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『僕と私の殺人日記』 その36

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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横にいたユイカちゃんがわたしを突き飛ばす。
銃弾はわたしの左肩をかすめて通り過ぎていく。わたしは手を着いて右側に倒れた。服が破けて、そこからじんわり赤い血が滲み出る。

「ほう、殺人鬼にも人の血は通っているらしい。なら、ここで大人しく死んだ方が、世の 中のためになるとは思わんか?」

わけのわからないこと言ってゴルじいは再び、わたしに銃口を向けた。 何が致命傷は避ける、だ。殺す気満々じゃない。こんなか弱い女の子を殺そうとするなんて最低だ! わたしは恐れとは別に怒りが込み上がってくる。

「ま、待ってよ! わたし、何もしてないよ。撃たないで!」

なんとか怒りを抑えて、命乞いをする。隙ができたら刺し殺してやる。

「儂の勘が言っておる。こいつはまた人を殺すぞ。早めに殺した方がいい」

「だから、違うって・・・」

正解だ。さすが日頃から野生の動物を相手にしているだけあって、勘がいい。わたしは、演技を続ける。

「わたしは小学生よ! 人を殺せるわけがないでしょ!」

「知るか。儂は儂の直感を信じる。それにお前はもう人間ではない」

迫真の演技が通用せず、わたしは焦った。その時、身体を起こしてくれたユイカちゃんが耳打ちしてくる。わたしはその作戦に乗ることにした。

「悪いが村のために死んでくれ。その後は忌まわしい樫内の小娘じゃ」

ゴルじいが引き金を引こうとしたその瞬間、ユイカちゃんが座布団を投げた。わたしは言われた通り、身を屈める。そのすぐ後に、銃声が響いた。綿が舞う。どうやら座布団に命中したみたいだった。 座布団がゴルじいの視界を覆い、狙いを外させたのだ。あの銃は二発までしか続けて撃てない、とユイカちゃんが教えてくれた。

案の定、苦い顔をしたゴルじいは、銃に弾を込めようとしていた。

すぐにわたしは集会所を出た。ナイフをポケットから取り出して柄から刃を出す暇はないと思ったからだ。あのまま殺そうとすれば、確実に撃たれるような気がした。それだけあのおじいさんがただ者じゃないということだ。

「待て! 絶対に逃がさんぞ!」

銃に弾を込め終ったゴルじいが追いかけてきた。とてもお年寄りとは思えないほど、しっかりした走りだった。だけど、かけっこなら負ける気がしない。

ユイカちゃんが言っていたことは当たっていた。走っている間は撃ってこない。長い銃は動きながら撃つには適していないようだ。これならひとまず安心だった。

わたしは神社のある山へ向かった。石階段があるところを通り過ぎ、山の裏手に回る。 山のかたちに沿って道を走った。途中に見える緑の山々や田んぼが太陽に照らされて、よ り濃くその色を際立たせていた。 後ろを振り向くと、ゴルじいはまだ追いかけてきていた。

恐ろしく元気なじいさんだとあきれた。早く、くたばって死ねばいいのに。 そう考えていると、山の方から道が見えた。神社につながる道だ。石階段とは違う別の道で、整備されておらず足場が悪い。わたしは迷わずそこに入る。道は細く、大の大人が 二人横に並べるくらいしかないけど、子供のわたしには楽勝だ。

「絶対に逃さんぞ!」

ゴルじいの怒号が聞こえる。山道に入ったようだ。若葉の生い茂った木々とくねくね曲がった細い道がわたしの姿を隠してくれる。少なくとも後ろから撃たれる心配はない。その上、昨日の雨で湿ったのか、落ち葉が濡れて音を立てることはなかった。位置を把握されることもない。 山道を抜けると、神社が現れた。道は神社の裏側につながっていた。体勢を低くして、 わたしは神社の下に潜り込んだ。

この神社は高床式になっていて、建物の下に広い空間がある。子供が入れるくらいの高さもある。そこをわたしは赤ちゃんが『はいはい』するように、進んだ。背の高い大人は なかなか下に目がいかない。子供にとっては絶好の隠れ場所なのだ。

床下には無数の小さなくぼみがあった。蟻地獄だ。蟻をつくった穴に落として食べる昆虫で、雨からしのげるこの場所をお気に入りにしている。 今のわたしは捕食される蟻のように無力だった。逃げることだけに集中しないと、いつの間にか死んでしまいそうで怖かった。 神社の下は涼しく、建物を支えている柱が何本も並んでいた。その間をくぐっていく。

建物の中心まで来た、その時だった。


続く…


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