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『僕と私の殺人日記』 その29

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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音楽室を出たリナちゃんは、権太くんの姿を捉える。階段を降りようとしていた。

「逃がすか!」

階段を下りる二つの足音が学校内にこだまする。
一つは一段、一段、小刻みに足を動かす音。
もう一つは二段、三段、階段をすっ飛ばして駆け降りていく音。


権太くんが逃げる。 リナちゃんが追いかける。差は確実に縮まっていく。 階段は途中で、Uターンする。権太くんは方向を変えるのにスピードを落としてしまう。 リナちゃんは勢いがついて、曲がれそうもない。だけど、手摺をつかんで器用に方向転換する。

視界には、権太くんの背中が大きく映っていた。 ぼくはある異変に気づいた。それはとても恐ろしいことだった。


殺したのに入れ替わらない。

何が起こっているのかわからなかった。ノブ夫くんが生きていた? でも、あのけがで 生きているようには到底見えない。

完全に死んだはず。なら、なんで入れ替わらず、リナ ちゃんが権太くんを追っているんだ?

『入れ替わり』にはまだ、ぼくたちの知らないほかのルールがあるのだろうか。

ぼくは入れ替わった後、権太くんを逃がすつもりだったのに。そして、その後、殺人犯がぼくたちだと家族に打ち明けるはずだったのに・・・。

ぼくの決意が、判断が遅いせいで、人がどんどん死んでいく。本当に罪なのは人を殺し たことじゃない。自分の罪を認めなかったことだったんだ・・・。

「あんたがわたしから逃げられるわけないでしょ! のろま!」

リナちゃんは権太くんにあっさり追い着き、タッチの代わりにナイフで肩を刺した。

「いっでええええ!」

権太くんが叫びながら倒れる。肩を痛そうに押さえて、暴れた。砂が舞う。権太くんは 運動場に出たところで捕まってしまった。

「無様ね。ガキ大将が聞いてあきれるわ」

「なんなんだよ、お前! 何がしたいんだよ!」

「何って、決まってるでしょ。人を殺したいのよ。この遊びもあなたたちを殺すためにやってるの」

「村の殺人犯は・・・お前、なのか?」

「そうよ。きれいに殺せたわ」

そう言うとリナちゃんは、権太くんが肩を押さえていた手を刺した。 悲鳴を上げて権太くんは転がる。砂が服や身体についても構わずに、動き回っていた。

「はあ、はあ、やっと追いついた。リナちゃん、捕まえた?」

遅れてユイカちゃんが追いつく。膝を抱えて、息を切らしている。

「ねえ、ユイカちゃん。ノブ夫くん、死んでた?」

「え? 死んでたけど、どうかしたの?」

「入れ替わらないのよ、ユウくんと。てっきり、まだノブ夫くんが生きてると思ったんだけど・・・。おかしいわね」

リナちゃんも気づいたようだった。入れ替わりの異変に。

「そういえば! 殺せばユウくんが出てくるもんね。 うーん、もしかすると・・・」

「もしかすると?」

「ほら、あなたたちって真逆の性格でしょ? 多分だけど、ユウくんはリナちゃんの弱い心の部分だと思うの。だから人を殺した時のショックをユウくんが肩代わりしてるんじゃないかな」

ユイカちゃんの指摘は当たっていた。でも、それが入れ替わりとどう関係しているのだろう。ぼくは話に耳を傾けた。

「そういえば、夢でユウくんがそんなこと言ってたような気がする」

「やっぱり。それでそのショックを和らげるためにユウくんが出てくるのかも。逆にリナちゃんが出てくるのは、ユウくん自身がショックに耐えきれずに引きこもっちゃうからかな」

「そっか。でも、それが入れ替わらなくなったのと関係あるの?」

「うーんとね、どういえばいいのかな。これも多分だけど、リナちゃんは慣れちゃったんだよ。きっと」

「慣れた?」

リナちゃんとぼくの疑問が重なった。ユイカちゃんの話はあまりにも予想外だった。リナちゃんが人殺しに慣れたから? どういうことなの?

「お互いがショックから身を守るために入れ替わったのだとしたら、慣れれば段々ショックはなくなっていって、入れ替わる必要が無くなる。そんな感じかな」

「すごい! ユイカちゃん、頭いい!」

話を聞いてリナちゃんは感嘆の声を上げる。 ぼくは怖くなった。もしかしたら、永久に出られなくなるかもしれないのだ。

このとんでもなく凶悪な殺人鬼が野放し状態になる。そうなれば犠牲者はさらに増える。

ぼくは心の中でうずくまった。


続く…


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