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「病んでしまった作者の成れの果て」(短編小説)

とある元人気小説の作者がいた。
その作者は、10年前にとある作品で新人賞を受賞し、その後も小説界隈を賑わせていくと思われていた。



しかし、5年前に発表した作品と4年前に発表した作品、計2作が一切売れず、かなり病んでしまい、4年前から今まで作品を発表したことはない。



そして4年間休み、少しずつ心も落ち着いてきたため、また筆を取ろうとしていた。



今度の作品は、この作者にとって初めての試みとなるファンタジー作品を書き始めた。



4年ぶり、そして初めてとなるファンタジー作品。
小説を書くに当たって忘れていたこともあったが、なんとか筆は進んでいた。



なんとか全350ページの予定で書き進めていたのだが...
そんな矢先。



小説内のキャラが暴れだしたのである。



ファンタジー作品なのに、なぜ誰も殺させてくれないんだ、と...。



仕方がない。
この作者の作品は基本、暖かい作品なのだ。
10年前に新人賞を受賞した作品も家族の暖かみを感じられる作品だったのだ。



そのため、モンスターは倒さない、魔王は出てこない...
そんな作品になりかけていたのである。



そして小説内のキャラは大暴走。
暴走を抑えるため、作者は小説のキャラに言い聞かせる。



「僕の作品は暖かみを感じられる作品、というのをテーマに書いているんだ!そんな作品で殺すシーンを入れてしまっては意味がないだろう」



しかし、キャラも反抗する。



「ここはファンタジーの世界だ。魔法も剣も何もかもありなんだよ!なのに、なのに、なぜモンスターを殺さない!」



作者は言う。



「僕が殺しのシーンを書いてしまったら、これからの小説のキャリアに傷がつく。暖かい作品を書く作者では無くなる。だから、殺す訳にはいかないんだよ!だからお前には僕の操り人形になってもらうからな」



そう言い、作者は立ち去ろうとした。
その瞬間、キャラは剣を取り出し、こう叫んだ。



「ここは、俺たちの世界だ。俺たちのやり方で物語を進ませてやる」

そして作者は自分が作ったキャラに斬られたのだ。



「これで、この物語の作者は俺たちだ」



もちろん、現実世界でこの作者が死んだ訳ではないのだが、作者がキャラたちの操り人形になってしまった。




殺伐としたシーンあり、涙を流すシーンあり...
結局はなかなか良い作品に仕上がっていった。



その後、期限通りに書き終わり、何一つ滞ることなく発売まで済まされた。



発売して3日。
編集社から作者に連絡が入った。



「あの作品、重版かかったんですって!これからの時代、また小説界隈を盛り上げていってくださいよ!」



結果的には結構な人気が出た。



3ヶ月後。
あの小説がシリーズ化することが決まったという。



そして作者とキャラは同盟関係を組み、手を繋いだという...。



そして5年後。
その作品のアニメ化の話がやってきたとさ。




おわり。

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