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『僕と私の殺人日記』 その27

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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「何の話? ユイカちゃんのおとうさんが、どうかしたの?」

「おや、そういえばリナさんはあの事件より後に来たのでしたね。あまり詳しく聞かされ ていないみたいだ。五年前、この村で起きた事件のことを」

「それくらい知ってるよ! 男の人が村の人をいっぱい殺したやつでしょう?」

「その男の子供が、この女ってことは聞いたか?」

「え?」

リナちゃんとぼくは言葉を失った。事件のことをリナちゃんは両親から聞いていた。ぼくはその記憶を見た。

でも、犯人の子供がユイカちゃんだとは知らなかった。確か、犯人は自殺したらしい。だとすると、ユイカちゃんのおとうさんはもう死んでいることになる。

「ちょっと、聞いて無いわよ! なんで言ってくれないのよ!ユイカちゃん!」

「それを話したところで、どうだというの?」

辺りの空気が冷えた気がした。
ユイカちゃんの目が冷たくて、暗くよどんでいるように見える。薄気味悪い気を纏って、静かに見つめてくる表情が人間とは全く別の生き物を感じさせた。男子たちも思わず息を飲んでいた。

「それは、その・・・」

「冗談、冗談。気にしてないよ! おとうさんのことはどうでもいいから話してないだけ。 さ、みんなで楽しく遊ぼ!」

「う、うん」

一瞬だけ見せたユイカちゃんの表情に、リナちゃんはたじろいでいた。この世の恐ろしいものを一つに集めたような顔。幼い女の子にその父親は、一体何をしたのだろう。

考えるだけでも怖かった。ユイカちゃんがゆがんだことを言い出すのは父親のせいなのか。事件のせいなのか。それとも、元々なのか・・・。

「じゃあ、男子対女子でやろうよ! 負けたらあの世行きね!」

「あーわかったよ。やればいいんだろ、やれば。で、どっちが隠れるんだ?」

「じゃんけんで決めよ!」

ユイカちゃんの気迫に押されたのか、男子たちはしぶしぶ遊びに参加した。 じゃんけんをして男子が隠れる役、女子が鬼の役に決まった。

順番にあまり意味が無い。 男子が鬼になっても、第二回戦で女子が鬼になるだろう。でも、その方が彼らの寿命は延びた。どうすることもできないぼくは、ただ悲しんだ。

「数えるねー。いーち、にー」

女子たちが木に寄り添って数え始めた。ぼくには死のカウントダウンにしか聞こえなかった。男子たちの足音が遠のいて、校庭に消えた。

これから本当のリアルかくれんぼが始まる。男子はおかしな女の子の冗談と思っているにちがいない。

しかし、ユイカちゃんの言葉は本気なのだ。止める大人がいない学校で子供たちが殺される。 ぼくは、ある決心を固めた。

「ろくじゅう! それじゃ、男子狩りに行こっか。リナちゃん」

「そうだね。今度はどうやって殺そうかな。ユイカちゃん」

悪魔のような死神たちが動き出す。憎しみなど無い、純粋な殺意が放たれる。 ぼくはこの二人に立ち向かわなくてはいけない。 せめて一人だけでも救う。 これが今のぼくにできる最大限の反抗だ。

だから、ごめんなさい。ぼくが出てくるにはそれしかない。本当にごめんなさい。ぼくは泣いて謝った。それはもう一人を見捨てるこ とになるから・・・。

「う~ん。いないな~。どこに隠れた、男子ども!」

リナちゃんはサバイバルナイフの刃を出して校内をうろつく。普通の学校では有り得ない状況だ。刃物を振り回して徘徊するリナちゃんは、まるでホラー映画の殺人鬼のようだった。

ぼくはリナちゃんの視線でしか周りを見ることができないが、はたから見たらとんでもない絵面であることは間違いない。

木造の校舎は戸締りがお粗末で、子供たちはどこからでも入れる。トイレの窓や壊れた壁の穴から入れることを知っている。

大人たちはそのことを知らない。劣化が進んだ学校のセキュリティは、発泡スチロールより脆いのだ。

古い木の床の廊下は歩くたびに軋み、ギィ、ギィ、と音を立てる。教室には鍵がかかっていて中には入れない。だからと言って入れないわけじゃない。たまに窓の鍵を閉め忘れていることもある。窓に手をかけて確認すれば、すぐにわかる。

「全部、鍵がかかってる。次はトイレね」 女子トイレの中を覗く。だれもいない。今度は男子トイレに入る。すると、個室トイレ の一番奥の扉だけが閉まっていた。開けようとしても、鍵がかかっていて開けられない。

「ちょっと、出てきなさいよ! ずるいわよ!」 ガンガン扉を叩いて、リナちゃんは叫ぶ。渾身の力で蹴ってみても扉はびくともしなかった。

「こうなったら仕方ない。こうしてやる!」

トイレの扉にリナちゃんはナイフを突き刺した。鍵のある部分を狙う。やがて鍵が壊れて、扉が開いた。そこにはだれもいなかった。


続く…


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