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【ミニミニ小説】kazushirezu surechigau

毎朝、目覚めるたび、頭と心の中に思い浮かべていた人が
ある日、私の中から消えた。いいえ、消したのかもしれない。

「もしもし 元気?」

『うん、そっちは?』

「俺は元気だよ。今日暇?」

『うん、暇なんだけど体調悪くてね』

「そっか。遊びに行こうかと思ったんだけどダメか。安静にな」

『うん、ごめんね。ありがとう。また誘ってね』

いつも会いたくて、いつまでも話していたかった人との会話が
毎回こんな感じ。こんな会話を何度繰り返したらいいのか。
私が彼を拒否していると勘違いされても仕方ないほど
私は彼からの誘いを断っていた。

心に体がついていけない葛藤の日々。
ああしたこうしたい、あれを話したい、これを伝えたい。
気持ちが先走りしては、それを現実に出来ない。
日に日に、大きな鉛のようなものが溜まっていく私の体。

私のタイミングで話しかける勇気が出た時に限って彼はいなくて
彼に時間がある時に限って、私には先約がいた。
お互いに時間が出来ても、私の体調は何故か悪かった。

神様は私を彼から引き離そうとしているんだろうか?
被害妄想が頭に浮かんでは、無意味に涙を流していた。


ある日の電話。久々に聞く彼の声。”今誘ってくれたらな”
そんな思いで話声を聞いていた。

「もう少ししたら仕事なんだ」

『うん そっか』

優しい声で、明るくキツイ言葉を言う彼。
”なんでこなっちゃうんだろ?”
窓から見えた雨雲は、私の代わりに泣いてくれてるようで
余計に私の辛さをひき立てた。


数日後、彼には彼女が出来た。

「紹介するよ。俺の幼馴染」
満面の笑顔で私の肩を抱く。

「んで、この人が俺の彼女」
顔を真っ赤にして、私より強く彼女の肩を抱く。

ついこの間まで「恋愛なんて考えられない」が口癖だったのに。
言いたくても、言わせてくれなかったのに・・・。
素敵な彼女ができていた。
本当に素敵な人。
きっと何ひとつ私には勝てないと言い切れる、そんな人。
仕方ないと思うしかなかった。

『お、おめでとう』
少しどもってしまった私の気持ちに、彼女は気付いていた気がする。
『よろしくね!』
無駄に元気のいい私に彼女は深くお辞儀をした。
完全に負けてしまったと実感した。
そして、お似合いの二人だと思った。


もっと一緒にいたかったな。もっともっと話したかった。

彼は私の気持ちに1㎜も気付いてなかったの?
寂しさや虚しさが打ち寄せては、静かに心が軋む。

私だけが彼を想っていた。
私だけが求めていた。
簡単に離された右手は、もう上着の裾も掴めない。
そんな権利なんて、最初からなかったけれど。



毎朝、目覚めるたび、頭と心の中に思い浮かべていた人が
ある日、私の中から消えた。

ううん、消したんだと思う。

うん、消したんだと思う。

消さなくちゃ。。










【書終えて】
初ミニミニ小説。短すぎたかな?
ショートショートってこんなんでいいの?
わがんねw

by yumi

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