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『僕と私の殺人日記』 その16

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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「やっちゃった・・・」

ぼくは大きなミスをしてしまった。捜査が村から町になるとわかって、安心していた。 そこにいきなり名前を聞かれて、うっかり、自分の名前を言ってしまったのだ。武富ユウはこの村に存在しない人間だ。

どうしよう。
もし、その名前がおかあさんとおとうさんに聞かれたら・・・。

ぼくはその不吉な想像を振り払った。 とにかく危機は去った。ぼくは悪く考えないように努めた。できる限りのことはやったのだ。自分を褒めてもいいはずだ。 少し胸が軽くなったぼくは家に帰ることにした。おかあさんにばれると大目玉だ。 家の方角に足を向ける。

「あれ? こんな所で何してるの?」

背後から声がした。振り返ると、ユイカちゃんが不思議そうな眼差しをぼくに向けている。

「え、えっと、家にいるのが退屈だから遊びに・・・」

「ふ~ん、殺人犯がうろついているかもしれないのに?」

しまった。言い訳には苦しかったか。それはそうと、ユイカちゃんこそ、なんでこんなところにいるんだ?

「まあ、もう帰るけど・・・ ユイカちゃんはどうしてここに?」

「面白そうだから」

「面白そう?」

何を言ってるんだ、この子。

「うん、ここが殺人現場だと聞いて見に来たの。この家の人、ナイフで刺されてたね。すごかった!」

「なんでそれが面白いの? 怖くないの?」

「全然。五年くらい前ね、似たような事件があったの。みんな殺されていってその時のス リルが楽しかった! また事件、起きてくれないかなあ」

く、狂ってる。 リナちゃんといい、この村の女の子はおかしな人しかいないのか?

「ユイカも暇だから、一緒に遊ぼう」

「で、でも、危ないし、家に帰らない?」

「え? 今日のリナちゃん、おかしいよ? いつもなら遊んでくれるじゃん」 ユイカちゃんは不審そうな顔をしていた。

「ひ、昼までならいいよ。外に出たのがばれたら、おかあさんに怒られちゃうんだ」

「あ、そういうこと! ユイカもおかあさんに内緒で来たの。じゃあ、ちょっとだけ遊んで帰ろう!」

ユイカちゃんは明るく言った。なんとかぼくのことはばれなかったけど、気が抜けない。 しばらくはリナちゃんの演技を続けなければならないのだ。

「何して遊ぶの?」

「ヘビ殺しゲーム!」

「何それ?」

「えっとね、田んぼにいるヘビを探して、先に殺した方が勝ち」

「それで?」

「終わり」

「それって面白いの?」

趣味が悪そうなゲームだったけど、変に疑われたくなかったし、昼まで探すふりをすれば乗り切れると考え、その遊びをすることにした。 ぼくたちは適当な畔に行き、伸びた草を掻き分けながらヘビを探した。 畔と田んぼの境には電気の柵が設置されていて、針金のような電線に強烈な電流が走っている。イノシシなどの害獣に、田んぼを荒らさせないようにするための仕掛けだ。うちの田んぼにも設置してある。

転ばないように気をつける。当たったら死ぬかも知れない。何気に命がけなのだ。 探す気のないぼくは、これからのことを考えていた。あのこわもておじさんはまた話をしようと言っていた。つまりまた、村に来るということだ。その時にぼく、いや、リナち ゃんの名前が『ユウ』ではないと知ったら、どう思われるだろう。 偽名を使っていた。そう思われるにちがいなかった。きっと怪しまれて、家の中を調べられて、あのナイフが見つかって・・・。

でも、子供の言うことだ。完全に信じているわけでもないはず。そうだ、悪く考え過ぎていたのだ。ぼくの悪い癖だ。 そんなことを思っていると、草むらから黒い紐が現れた。それがにょろにょろ動いている。

ヘビだった。 大きさは小さく、つやのある黒い鱗が光沢を放っていた。どこからだかわからない首を上げて、細く赤い舌をひっきりなしに出したり戻したりしている。

恐かった。多分、毒蛇ではないと思う。それでも恐くて仕方ない。 異様な形の生物に、ぼくは手も足も出なかった。本当に手も足もないのはヘビの方な のに。

「リナちゃん! これ使って!」

ぼくの異変に気付いたユイカちゃんがそばまで駆け寄ってきた。その手にはどこから持ってきたのか鎌が握られている。それを強引にぼくの手へ渡した。

「無理だよ。殺せないよ!」

「大丈夫。落ち着いてやればうまくいくよ」

鎌を持たせたぼくの手に、ユイカちゃんは両手でぎゅっと握りしめた。小さな手のぬくもりが手の甲に感じる。熱くて生命力に溢れていた。

「こう構えて・・・そう、ゆっくり近づいて・・・」

そっとユイカちゃんが顔を近づける。吐く息が、ぼくの首筋に当たってくすぐったい。 黒く長い髪からいい匂いがした。

「いい感じ・・・。しっかり鎌を握って・・・」

悪魔の囁きのようにユイカちゃんの声がぼくの身体を突き動かす。持っていた鎌に力がこもる。

「今よ! そいや!」 かけ声とともにぼくたちは鎌を振るった。

曲線を描いて鎌の先がヘビの頭部に当たり、 貫通した。 鎌に刺さったヘビはしばらくブンブンとしっぽを振り回していたが、やがて動かなくなった。 その瞬間、恒例の入れ替わりが発動した。身体がリナちゃんのものとなる。

「今回は引き分けだね。残念!」

「何が残念よ! わたしの獲物を横取りしようとしたでしょう!」

「まさか~。武器を調達したのはユイカだよ。むしろ感謝してほしいな」

「しょうがないわね。許してあげる」

リナちゃんは持っていた鎌で死んだヘビの胴体を切り刻んだ。ユイカちゃんにも鎌を渡して交互に細切れにした。 事を楽しんだ後、ぐちゃぐちゃになったヘビを田んぼに捨てた。

「またね~」

元気よく手を振るユイカちゃんと別れ、リナちゃんは家に戻った。


続く…


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