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SECIモデルで考える「うちの旦那マジ気が利かない使えない」問題_東京爆誕子育生活

久々に友人達とZoomで話していてた時のこと。出だしから夫への愚痴と文句が炸裂し「うちの夫は気が利かない、使えない」エピソードの無限応酬。聞いている私は最初「コロナでみんなストレス溜まってるなぁ」位にしか思っていませんでしたが、家事負担の問題は今に始まった話ではありません。コロナ禍でなぜこんなにも問題が表出化したのか、そしてその理由と解決策について考えていたら、巡り巡ってSECIモデルに辿り着いたのでまとめてみることにしました。

増える家事負担、爆増する不公平感、募る憎悪

コロナ禍に伴う在宅時間の増加で、家事負担は間違いなく増えています。タスカジ研究所の調査では、57.6%の人が「以前より家事負担は大きくなった」と回答しているそうです。(*1)

でも良く考えてみると、夫婦それぞれの家事負担はコロナ以前から変わらない、むしろ夫の在宅勤務により在宅時間が増え、夫が家事を負担する余地が増えているはず。では、なぜここまで友人達の不満が増大しているのか。

キーワードは「だって家にいるから目につくじゃん、余計イラつくわ」です。今までは夫が家に居なかったため家事負担を期待せず諦めていた、ところが在宅勤務で夫が家に居るため「いるなら気付け、手伝え」になり、それが実現されないことで「気が利かない、使えない」となり、結果コロナ以前よりも「余計イラつく」になったと推察されます。つまり、家事負担が増加した以上に、不公平感の増大の方が問題なわけです。

見えざる家事の存在

在宅勤務になった夫の中には、家事負担がある程度増えたと感じている人も多いことでしょう。今までは物理的、時間的に負担できなかった家事を新たに担当することで、「よく家事をするようになった」と感じている男性も多いことでしょう。

しかしここには、「見えざる家事の存在」という大きな落とし穴があるのです。ここで事例として友人達の主張を抜粋してみます。

私(妻)が下着とかネットに入れて洗剤と柔軟剤もセットした状態で、あいつ(夫)が自分の着ていたものを突っ込んでボタン押すだけで「俺洗濯してるから」っておかしくない?
私(妻)が分別して袋に入れて玄関に置いておいたゴミ袋を、あいつ(夫)が収集所に持っていくだけで「俺ゴミ出し担当だから」っておかしくない?曜日ごとに分別したり、そのゴミ袋の在庫気にして買って補充しているのは誰か考えたことないわけ?
「俺(夫)おむつ担当」とか言ってるけど、いつも私(妻)が子どもの様子に気づいて「変えてあげて」って言ってからおむつ変えるの、それ担当として失格だし。自分で気付けって感じ。

お分かりいただけるでしょうか?「洗濯機のスイッチを入れる」「ゴミを収集所に持っていく」「おむつを変える」という行為も家事と言えますが、その前後にやらなければ行けない「見えざる家事」が大量にあり、それを夫が気づかない、負担しない事が不公平感増大の要因なのです。

この「見えざる家事」という妻が持つ暗黙知をどう可視化し、夫と共有し、最適な家事分担という創造的な家庭を実現するか。みなさんお分かりだと思いますが、これ経営学的にはナレッジマネジメント(*2)なわけです。

「いやいや家にいるなら私が大変なの見えるでしょうが、気づいて手伝えよ」という方も多いことでしょう。しかし、この「見て、気づいて、覚えろ」がどれだけ難しいかは、うなぎ屋さんを考えれば理解できるのではないでしょうか。うなぎという単一製品、単一ラインですら「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」と言われます。人生をかけた職人がお金をもらいながらでさえ、「見て、気づいて、覚える」事はこれだけ時間がかかるのです。ましてやマルチタスクに同時並行であらゆる問題を解決しなければならない、かつ金銭的インセンティブが弱い家事を「見て、気づいて、覚える」事は相当難易度が高いと言えます。

ではどうすればいいか。家事負担の不公平感をなくす事がナレッジマネジメントだとすれば、日本人が大好きなSECIモデル(*3)の登場です。

SECIモデルで考える家事のナレッジマネジメント

以下、野中=竹内のSECIモデルに基づき家事負担を考えてみます。SECIモデルについては様々な解説がありますが、こちらのHP(*4)が分かりやすいので馴染みのない方はご参照ください。

出所:Osamu Hasegawa Films

【共同化】Socializaiton:暗黙知→暗黙知
共同化とは、経験を共有することによって、認識値や技能などの暗黙知を創造するプロセスです。暗黙知を共有する鍵は「共体験」、経験をなんらかの形で共有しないがきり、他人の思考プロセスに入り込むことは難しいとされています。
家事負担で考えると、まずは妻が実際に行っている家事の全行程を、「見えざる家事」も含めて夫につぶさに観察させる必要があります。家事はマルチタスクなので、掃除や料理など単一工程ではなく24時間全ての行動を「金魚の糞」のごとく付き従えて全て見せる事が必要となります。かつ、ゴミ出しや掃除など1週間単位でスケジュールが組まれているものもあるため、最低2週間は金魚の糞が必要でしょう。

【表出化】Externalization:暗黙知→形式知
表出化とは、暗黙知を明確な概念に表すプロセスです。暗黙知がメタファー、アナロジー、コンセプト、仮説、モデルなどの形をとりながら次第に形式知として明示的になっていくプロセスです。表出化は、対話(ダイアローグ)・共同思考によって引き起こされます。
家事負担で考えると、コツやティップスを妻が言語化し、その理由や背景を夫が腹落ちするまで対話する課程といえます。例えば、「絡まるからタイツだけはネットに入れてね」「赤ちゃんの服を洗濯する時だけは柔軟剤を入れないで」「煮物を煮込むのに15分掛かるからこの間に洗い物をすると効率的」など、妻が暗黙的に持つコツやティップスをなるべく言語化して伝えます。それに対して夫は、その理由や背景を腹落ちするまで対話する必要があります。この際納得感を高めるために「仕事に置き換えるとどうか」などアナロジー(類推)の活用が有効だったりします。

【連結化】Combination:形式知→形式知
連結化とは、形式知同士を組み合わせてひとつの知識体系を作り出すプロセスです。この知識変換モードは、異なった形式知を組み合わせて新たな形式知を作り出します。
家事負担で考えると、妻の一連の家事を観察し腹落ちした上で、24時間や1週間の家事スケジュールとそれぞれの分担を可視化する段階です。この際重要なのは表出化段階までで洗い出した「見えざる家事」も含めて全てを可視化し、分担を決定する事です。

【内面化】Internalization:形式知→暗黙知
内面化とは、形式知を暗黙知へ身体化するプロセスです。形式化されたナレッジが、新たな個人へと内面化されることで、その個人と所属する組織の知的資産となります。
家事負担で考えると、この段階に達して初めて双方「言わなくてもやれる」状態になります。可視化した家事スケジュールが無くても気づいて動ける状態です。そして、新たに双方が気づいた暗黙値を改めて夫婦で共同化→表出化→連結化→内面化する、このプロセスこそが創造的な家事負担のあるべき姿と言えます。

結論、女子会って大事

夫婦と言えども二人寄れば組織、家庭と言えど成し遂げたいことがあれば経営の視点が必要です。本当に家事負担の問題を解決したいのであれば、上記のような理論に基づいた問題解決のアプローチが一つの策として有効であると言えます。

「てかそれ無理じゃない?」

はい、そうですね。書いていて私もそう思いました。そもそもSECIモデルのようなナレッジマネジメントを上手く組織内で実装できている企業が少ないからこそSECIモデルがこれ程までに日本人大好き理論になったという側面もあるでしょう。金銭的インセンティブが発生する企業ですら実装が難しいのですから、家庭内では更に実現は困難です。よって、元も子もない話ですが家事負担の不公平感という問題を解決する事はほぼ不可能であると言えます。

と言うわけで、結論としては女子会って大事!みんなで面白可笑しく愚痴を吐き出してストレス発散して、明日も元気に明るく生きていきましょう♫


*1…株式会社スタカジ
*2…Polanyi, M. (1966) The Tacit Dimension, University of Chicago Press.
Oxford University Press.
*4...Osamu Hasegawa Films

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