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パリ節約自炊生活番外編 入浴文化から考える文化間の価値観・概念の違い

先日、フランス人に対して日本の入浴文化を説明するという稀有な機会に恵まれました。日本の電化製品や和食に対しては無条件の賞賛をくれるフランス人ですが、入浴文化を紹介したところ、大変面白い反応があったので紹介します。
勿論超絶忙しい現代社会で全ての日本人が毎日入浴しているとは当然思っていませんし、私が東京で働いていた時もお湯を溜めることは殆どありませんでした。しかし、暖かいお湯に浸かりお風呂に入ることを日本人が癒しと感じる事は普遍的な価値観だと思います。
そんな日本人の入浴文化について紹介した際のフランス人の素直な反応をお伝えする事で、入浴文化から考える文化間の価値観や概念の違いについてお伝えしたいと思います。

◆20分〜60分風呂に入るとか、超暇じゃない?
フランス人にとってバスタイムはパパッと汚れを落とす場所でしかなく、大切な生活の一部という概念では無いようです。したがって「そんなにバスルームに居ても暇じゃない?」という質問が出るのは当然です。私からは、例としてTV付きのバスルームや、某社の完全防水テレビを紹介しました。個人的には入浴時間はカラオケルームであり、ストレス発散の場であると説明して、何となく納得してもらいました。

◆日本人は長時間働いて、更に睡眠時間を割いて風呂に入るの?意味わから無い!!寝れば??
日本人の長時間労働は世界的にも有名な様で、何故睡眠時間を削ってまで風呂に入るのか?と問われました。前述の通り、フランス人にとってバスタイムは手っ取り早く汚れを落とす場所でしかなく、それ故に入浴時間=癒しという概念が無いようです。説明は難しかったのですが、日本人は風呂に浸かる事で癒されているし翌日の活力を得ている、と説明しました。

◆すぐぬるくならないの?
この質問をもらうまで、私は加熱機能を前提に話をしていた、という事に気付かされました。以前もご紹介したようにフランスでは古い建物も多く電気での加熱が一般的でガスは普及していない事や、お湯は加熱して貯蔵しておくのが一般的な為、日本のようにお風呂を一定温度に保つ為加熱する、保温すると言う概念が無いのです。各家庭にお湯を再加熱する仕組みが備えられていると説明すると、一様に「へぇ〜」という感じでした。

◆水もったい無くない?
エコ意識が高いフランス人にとって、毎日湯船をお湯で満たすと言う事は“水の無駄遣い”と認識されるようです。もちろん、何が“無駄”なのかは歴史や文化背景に依って大きく異なりますが、私はこの質問をもらった時に、日本人は毎日風呂を溜める事が当たり前なのに、風呂に浸かる文化の無いフランス人はそれを水の無駄遣いと捉えるという、大変面白い差異を体感しました。
ちなみにフランスでは、ほぼ毎日町中の道を水を使った高圧洗浄機(ケルヒャー専用車と言えばわかりやすいでしょうか…)で清掃してくれるという公共サービスが存在します。そもそも犬の落し物を放置したり何でもポイ捨てするフランス人の文化が無ければ清掃サービスも不要なので、私としては何となく水がもったい無いと感じていたのですが、フランス人にとっては洗浄サービスは当たり前すぎてその水はもったい無いとは思わないわけです。
その辺りの詳細を議論している時間はなかったので、この質問に対しては、日本の一部の家庭では(私の実家の様に)お風呂の水を洗濯に使える様な洗濯機を日本企業は開発している、という話をして納得してもらいました。

◆洗濯に使うんだったら水汚く無い?
この質問も想定外でしたが、よく考えると私は洗い場と湯船が別れている事を前提として話している、と気づきました。フランスでは湯船=シャワールームなので、石鹸の泡が湯船に溜まるのは当たり前で、この質問が出るのは当然です。私の回答としては、日本人は体を流して清めてから湯船に浸かり、また外に出て石鹸で体を洗い、シャワーで綺麗に流してから、再度湯船に浸かるんだ、と説明しました。もうここまで行くとフランス人の理解を超えている様で、一様に「はぁ?」と言う様なボディランゲージをされました(笑)

◆まとめ:当たり前な事ほど当たり前じゃ無い
当たり前な事ほど当たり前すぎて、なかなか理解が難しいと思いますが、入浴文化の逆の話として例を挙げると、フランス人のクラスメイトが英語の先生に、「bon-appetit(ボナペティ)って英語で何と言うの?」と質問していました。先生の応えは「Have a nice lunch!」でしたが、フランス人にとっての「bon-appetit」は、「Have a nice lunch!」以上の深い意味や概念を持っている言葉です。日本語で無理やり表すなら、レストランのウェイターが言う「料理をお楽しみください」から、会社で同僚が言う「素敵なランチを!」から、お母さんの「召し上がれ」まで、立場に依って意味が大きく異なる、大変便利で汎用性の高い、フランス人にとってとても大切でかけがえのない挨拶なのです。
日本語でこの様な多義性を持つ言葉を探すなら、「よろしくお願いします」が適任かと思います。多義的すぎて、多様的すぎて、多国語に置き換える場合に一つの概念には収まらない言葉です。

其々の国の歴史や文化に基づいて、深く表現するべき言葉と重要性の低い言葉があり、そのまま訳するのは困難な言葉が数多く存在します。今回の経験を通じて大切な事は、誰かと話をするときに、自分の当たり前を当たり前として押し付けずに、違いや多様性や多義性を楽しむ事で、相手の価値観や概念の違いをそのまま受け入れ、楽しむ事だと思いました。
こんな事に気づく事ができるパリ自炊生活は、本当に指摘的で楽しく、かけがえのない毎日です。





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