『僕と私の殺人日記』 その39
※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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そしてだれも・・・
ユイカちゃんの家に着くと、辺りは夕日に包まれていた。赤い光りが田んぼの水面に反射し、村が血に染まったように見える。
今日も一日が終わる。
長く、苦しく、残酷な一日が。
ぼくは泣かなかった。
だれが殺されても、決して泣かなかった。
ぼくのせいで多くの人が死んだ。入れ替わりさえしなければ、こんなことにはならなかった。
おかあさんもおとうさんも良太も、死ななかった。
リナちゃんがやったことは、ぼくがやったこと。
ぼくが殺したんだ。
だから泣かない。
強くならないといけない。
ぼくはこれから人を殺さなければならない。
一番の友だちを・・・。
玄関を入ったリナちゃんは家の中を探した。リナちゃんの足取りには、一切の迷いがない。
まるで、いる場所がわかっているようにずんずんと進む。その右手には、血に濡れた ナイフが握られている。
血まみれのサバイバルナイフ。その柄の黒は最初からその色だったのだろうか。血に染まり、黒くなったのではないだろうか。
だとしたら、その死の黒は、かつて人を生かすために流れていた赤なのだと忘れてはならない。色は変わっても、確かに同じ『命』だったのだから。
ある部屋の前でリナちゃんは止まった。鍵はかかっていない。中に入ると、だれかが机の上に座っていた。まるでこっちを待っていたように静かだった。
「ユイカちゃん、終わったよ」
「楽しかった?」
「うん! 最高だった」
ユイカちゃんはそれを聞いて、うれしそうに微笑んだ。
「この村の人、全員殺したい?」
聞き逃してしまいそうになるほど、ユイカちゃんは自然に聞いた。
「うん! 殺したい!」
「そう・・・。じゃあ、外に出ましょう。あの大きな木の下がいいわ」
外はすでに色を変えていた。わずかな時間にだけ見える景色をつくり出していた。
二人の女の子たちは、夕日の中を歩いた。 薄く、赤く染まる道に小さな身体から影が長く伸びている。田んぼの中に立っている 電柱が地面に映り、二つの影と重なる。風が水田に吹き、波立った赤い水面が苗へと血を送っているように見えた。
「ねえ、もうユウくんに入れ替わらないの?」
「全然。どれだけ殺しても変わらなかった。わたしが完全に慣れたからかな」
「残念ね。もう一度だけ話してみたかったのに」
ぼくも話してみたかった。だけどその願いはもうかなえられない。
「この場所だよね。ユイカちゃんが警察からわたしを守ってくれたの」
「あの時はユウくんだったけどね」
あの約束の木に到着する。ぼくの正体がユイカちゃんに気づかれた時のことを思い出す。 疑いもなく信じてくれた。ちゃんとぼくの名前を呼んでくれた。
だけど・・・
ごめんなさい。 死んでください。死んでください。死んでください。死んでください。 こんなことを思ってごめんなさい。 ごめんなさい・・・。
「きれいね」 夕日を見て、ユイカちゃんがつぶやく。
二人は田んぼの畔に座って、景色を眺める。
「わたし、夕方が一番好き。血の色に似ているから」
リナちゃんが目を輝かせる。
「ふふ、そうね。こうやって照らされると、ユイカの髪もリナちゃんとお揃いだね」
ユイカちゃんの黒くて長い髪が、夕日で赤く染まり、リナちゃんの赤茶色の長い髪と同じになる。 太陽より輝くやさしい笑顔を、ユイカちゃんは見せた。
ぼくはそれが可愛くて、どきどきした。それからとてもやるせなくなった。
「そろそろ時間ね」
そう言ってユイカちゃんは立ち上がる。それを見てリナちゃんも立ち上がる。ナイフをしっかり握って。 自然の風景が二人だけを残す。
「わたし、ユイカちゃん大好き」
「ユイカもリナちゃん、大好き」
夕日で照らされた淡く赤い水田に、赤よりも紅い血しぶきが降り注いだ。
赤に染まる世界の中、ぼくはユイカちゃんの家に向かった。腕にはユイカちゃんを抱えている。彼女は首を切られて死んでいた。 田んぼ道に血が垂れる。生きた証のように、道へその色を刻む。
家に着くと、さっき出て行ったばかりのユイカちゃんを思い浮かんだ。物悲しそうに、 何かの別れを告げるように、自分の家を見ていた。
廊下を通る。居間ではおばさんが死んでいた。その横にユイカちゃんの死体を向かい合わせに寝かした。親子が寄り添っているようだった。 手を合わせて、ぼくは拝んだ。これくらいしかできなかった。
せめて、安らかに眠ってほしいと願った。
続く…
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