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『僕と私の殺人日記』 その4

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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「サバイバルナイフ?」

ナイフに詳しくなかったが、無人島を脱出するテレビ番組で出演者が似たようなナイフを使っていたのを思い出した。
ゆっくり刃の平らな所を指でなぞる。冷たくて、恐ろしいほど滑らかだった。 よく見ると柄に溝があって、折り畳めるようになっているらしい。指を切ると大変なので、慎重に折り畳む。カシュンと音がして、きれいに柄へ納まった。 ちょうど、大きさも半分になって簡単に持ち運べそうだった。

「ここかー! ぶった切ってやる!」

いきなりユイカちゃんの声がした。わたしのいる部屋の扉を勢いよく開けて、獲物を探し始めた。

まずいと思ったわたしは紐を箱の中に入れて、天井裏に戻した。はずした板も閉める。 残ったナイフを急いでポケットに入れた。

ふすまが開いたのは、それとほぼ同時だった。

「いた! 真剣白刃切り!」

おもちゃの刀でユイカちゃんはわたしを切りつけた。

「ぐわっ! やられたー」

「また、つまらぬものを切ってしまった」

決め台詞を言って、ユイカちゃんは指で作った鞘におもちゃの刀をおさめる。 満足したのか切り殺されたわたしをよそに、部屋の周りをぐるぐるステップする。つまらぬものらしいわたしは、しびれを切らす。

「そろそろいい?」

「ええ~、もう?」

「もうすぐお昼だから戻らないと」

「う~ん、面白かったから、いっか!」

わたしは何一つ面白くなかったが、収穫があったので許してやることにした。

「ばいばーい」 ユイカちゃんに見送られてわたしは家に戻った。

家は山の中にあるので、帰るのが大変だった。「行きはよいよい帰りは怖い」というやつだ。 照りつける太陽が嫌がらせをしているように思えてならない。いくら冷え性のわたしでも暑いものは暑いのだ。

「ただいま~」

「リナ! 遅いじゃない! そうめんが伸びちゃうでしょ!」

やっとの思いで帰ってきた娘に対して、おかあさんが怒ってきた。ちょっとひどい。お昼は思っていた通り、そうめんだった。愛しのコタツは布団がなくなって、ただのテーブルになっていた。悲しかった。

味気ないそうめんをさっさと食べて、わたしは自分の部屋に戻った。逆に言えば、昼が貧相なほど、夜が豪華なのだ。今回の誕生日会は期待できそうだった。 ポケットに入っているものを服越しに触った。硬い感触が確かにここ入っているぞと主張しているみたいだった。わたしはポケットから収穫品を取り出した。

折り畳み式のサバ イバルナイフで、あらためて明るいところで見ると重厚感がある。まるで映画やアニメに出てきそうなナイフだった。 刃は柄に納められていて、その太く滑らかな銀色が外に出たいぞと訴えている。刃の背を指でつかんで引っ張ってみる。危険防止のためなのか、そう簡単に開かなかった。今度は しっかり刃をつかみ、力一杯、引っ張る。刃が少しずつ現れて、凶悪なナイフのかたちになった。

太い刃が蛍光灯の光を取り込み、周囲へ放つ。長くて小さな鏡みたいになってわたしの顔を映した。その顔はなぜか笑っていた。 いてもったっていられなくなった。この切れ味を早く試したい。わたしは外に出ることにした。 なんだかナイフが早く切らせろ! と耳元で囁いてくるのだ。その誘惑に勝てず、居ても立っても居られなくなる。

「いってきま~す」

「あら、どうしたの? 朝とは大違いじゃない」

「昼はあったかいから大丈夫なの!」

おかあさんにばれると面倒なので、怪しまれないように応える。ナイフは折り畳んでポケットに入れてある。 家を出て、標的を探す。近くに生えていた花を切ってみることにした。刃を出してしっかり柄をにぎる。そして思い切り、振り抜いた。スパッと茎の部分が切れて花は地面に落ちた。すごい切れ味だった。もっと切りたい。そこらへんに生えていた長い草を勢いよく切る。密集していた草がまとめて切れた。草刈り機で切った後みたいになって、気持ちよかった。

次は何を切ろう。周りを見る。見渡す限り、杉の木ばかりだった。背の高い杉は上の方に枝が生えている。テレビみたいに枝をズパズパ切ってみたのにできそうになかった。

山を下りることにした。田んぼが連なって茶色一色だった。そこに緑の線が引かれて図形を作り出している。茶色が耕された土で、緑の線が畦だ。 麓まで下りたところで、遠くの方から発砲音が聞こえた。この村には一人、猟師をするおじいさんがいる。山に行って狩猟をしているのだ。この村を囲む山々には、田んぼを荒らすイノシシのほかに、鹿や熊がいる。そんな危険な動物をたった一人で狩っているすごい人だ。

わたしも狩りがしたくなって腕がうずいた。


続く…



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