【小説】不思議なTELのアリス 第3話 ジョーカー王子
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城に着いたときアリスは目を疑った。広大な草原にはあまりにも似合わない金一色で作られた建築物がそびえ建っていたからだ。
「ここがジョーカー城だ」
五月ウサギが鼻を鳴らして言ったが、アリスは言葉を失っていた。彼が言っていた通りの悪趣味さが建物の形からも溢れ出ていたからだ。
「随分と個性的なお城ね」
なんとかアリスは言葉を絞り出して見せるが声は震えていた。五月ウサギは「そうだろう」と笑って答える。城に近づくにつれて足取りが重くなったようにアリスは遅くなる。それに気づいた五月ウサギは首を傾げた。
「どうしたんだ。もう目の前だぞ」
「いえ、ちょっと」
何かを言い淀むようにしてアリスは城門に目を向けた。それを見て五月ウサギも何かを察したようだった。
「あれはジョーカー王子のあごを再現した城門だ。ここでも評判は良くないが兵士たちが持ち上げるからな、本人は満足しているみたいだ」
呆れたように鼻を鳴らす五月ウサギにアリスも本人に会う前から気持ちがゲンナリしてしまう。それでも元の場所に戻るためには行かなければいけないと自分を鼓舞して再び彼女は歩き出した。
「城に着いたら兵士に声をかけて王子に謁見する。まぁ、会うまでなら簡単にできるだろう」
「会うまで、ってその先はどうなの」
「さぁな、そこからはオレの知るところじゃない。探し物をするならジョーカー城、ってだけであってテレワープに関しては自分で聞くしかない」
「そんな、最後まで手伝ってくれないの」
そうアリスが声をかけたところで五月ウサギは城門へと駆け出していた。いつの間にか五月ウサギが手伝ってくれるものだと思い込んでしまっていた。
「おう、あとはこいつらが連れて行ってくれるそうだ」
城門から戻ってきた五月ウサギは兵士を数人連れて帰ってきてアリスにそう告げた。少し寂しい気持ちが彼女の中にはあったが「ありがとう」と感謝を伝える。
「それではこちらへ」
兵士の一人がアリスを城門の方へ誘導していく。五月ウサギは何も言わないまま彼女の背中を見送った。
「貴様が」
城の中で通されたのは豪奢な椅子が一つだけある部屋だった。その椅子に腰掛ける男は普通の顔をしておりアリスは困惑した。五月ウサギの話ではジョーカー王子のあごは大きい、と聞いていたからだ。
「貴様がオレ様のあごを奪ってテレワープした女の代わりに来たのは」
怒りの籠った声にアリスは身を震わせた。何か弁明をするべきかと考えるも全てが逆効果になりそうなのは明らかだった。
「このジョー王家の誇りであるあごを奪うとは絶対に許せん」
そう王子は言って立ち上がりアリスに近づいてくる。その威圧にアリスは完全に飲み込まれていた。
「貴様が代わりに来たのなら、この怒り貴様で晴らさせてもらう」
王子の言葉に兵士がアリスを囲む。いつの間にか槍で武装しており鋒が彼女に向けられる。命の危機に頭の中は真っ白になりながらもアリスは声を上げていた。
「私があなたのあごを取り返します」
つづく
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