが通れるまでは隠れてると思うな。だって、電話とかはつながるんだよ? この状況でだれか殺しちゃったら、警察 にここにいるよって言ってるようなものじゃない?」
ユイカちゃんがフォローする。確かに、と二人は納得したようだった。
「学校もおやすみだし、暇でしょ? せっかく先生がいないんだから、だれもいない学校で思いっきり遊びましょ! きっと楽しいわ」
続けてリナちゃんが説得する。頭では二人を切り刻むことしか考えていない。
「遊ぶってどんな遊びだよ?」
「昼までですよ。雨が降りますから」
男子たちは少し興味を持ったようだった。 今、先生たちはいない。この町に教師はおらず、町からやってくる。だけど、トンネル の崩壊事故でこっちに来られない。学校でぼくらが何をしようと咎める者はいないのだ。 ちなみに良太は田んぼの手伝いに駆り出されている。
「それじゃ、リアルかくれんぼ!」
無邪気な声でユイカちゃんが提案する。
「何だ、それ? また変な遊び、考えやがって」
権太くんがあきれたように問いかける。
「えっとね、隠れた人が、鬼に見つかったら殺されちゃうの」
「それでどうなるのですか?」
「終わり」
「それ、面白いか?」
男子はやっぱり乗り気ではなかった。高学年の二人からすれば、今更かくれんぼなん て面白くないのかもしれない。
「お前、本当にろくでもない遊びしか言わないな」
「おやめなさい、権太くん。ユイカさんは『あの男の子供』ですよ。正常な考えができないのです。大目に見てやりましょう」
ノブ夫くんが権太くんをなだめる。権太くんは舌打ちして、落ちていた石ころを蹴った。 あの男の子供? ユイカちゃんのおとうさんのことだろうか。ぼくは疑問に思った。リナちゃんの記憶を辿ってみる。会った覚えはなかった。ユイカちゃんの家のだれも使っていない部屋。それだけしか情報はなかった。
一体、何をした人なのだろう。
続く…
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