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2023.8.7制作した詩

【生暖かい罠】
先に広がるのは、別の悲しみと地獄
本物なのかも分からなくなった涙
心のない怒号
その日だけの愛

そんなこと、分かってる
とっくに分かっていたけど その地獄があったから
生きてこられた瞬間があった

泣きながら笑って
怒りながら喜んで
好きだといいながら憎み、蔑んで

人を人と思わなくてもいい瞬間
受け身で嘘を受け入れる時間
その罠から抜け出せる強さを探していた


【それだけいい恋】
「それだけでいい恋」をした

笑っていてくれるだけでいい
そばにいられるだけでいい
同じ空間にいられるだけでいい
生きていてくれるだけでおお

シンプルだけど
向ける気持ちは、軽くない

それだけでいい「愛」だった


【あの日の声】
間違っているのかもしれないと思って消す、自分の声

消しているのは、文字だけ?
心までも死んでいくような気がする

正しいと感じて打ち込む文字
「正しさ」の価値観なんて、ひどく曖昧で
誰視点かでも変わるのに

心の奥を探っても聞こえない声を
求められている「回答」を
さも、本音のように巧く響かせる

踏みつぶした声の重さ
自分でしか気づけない


【幸せじゃないから手を叩こう】
幸せでなくても手を叩いた
爆笑するフリをして
自然な喜びを表現するフリをして

幸せが何かも分からずに手を叩いた
音に誘われて、幸せがやってきてくれるような気がして
幸せが、私をようやく見つけてくれる気がして

幸せになりたかったから手を叩いた
幸せの意味も重みも分からぬままに

頭を空っぽにできる時間がある日常
心が笑う日がある人生
潤んだ瞳を探さなくてもいい夜

それが幸せだと気づいた、大人の私

また手を叩く
幸せのことも、幸せにしたくて


【天才の戯言】
「恵まれた人生」だと言える頭のおめでたさに嫌気がさした

傷、痛み、涙、作り笑い、ピエロの過去
知らないクセに

刃先を自分に当てた時の鼓動の歌も
涙の泉が枯れた絶望も
繰り返された明けない夜の暗さも
オブラートで包んで、なかったことにされた

知らない心がある
気付かなかった日々がある
薬が効かない傷がある

分かった気になるな、私の命
人生の処方箋なんてくれないくせに


【死亡推定時刻】
思っているよりもずっと、心を殺すのは簡単なことで

ナイフを突き立てなくても
感情の根元を締めなくても
呼吸は止まる

生きたがる体が面倒だ
息絶えた心は持て余すし

「生」に向かわない、私という物体A
こめかみにピストルを当てたまま生きていた


【風】
これから起きることなど、何も知らず
夜風を切った、仲良しの手

こだまする笑い声
見慣れた愛しい横顔
変わらない夜
全て、輝いていた

あの日、感じた優しい風を
ふと思い出す朝がある

乾いた表情
ひとり見つめる窓ガラス
うんざりするほど明るい陽光
全て、捨ててもいいと思った

あんなにも優しくて泣ける風に
私はもう出逢えない

すきま風に冷やされて
心は氷になっていく


【愛してる】
陳腐で
嘘つきで
腐ってて
綺麗で
煌びやかで
信じてはいけないのに欲してしまう
5文字の戯言


【優しい悪魔】
キレイな顔で笑って
純粋そうな瞳を作って
嘘だらけの優しさを押し付ける

愛を見せるのが巧い、悪魔
先に広がった地獄さえも愛しかった


【いいね】
どれほどの「できない自分」に落胆して
どんなに「できたかもしれない自分」に焦がれて
今の形になったのか想像すらせず、
「前向きでいいね」と人生を評される

結果だけ見て
今だけ見て
知ったような気になるなよ

あなたも、私も


【家路】
酸素不足な小さな箱
あたたかさや温もりとは無縁の空間

自分のことだけしか考えていない人が集う
一発触発の爆発を怖れながら

”かぞく”
その3文字の意味を考える
3文字の軽薄さを嗤う

笑顔のヒールで向かう、小さな箱の中
呼吸困難を恐れながら


【死体の心】
「いつか終わる」
その言葉で守ってきた心
その約束でやりすごしてきた体

「いつになったら終わる?」の本音を聴かないようにして
リタイヤしたい気持ちから目をそらして

血も涙もなくなった心は鼓動を刻むだけの道具
手を当てても、耳を澄ましても
何も喋らない

いつか終わる
それまでの地獄
取り戻せない私自身

代償の大きさに気づけない日常


【製造工場】
「強いね」なんて言わないで
弱くあれなくなるから

「弱いね」なんて聞きたくない
強さを求めてしまうから

私の形が分からない
とがるのも、丸くなるのも自発的
スライムのような、カメレオンのような虚しさ

上手く”人型”を作って人間のフリ
本当は何になりたかったのか


【脇役】
”脇役A”で収まるくらいの人生だ
ハッピーエンドを掴む主役にも
誰かを憎み抜く悪役にもなれない

いてもいいけど、いなくてもいい
自分の中の「私」の評価

生きることは、いつも難しい
殺して、蘇生して、痛めつけられて、死にたくなる
その連続で成り立つ人生

期待を高らかに語るほど、もう若くはない
反抗に心涙を注ぐほど、強くもない

ただ知りたかった
脇役にも価値があることを

許したかった
生き続けてきたことを


【メイク】
キラキラのアイシャドウで照らしたかったのは
くすんだ目元ではなく、光を失った瞳だった

ツヤツヤと光らせたかったのは唇より心
肌よりクリアにしたい、ごちゃごちゃした脳内
彩っても何ひとつ買われない自分自身に絶望が忍び寄る

心が腐るのは、あっという間
堕ちて、朽ちて、絶えて、消えて
どうでもいい人から好まれる私が残る

色彩豊かで空っぽな入れ物


【ミルクな時間】
掴んだ手が、たしかに温かかった、あの頃
隣に感じる温もりが心地よかった

風が吹いても、雨が降っても、太陽がなくなっても
笑って生きていける気がした

降り注ぐ花びら
単調だけれど、優しい拍手
恒例なお決まり劇
全て明るい、私たちの時間

たくさんの「なぜ」を抱えながら
花が散った今を想う

「元気ですか」の一言を送れないまま願う
「この瞬間も、あなたが笑っていますように」と


【結婚生活】
必死に抱えているものが、ひどく陳腐に見えた

いつの間にか”守りたいもの”は”守るべきもの”へ
大切の基準も分からなくなった

笑顔のあなたに牙をむく心に気づかないフリをして
紡ぎ続けた、見せかけの平凡

過去も未来も消えてほしかった


【最期の晩餐】
煮込んだシチューの辛さも知らずに
器に盛ったサラダの黒ずみにも気づかず
あなたは家庭を築いている気でいる

「おいしくなれ」の魔法が失敗した悲しさや
甘くなりすぎたスープを恨んだ日を知っているのは私だけ

棄てられた食材と冷蔵庫で腐った料理が泣いていた

その涙に気づかず
あなたは甘い蜜に惹かれて消える

消えたい気持ちの私にも気づかずに


【教室】
38個の机と椅子が並んだ世界は
裏切りと騙し合いだらけ

正直がいいと口にする嘘吐きな大人が
義務感で子どもと関わって
綺麗事だらけの説教を垂れ流す

白いチョークで埋め尽くされた黒板
生きていくのに大切なものは
その中に、ひとつもなかった

無意味な学びと自己満足な御託が横行する世界
誰にも巻かれない空が羨ましかった


【「私らしさ」の偽造】
いつの間に、体はこんなにも重くなったのか
あの頃は心にも翼があって
手のひらサイズの愛が嬉しかった

大きくて重い愛に押しつぶされたいと心が泣くのに
見せかけの孤高に酔いしれて
分かった気でいた、小さな心の穴

そこから漏れ出した雫が
こんなにも滴るものだったとは

失った小さな温かさが
こんなにも泣けるものだったとは

取返しのつかない日々の中
歩みを止める勇気もなく
不器用な歩幅を前に出して
なんとか自分を作り出す

偽物か本物かもわからないまま
「私らしさ」を偽造する

あなたは一体、誰ですか?
自分が一番、僕に問いたい


【150円の束縛】
誰にも縛られなくないと、愛の証を拒絶する薬指

あの頃はもっと素直だった
150円の陳腐な愛が尊くて
何度、指でなぞっただろう

柄にもなく、永遠を願った日
私はたしかに私だった



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