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こころの処方箋

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色と香りが織りなすカラーボトルカウンセリング「和み彩香」 思わず出てくる本音にそっと寄り添います
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紅葉の手

紅葉の手

紅葉を見ると何故だか優しい気持ちになります
柔らかい晩秋の光の中で、幼子が一生懸命おててを広げてるみたいに見えるから?
光に透けて浮き上がる葉脈は、ぷっくりとした手が寒さで真っ赤になった様子を思い出させるから

子どもたちがまだ言葉もおぼつかなかった頃
「ママ、おててがちんたい」と言っては、その手を自分の目の高さにある私のポケットに入れてくるのです
その時たとえ両手が荷物でふさがっていても片手に持

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水滴

水滴

寒さが増してくると、夜の長湯が何よりの楽しみ
時間を持て余し、羊の数も数え終わった
ふと思いつき、手を湯船ギリギリにつけて肘から引き上げてみた

全体に湿り気を帯びた手は
瞬く間に手のひらの水分を集め
指先にと集中させる
水滴はみるみるうちに指の先っぽで
逆さになった雪だるまのように丸く膨れて、今か今かと表面張力が弾けるのを待っている

水ってこんなに曲面なんだ

子供の頃から
表面張力を見るのが

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忘れるという才能

忘れるという才能

最近、年追うごとに身近な人とのお別れに遭遇することが多くなりました
私自身平均余命が短くなっているのですからそれは当たり前のことかもしれません

母はすっかり「お別れ慣れしたわ」と
言葉数少なにつぶやいています

親しかったその人とこれまでのように
顔を合わせ、話すことも出来なくなり
虚無感が一気に押し寄せてしまいます
そしてその哀しみもいつしか日々の雑事に追われ
遠い在りし日の彼方へと流れて行っ

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心の網の目

心の網の目

「来るもの拒まず去るもの追わず」
これが私のモットーですから

そう書き込んで
ハタと手を止めた

そういえば昔は随分違っていたな
あらゆる関わりを持った人が
私のことをどう思っているのか
どんな風に評価しているのか
とても気になって仕方がなかった時期がありました

それは裏を返せば
付き合う相手も自分のブランドの一つで
誰と付き合うかで自分の価値も決まる
なんて愚かなことも考えていた時期も

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ベーコン

ベーコン

貧乏を絵にかいたような大学生の頃
楽しみは、料理だった
贅沢な食材を買い求めることもできないなか
いかに工夫して巷で見たフルコースのメニューを
食卓に並べられるか夢中になった

彼も料理にはまっていった
いつしかアルバイトをコジャレたビストロに変え
皿洗いからのスタートだったが
根っからの明るさでサービスに回るようになり
最後は料理の一品まで任せられるようになった

何かの記念すべき日があれば

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ピアス

ピアス

10年以上も前の秋のこと
私は幼子の娘を抱いて
両の耳にピアスの穴を空けた

その頃はまだ
耳に穴を開けるなどと
自ら体を傷つけることはタブーとする空気が流れていて
「ピアスを開けると人生が変わる」
そんな言葉が
まことしやかに信じられていた

耳たぶが薄く小さいので
しょっちゅうイヤリングをなくしては
片耳ばかりストックされていく
そんな我が耳を恨みつつ
それでも、なんとなくピアスになるには

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かすみ草

かすみ草

父が嫌いだった。理由はいくつもあげられた。
伝書鳩のように誰よりも早く会社に行き決まった時間に必ず帰ってくる父、気のきいたジョークひとつもいわず、一人娘を猫可愛がりする術も知らない四角四面のマジメを絵に描いた様な父。ただただ煙たくて仕方なかった。

決定打は高校2年の時だった。整理整頓を人生の信条にしていた父は、私の部屋にズカズカと入り、こともあろうか1カ月以上かかって大事につくりあげたかすみ草の

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迷子の情熱大陸 2012

迷子の情熱大陸 2012

今日、迷子になった

気がつくと私はクリークの岸に足をつけながら、座ったまま寝落ちしたようだった。
右手にはかろうじて揃って置いてあるサンダル。
そして左手のどこかに引っかかっていたのだろう、じっとりと水につかった夏の帽子が水面に浮いていた。

一瞬ここがどこだか分からなかった。
次の瞬間 大きな歓声が地面の底から地響きのように湧き起こった。
「ああ、私 野外ライブに来てたんだ」
どうやら私はあま

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ケ・セラ・セラ

ケ・セラ・セラ

長崎は「別れ」が似合う街だった
さい果ての行き止まり終点「長崎駅」
多くの若者は故郷を離れ、新天地での自分に夢を託し始発の列車に飛び乗った

見贈る側も次は自分の番だと
これから待ち受ける友の孤独な戦いに
心からのエールを送るため入場券を握りしめ、少しずつ加速度を増す列車をホームで手を振りながら追いかけた
あの頃は見送る側も見送られる側も「別れ」のその先に希望があった
まだ見ぬ先の未来がきらめいて

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白沙村荘

白沙村荘

今、京都では祇園祭の真っ最中で、四条通り中心の界隈はどこもかしこも人の波で賑わっている。
そんな京都の夏の風物詩は数々あるけれど、私にとっての一番の思い出はその賑わいから少し離れた銀閣寺の参道沿いにある「白沙村荘」。

私はここでひと夏アルバイトをしたことがある。「白沙村荘」とは日本画家橋本関雪の邸宅で自身の日本画はもちろん、蒐集した骨董品そしてその住まいそのものが文化財として貴重な歴史に残る。

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zero-sumの行方

zero-sumの行方

光と影
光があればこそ存在する影
片方が強くなればなるほど
その相方の存在は増してくる

人の感情も同じかもしれない
良き人を演じれば演じる程
自分の中に眠る決して消えることのない
邪悪な根があることを意識させられる

喜びの陰には選民意識が
勝利の陰には征服欲が
非難の陰には嫉妬心が
慈悲の陰には優越が
憐みの陰には差別する心が

激しい感情のすぐ脇に
今にも軽く音を立てて折れそうな
臆病者の心

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人生の仕上がり

人生の仕上がり

「順風満帆な人生は仕上がりが悪い」

今朝、新聞を開いた瞬間に飛び込んできた言葉でした

これは新刊本の紹介のキャッチコピーの一説

...

アナログのメディアの面白さはここにある

自分の目的とする情報のちょっと横にある宝物を発見する楽しさ

知りたいと言ってピンポイントで言葉が出てくる電子辞書ではなく

その周辺の知識を拾いながらゆるりと理解を深める

紙の辞書のよさの違いがここにある

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ああ、青春のユースホステル

ああ、青春のユースホステル

学生時代ひとり旅といえばYHだった
この記号を見てピンと来る人は
それなりの年代のかたではないか
「ユースホステル」
名前を聞いたことはあるだろう
ドイツで生まれその歴史は100年以上
旅を安価で一人でも楽しめるように
作られた宿泊施設
そのつながりは世界80の国に4000箇所以上の施設があり
現在国内でも約200箇所あるとのこと

私が学生時代旅で放浪というとまずYHだった
その当時女性が一人旅

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向田邦子の恋文

向田邦子の恋文

「向田邦子の恋文」 
   - 向田和子 -「新潮文庫」

出来れば人は傷つきたくないと本能で恐れ
時には自分の身を護るため
自分の心さえ封印してしまうものだけど
人としての内省的成長は
自分の心に傷をつけ
皺ひとつなかったつるっつるの細胞に陰を刻み
細かい感情のひだが出来ればこそ
世事の機微をかすめ取ることができる…

そういうことでしかなかなか深まらないのかと思うのです

「向田邦子の恋文」

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