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12/4/2016:最近やちょっと前に聞いた音楽作品の感想

文章最後の「★」は最大4つの、アメリカの新聞方式

Cobalt - Slow Forever :
 10年以上の活動でアルバムを幾つか出してはいるものの、地元グリーリー(コロラド州にある、人口約10万の街。2000年代初頭に注目を浴びた「Fast Food Nation」の第7章でも触れられている)近郊からツアー名義で出たのは一度だけとの事で(数少ないインタビュー記事によると、ニューヨークに住まいを移していた事もあったそうだが)、このひとたち、とにかく自らの創作物に対しての求道的な姿勢が一貫している。
 プロジェクトを半ば乗っ取る形となった中心人物のエリック・ウンダー(Erik Wunder)の描く世界観は、たとえ7年ぶりであっても、前編47分と後編37分の二部に別れていても、表題よろしく、ひたすら引き摺るように重く、禍々しい呪詛に満ちている。歌詞も自分たちの底辺生活の手記のようであり(冒頭の曲でいきなり「kerosene / anal sex / ampehtamines / car crash」だもの)、表面的な部分では初期Eyehategod同様、極度の人間不信が渦巻いている。
 ただ今回彼らの組み立てた音楽は、不協和音に塗り固められているようでそれぞれの流れが速やか且つ楽曲構成もハッキリしており(ウンダー本人がライブでも演奏するドラムが特に、鋭く安定している)、きちんと対峙をすれば方向感覚を失わず、さらに前後編に分けた事が全体のスケールを壮大にする役割を果たしているから、これまでのこのプロジェクトの集大成とも言える、ここでしか聞けない独自の暗黒叙事詩へと昇華されていると、私は強く感じた。
 北欧と違いアメリカのミュージシャンがブラックメタルに挑戦すると、神話や妖怪ではなく、米中部の州に見られる漆黒の森山や廃墟、大陸に当初根付いていたネイティブ・インディアンの醸し出す呪術性、厳しい大自然や獰猛な動物との闘い、とのイメージが浮き彫りになるし、本人たちにどこまでその狙いがあるかは分からないが(それは、民謡調の旋律どころか、キーボードやシンセサイザーなどの電子ギミックにも頼らない、アコースティック多用の荒涼で無骨なメロディ作りであったり、民族音楽的且つ原始的なドラムの叩き方だったり、ネットやらスマホやらが支配する現代とは距離のある曲目であったり)、少なくとも私はコバルトの今回のから、そういった想像力を積極的に働かせられる刺激を、大いに受けたものだ。
 尚、コバルトというプロジェクト名の由来は、先述のInvisible Oranges上でのインタビューの本人からの言葉を引用するなら、「Something basic. Something elemental.」。(★★★★)

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Stiu Nu Stiu - Fake End :で、こっちは上記のコバルトと、音楽性や重苦しさの点では共通していても、その表現方法に細かい差異があるのを、伝えさせてくれる。公式サイトに掲載されたプロフィールには、マーティン・サンドストロム(Martin Sandstrom)とカレ・マットソン(Kalle Mattsson)の2人が2012年に、ストックホルムの北に位置するウプサラのスタジオに入って何気なく演奏を始めた所が、ユニットのスタート地点と書かれている。オランダにほぼ移住していたサンドストロムが最終的にストックホルムに戻る形で、ゲスト女性ボーカルにビリー・リンダール(Billie Lindahl)を迎えて作られたこれは2作目なのだが、まあ「死中のシチュー」とおっさんギャグが口を突いて出てしまいかねないほど、真っ暗でドロドロな世界観に終始している。猛獣に食われる犠牲者の悲鳴みたいなコバルトとは異なり、妖艶な響きの女性の歌声が高らかに舞う、という根本的な違いが先ずあるが、(音全体に歪みをかけてはいるものの)奏でられるギターの旋律の数々に民謡調が目立つ為、聞いているとどことなく、神秘的な輝きを真夜中に放つ泉の向こうに誘われる(でもってその先には牙の鋭い悪魔が大口を開け、次の餌を求めて待っている)ようなイメージが沸く。これの存在を教えてくれた隣人は「エモーショナルに世界の終末を描き出す音楽」と一言で巧く纏めていて、実際そういった捉え方も出来るから、ある意味では冬のこの時期にクリスマスソング以上に最適とも言える。全編スローペースかと思ったら、後半にバタバタと駆け足になる「Uwaga」が飛び出す辺りも面白い。(★★★)

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Metallica - Hardwired... to Self-Destruct : メタリカも近年はだいぶテレビ露出が増えては、良い意味で一時期の頑固と言うよりも迷走を脱した感が強く、3年前に「コルベア・レポー」で演奏だけでなくスティーブンのトリッキーな質問の数々に答えるインタビューにも出た辺りから始まって("I like St. Anger.  I love the album cover, I have never actually heard of."の箇所は何度見ても吹く)、今回の新作のPRにはベテランDJのハワード・スターンの番組出演に加えて、ジミー・ファロンの番組では小学校で使われる楽器を使って彼らの最大のヒット曲をやる、という一発芸にまで遠慮なく参加していた程。そうしたバンドの方向性がこの2枚組にもちゃんと表れていて、メンバーが50を超えてもなお騒がしいロック・バンドとしての存在感を、硬く引き締まった音像と演奏によって過剰なぐらい示している。純粋に速い曲は1枚目の冒頭と中盤、そして2枚目のラストぐらいしか無く、あとはここ20年ほどのメタリカらしい、うねりと重さに比重を置いてはいるが、ポップマターズの「The Best Metal of 2016」で「...heavy metal is always better off when its most important bands are making vital music deep into their career.(ヘビーメタルに関しては、名のあるバンドが自らのキャリアに踏み込んだ活きの良い音を出す事で、常に良好になる)」と歓迎されていたように、特に最後の「Spit Out the Bones」を聞くと、このバンドを長く聞いていた身としては(微妙なデキの曲が目立っても)応援したくなるものだ。(★★1/2)

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Big Big Train - Folklore : 先述したポップマターズによるジャンルごとのBest 2016の記事のうち、プログレッシブ・ロックに絞った10枚を挙げていた中で、これがかなり上位に食い込んでいたが、1990年から本国イギリスを根城に淡々と活動しているこのユニットの、9枚目となる最新作を選出していた所に、あのサイトの芯の強さを未だ感じる(何しろ序文が「When it comes to putting the “English” in English progressive rock, few modern acts do it as literally and lusciously as the Big Big Train.(イギリス発のバンドを英国プログレッシブ・ロックに載せて語る場合、現行で文字通り且つ魅力的に可能なのは、このバンドぐらいしかいない)」だもの)。現在は8人編成で、分厚い聖歌隊をコーラスに盛り込み、それでいてイギリス特有の湿った雰囲気をも大切にしながら、ヴァイオリンやフルートまでをも交え、トータルで1時間超の壮大なお伽噺を華麗に綴っている。演奏している映像を観ていると凄く楽しそうに見えるし、シングル曲「Wassail」などなど、単体でも映える曲が散らばっているので、この作品名通りの真っすぐな世界観に入っていければ、集中して浸れるだろう。【★★】

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Moana - Original Motion Picture Soundtrack : 数日前に本編を観に行った際、劇中のミュージカル・ナンバーに興味が沸いたので。面白いのは、ハミルトンで一躍有名人となったリン・マニュエル・ミランダが主に手掛けるミュージカル・ナンバーと、映画の劇伴専門家のマーク・マンシーナ(Mark Mancina)が手がける劇中のBGMと、デモなどのおまけ集とで、完全に構成が別れていること。サントラは通常、映画の進行に合わせた曲順になるので、ここまで区分けがされている構成も珍しいというか、最初からアルバムを通して聞かせる意図が無いのかもしれない。いずれの曲もモアナ本編に相応しい、前向きでエネルギッシュなノリなので、映画の余韻を味わったり、冬の朝に味わうテンションの低さを吹き飛ばすのに、丁度いいと思う。【★★】

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The Hamilton Mixtape : ちょうどこの文章を書き始めた時にお供に立ち上げたスポティファイで、ニューリリースとしてこれが出ていたので、モアナから逆輸入の形で聞いてみた。まあハミルトンに関しては、つい最近、副大統領に選ばれたマイク・ペンスとの一件もあって、妙な形で注目を浴びてはしまったが(私も喜んでネタにしたが)、実際の演劇で使われる楽曲を有名アーティスト起用で歌わせたこのアルバムは、デモ音源なども交えた上で、タイトルよろしくミックステープの姿勢に終始している。アシャンティやレジーナ・スペクター、ウィズ・カリファといった大物が名を連ねる中で、ジミー・ファロンのような歌の巧い芸人をも交えてくるのが面白く、それでいて楽曲が持つ力強さは首尾一貫しているので、上記のモアナのミュージカル・ナンバーが気に入ったなら、大半の曲が4分で纏まっているのもあって、元ネタを知らなくても、優れたR&B/ポップスアルバムとして非常に楽しめると思う。【★★★】