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【2,923】ディズニーのモアナ

サンクスギビング連休の最後だからどうせ早起きする家族なんてそこまで居ないだろう、と高を括って朝10時の回に向かってみれば、店員からSOLD OUTと、見事に一言。

次の回は12:10からだが、12:00pmを過ぎるとAMCシアター特有のバーゲン価格($7)が適用されず、$12となるので、$4高めに払って10:45の3D仕様の回に切り替える。

春にズートピアを観に行った時も全く同じ目に遭ったが、ディズニー初のポリネシア系ヒロインの大冒険という、決してキャッチーではない題材でそんな家族連れが入るものかと見ていた自分が甘かった。TVやラジオの宣伝ではFrozenやZootopia関連のスタッフが作ったのを強調していたし、派手なアクションシーンも惜しげなく見せていたから、ディズニーのPRパワー恐るべしなのを今頃痛感。

で、この「モアナ(Moana)」、ロッテントマトスのメーターやAverage Ratingが突き抜けている事に偽りが無く、作品の内容が超一級品で、一流のスタッフを集めて最上級の娯楽を、というか、今年観た映画のベスト10を組んだとき、上位がディズニー関係で独占されそうになるのは、私だけじゃない気がする。

ダイナミズムに溢れた海水の質感や、広大な南太平洋の活き活きとした風景を始めとする、作中の要となるアニメーション部分の仕上がりも唯一無二ならば、そこに乗ってくるキャラクターの動きや設定、全体の世界観(海の底をさらに潜った地底世界の、人間が迂闊に近寄ってはならない絶望感の演出が凄い)、ストーリーの面白さ、といったあらゆる点にも抜かりが無い。

生まれ育った島から主人公が旅立つ、という序盤から中盤への流れに、観客を引っ張り込む要素(誰かが何とかしないと全滅、という、このまえGodzilla Resurgenceを観た時にも感じたが、そうした分かり易く危機迫る見せ方は、一般視聴者であるコッチの感情移入をしっかり促してくれる)がちゃんとあって、そこからはノンストップで、物語を進める相棒と出会って、数々の困難に立ち向かい、主人公たちが成長しては、きちんとしたオチを着ける、との具合に、長編アクション・アドベンチャーに相応しい美点・良点が目一杯、詰まっていたのが素晴らしかった。

ズートピアの主人公ジュディも、困難に積極的且つ前向きに立ち向かう女性像を凄く自然に見せていたが、実際の声優が14歳のネイティブ・ハワイアンだと言うこのモアナも、ジュディ同様に大半の客が好感を持てる見せ方に徹している。そこがまた、南太平洋やポリネシアン等の文化的・民族的な部分で変に引っかかることなく、物語に入っていけやすいのだ。

レスラーとしてよりも今ではすっかり俳優のイメージが板に着いた、ザ・ロック様が声を当てたマウイがまた、この手の冒険ものにおいて主人公をどんどん背中押しする、活きの良い相棒として抜群の存在感を示していた。彼の身体に彫られた刺青が意志を持って独自に動き出す辺りもまた、ディズニーのアニメらしい。でもまさかザ・ロックが器用に歌いだすとは、思わなかったが。

そう、このモアナ、登場人物たちが歌い出す場面が、かなり出てくる。

もっともスランプだった頃のディズニー映画に感じられたような、不自然なミュージカル風味では無く、あくまで物語の流れに沿った形で飛び出すので、これがまた観ていて気持ち良い。ハミルトンで一躍有名人となったリン・マニュエル・ミランダが監修に関わっている(エンディング曲も彼が歌っている)のが、凄く納得。加えて、一緒に観たひとも言っていたが、「南太平洋の民族に、ああいう歌と踊りをしだすイメージがあるから、それもあってミュージカル部分が自然に感じる」。

可愛い見た目でやることが凶暴極まりない海賊(遭遇時の場面は怒りのデスロードのオマージュだそうで、制作スタッフの目利きの鋭さがさりげなく現れている)を筆頭に、主人公たちに立ち塞がる敵キャラの威圧感がまた良く出ていて、特にラストに控えている「ある神様」のラスボス感はハンパじゃなく、観ている側に「どうやったら勝てんの、これ」とのイメージを的確に植え付けてくれる。

さらにこれは、繰り返し観るにつれて気付いていくとは思うが、監督たち自らが4年前にフィジーやサモア、タヒチといった、ポリネシア文化の根強い島の数々へフィールド・リサーチへ向かったとあるように、地元に住む人々の生活慣習や文化を描く部分も徹底しているであろうというのが、すぐに伝わってくる。例えば、倒れたマストを直す時に、モアナが竹を用いてまず帆を縫い付ける、といった部分など、枚挙に暇が無い。この点は4ヶ月後ぐらいにDVD版が出てから、じっくり鑑賞したい。

以上のように多面的な魅力を携えた今作をまとめ上げたその監督たちというのが、ジョン・マスカーロン・クレメンツの2人。

私も後から知ったのだが、リトルマーメイド、アラジン、ヘラクレスといった'90年代前後のディズニーの傑作長編アニメを手がけたひとたちで、シネマカフェに2年前に掲載されたインタビューを読むと、その段階でも作品のビジョンはほとんど完成していたのが窺える。

2人とも現在、白髪のまぶしい63歳だが、AMCシアターではこの2人の挨拶映像が本編上映直前に入っており、年齢を感じさせない元気な印象をそこから強く受ける。これだけの手の込んで、気合の入った長編アクション・アドベンチャーを、一切軸がブレることなくまとめ上げたのだから、体力があって当然と言えば当然かもしれないが。

この2人がモアナの前に手がけた「プリンセスと魔法のキス(The Princess and the Frog)」はすっかり見落としていたが、日本公開当時に朝日新聞で行われたインタビューでは、2人のユニークな発言を読む事が出来たし、私もこれを機に一気に興味が沸いたので、近いうちにネットフリックス等で漁ってみるか。

以前の日記でもちょっとだけ触れた「Salt and Sanctuary」を作ったSka Studiosがモアナを題材にした2D版アクションゲームでも作ったらハマりそうだとも思いつつ、週末の売り上げチャートを読んだら、アメリカの興行収入的にも記録的な大ヒットとのことで、連休を跨いだ興行収入ではトイストーリー2の$80M(8,000万ドル=約80億円)を上回ったとか。

さらにBox Office Mojoの分析を読むと、その約$81M(約81億円)のうち男女比率は45:55、12歳以下は34%、25歳以上は43%、そして家族連れは72%だったとの事。ズートピアの時も思ったが、こういう本当に隅々まで考えられて作られた作品が、当たり前のように国民的なヒットを飛ばすのが、アメリカの良いところだ。

尚、本編の前に「Inner Workings」という短編が上映された。これは、シュガーラッシュやベイマックスのストーリー・アーティストであるLeo Matsudaという方が手がけたもの。ある会社員男性の人体の働きをユニーク且つユーモラスに見せた、これまた見応えある短編で、社畜という言葉がすぐによぎる日本の(ブラックの混じった)会社勤めの方々が観たら、色々と胸を打たれるかもしれない。

日本では「モアナと伝説の海」の題で、2017年3月10日と、アメリカでとっくにDVDやらが出ている時期であろう、随分先の公開だが、ズートピアを楽しめた、もしくはスケールのでかくてカタルシスのしっかりあるアクション・アドベンチャーを楽しみたいなら、このモアナも確実に面白く観れる筈だと、私は思う。