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ケ・セラ・セラ

長崎は「別れ」が似合う街だった
さい果ての行き止まり終点「長崎駅」
多くの若者は故郷を離れ、新天地での自分に夢を託し始発の列車に飛び乗った

見贈る側も次は自分の番だと
これから待ち受ける友の孤独な戦いに
心からのエールを送るため入場券を握りしめ、少しずつ加速度を増す列車をホームで手を振りながら追いかけた
あの頃は見送る側も見送られる側も「別れ」のその先に希望があった
まだ見ぬ先の未来がきらめいていた
これから起こりうる「不安」は裏返すとそのまま「期待」でもあった

いつからだろう
「別れ」がとても辛くなった
当たり前なのだけど見送られるより見送ることの方が増えた
いつしか、人とのさよならが一方通行になり、ひとり取り残された思いばかりが募り
あとは、待つことだけが残された使命となった

それだけ私はこの地で身を固め、動かしがたいモノをたくさん身に付け、安定を手にしたという証なのかもしれない
両手にもう抱えきれない程のものを持ち
新たなものを掴む余裕がないばかりか、手からこぼれてしまうことを恐れ、そのことばかりに目が行くようになっていた

変わらぬ生活と手にしてきた安心は
反対に「変化」をいつしか恐怖と感じさせる
安定という言葉と引き換えに無くしたモノ
それは「挑戦」という言葉
本来、「変化」はワクワクするもので
そこからしか「未来」は生まれない
そう言い切っていたはずなのに
そう信じていたあの頃がやけに遠い

躰が重くなり、いよいよ身動きがとれなくなったある日、こころがが悲鳴を上げ私は思わず鎧を外してしまった
頑なに守ってきたはずのものを脱いでみると、さみしさよりも開放感を感じる自分がいた

一歩動いてみようか
おそるおそる踏み出すと、視点が変わったその先は違う地平線が新たに引かれ次の世界が開けていた

内側から起こりつつある「変化」に蓋をするのではなく、あるがままの自分を少し信じて素直につぶやく心に耳を傾けてみよう
たとえ深い闇夜が訪れたとしても必ず、夜は明ける
そう決心した瞬間、気がつけば目の前で固く閉ざされた扉は大きく開け放たれ、そこには新しい風が吹いていた

吹きさらしの大地にすっくと立ってみる
両手には何もない
「ケセラセラ」
好きな言葉が耳に心地よく響いていた

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