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雑貨屋『このは』のお話。

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自宅への帰り道。森山里子は、偶然、不思議な雑貨屋『このは』に足を踏み入れる。棚には様々なお皿やカップが並ぶ。奥から現れたのは、とてもおどおどした店員さん。でも、この店員さん、実は…
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雑貨屋『このは』のお話。(その4)

雑貨屋『このは』のお話。(その4)

 カウンターの上に個性豊かなお皿やカップが並ぶ。ポスターを作るために、私ともみじさんが選びだした逸品だ。どれも紹介したいものばかりで、なかなか絞り込むことができない。本当は全部ポスターに載せたいと思うほど、魅力的だ。けれど数が多いと、その分、写真も小さくなってしまい、魅力が伝わらない。
「どうしたものでしょうか……」
 もみじさんも腕組みをして悩んでいる様子。自分と友達とで一生懸命作ったものであれ

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雑貨屋『このは』のお話。(その3)「雨の土曜日」

雑貨屋『このは』のお話。(その3)「雨の土曜日」

「来ませんねぇ」と、私。
「来ませんねぇ」と、もみじさん。
 ここは商店街からちょっと外れた場所にある雑貨屋『このは』。
 今日は土曜日。
 私と店長のもみじさんは、お店のカウンターで二人並んで窓の外を見つめていた。お客のいない店内には、雨が奏でるBGMが静かに流れている。
 本業が休みだった私は、いつお客さんが来ても大丈夫なように、朝からもみじさんと店の掃除をし、レイアウトを整え、接客の練習をし

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雑貨屋『このは』のお話。その2

「お先に失礼します」
少し緊張しながら、私は部署を後にした。
「お、森山さん、今日は早いね」
休憩室の自販機の前にいた先輩が笑顔で言う。
「はい。ちょっと勉強を始めたので」
ーー嘘ではない。一瞬、「ボランティアをすることになった」と言おうかと思ったけれど、雑貨屋『このは』で働く事は、もみじさんのためというより、私のためだ。そこで出てきたのが「勉強」という言葉だった。
「森山さんは偉いなぁ。真面目だ

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雑貨屋『このは』のお話

雑貨屋『このは』のお話

いつもの帰り道。

人通りもまばらになった駅前の商店街を抜けてアパートを目指す。就職してから5年目。通い慣れたいつもの道。

頭の中は仕事、仕事、仕事。その隙間に、申し訳程度に、推しの新曲と今日の夕飯の心配が浮かぶ。

別に仕事が嫌いというわけではないが(かといって一生をかけたいと思うほどの情熱もない)、ここまで仕事中心の日々が続くと、ふと心にすきま風を感じてしまう。

ーー私、ずっとこのまま、仕

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