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弓張月の御息所

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大人のためのお伽話、こころの奥底にしまっていた胸のトキメキを美しい言葉で綴ります❤️
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40から50がオイシイの❣️

40から50がオイシイの❣️

冬になると
その重みが心地よくすらある圧力鍋
雪で外に出るのがおっくうになっても
冷蔵庫から有り合わせの食材で
圧をかけて煮炊きをすれば
ほら、あっという間に美味しい一品の出来上がり

牛スジだって
大根だって何時間も煮込まないといけない所を
あっという間に柔らかくなるのだから
本当に優れもの

だけどこの魔法のようなお鍋にも
ひとつだけルールがあるの
それは圧力をかけて煮込んだあとは
火を止めて

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声

その声を聞いただけで
こころがあったかくなり、赤子のように安心できる
そんな風に感じたことはありますか

「視覚」「聴覚」「味覚」「嗅覚」「触覚」とあるなかで
自分の感度が一番繊細なところは?
そう聞かれたら私は迷わず「聴覚」と答えるだろう
一番好きなのは耳元で囁かれること
子供たちが幼い頃
「秘密のお話」、柔らかいほっぺをくっつけて
耳元でこっそり教えてくれた
そんなときが至福の喜びだった
くす

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悪い人はお嫌いですか?

悪い人はお嫌いですか?

悪い人はお嫌いですか?

大きい声では言えないけれど
良い人がいいに決まってるかもしれないけど
悪い男がどうしようもなく魅力的に見える時がある

総監視社会でみんなが縮こまり
互いの顔色と空気を読んで生きている
昔の歌舞伎や芸事の世界では
色恋沙汰も芸の肥やしと言われていたのにね

あれだけ特殊な世界で才能ひとつで
自分の人生賭けてるのに
普通の人と同じ感覚と常識で生きなさいと訳知り顔で言うのは

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土砂降りの隙間

土砂降りの隙間

叩きつけるような激しい雨に少し不安を覚えて、助手席から隣りのあなたの表情を追うの

変わらぬ様子のあなたは慣れた手つきで片手でハンドルを回しながら、自由になった片手で怯える手を包んでくれた

それもいつものお約束
私は、大人しい子犬のように
無言のままその手を待っていた

言葉はいらない
フロントガラスを叩きつける音がBGM
前が見えないほどの雨が
ワイパーの僅かな間だけ
2人だけのシェルターを作

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Shave off

Shave off

ぬるま湯に浸した網状のスポンジに
石鹸を何度か滑らせ、空気を入れ込むように優しく揉み込むとふわふわの綿あめのようになった泡が出来上がる

それをこんもりと肌に盛り
泡のスポンジを押しつぶすようにおもむろに刃を当てる

ーShave offー

ヒフを傷つけないように
氷の上をそっと滑らすように
優しく愛でるように動かしていく

月に2回ほどの儀式は何故かいつも真夜中になる
時間に余裕がないとで

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ダリア

ダリア

「いらっしゃいませ」
「ダリアの花束作ってくださる?」
店のドアベルを軽やかに鳴らしながら入ってきた彼女は
妖麗の熟女という言葉がぴったりの女性だった
「ハイ、喜んで」
この店を任されてもう20年
いろんなお客のあしらいは慣れている
朝から晩まで花と水とトゲに戦ってきた
がむしゃらに働いてきた分
お客さんがどのような花束を望んで
どんな風に届けたいのか
瞬時に分かると自負してる

「ダリアですか、

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下駄の音

下駄の音

からーん ころーん
夏の風物詩とも言える下駄の音

幼き頃は小さな町の盆踊り
ひとしきり闇夜の中の輪に混じり
浴衣に兵児帯の幼子は
足の甲に擦れた痛みを覚えながら
夢中になって踊ってた
密かな楽しみだったのは
歩き疲れて帰路に着き
下駄を脱いで家の廊下を歩くとき
足裏が何ともくにゃりふわふわと
不思議な感覚になるのが面白く
それまでの足の痛みも忘れて楽しんだ

異性を意識しだした思春期は
浴衣

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Kiss mark

Kiss mark

誰にも気付かれませんように
見られても嫌だけど
どこかで見せたい気も少しはあるの

もし何かの間違いで
見た人がいたら要注意!
さっさとお引き取り願うから
そんな宣戦布告でもあるのよ

しばらくはきっと消えない
消し方知っているけど教えてあげない
自分では見えないでしょ
鏡の前で
忘れないでね
ずっとじゃなくていい
その瞬間だけ思ってほしいの

首筋から降りた鎖骨の少し下
襟元を開放しても分からな

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鴨川の飛石

鴨川の飛石

無理をすれば飛べないこともない
鴨川の飛石

景色の美しさにほだされてつい渡ってみたくなるのだけど
スタート地点に立つと思ったより遠くに思える向こう岸と、水面近くの水流の轟音に慄きつい足がすくむのです

それでも貴方は少し先をひょいと渡っては笑いながら私を待ってくれた。
必ず振り返り手を差し伸べてくれる。

面倒な位にひとつずつ飛石を前に足がすくむ私に辛抱強くお付き合いをしてくれる。「せぃの!」声

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プアゾン

プアゾン

それは「毒」という名がついた香水
詩人 ポール ヴァレリーは
「香りは心の毒である」と詠った

プラム、バニラ、コリアンダー、アニス、ジャスミン、白檀、紫檀、月下香、、シナモン etc・・・
様々な成分を絶妙にブレンドさせたというこの香水は、元のそれぞれの香りを想わせる気配は微塵もない

爽やかなバニラが似合う恋もした
耐え忍ぶ月下香のような別れも味わった
白檀の香りが似合う淫靡な遊びもしてみた

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折りたたみ傘

折りたたみ傘

学生時代、傘は持たないことに決めていた
私は「晴れ女」だから
あなたにここぞという時にピカピカのお天道様ををプレゼントできる
そんな女神でいたかった

彼は私と違ってとても慎重
ディバッグの中に必ずしのばせてあるのは折り畳み傘

ふいの夕立でも
自分の役割は心得ていると言わんばかりに
手品師のように傘を取り出して
傘を差し向けてくれる
少し小さめの空間に
肩を掴まれてすっぽり収まる
そんな儀式がた

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葉脈

葉脈

激しい雨音で世界が遮断されたような
昼下がりの午後
貴方のことを想いながら
考え事をするには十分だった

「ダ・イ・ス・キ」
一つ一つの言葉を
舌の上で転がしてみるの

囁くようにつぶやけば
漏らす息と共に
甘さだけが耳元に残る

溢れ止まないこの想いを
葉っぱの上できらめく水滴のように
葉脈を辿って集めては
一気に飲み干してしまいたい

首筋をそっと指でなぞれば
喉元は大きくゴクリと喉を鳴らした

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「白い薔薇の物語」

「白い薔薇の物語」

今思い出しても、切なさで胸が少し傷むのですが
人を想うことに臆病になった時がありました

心に何重もシールドを張り「攻撃は最大の防御」だと
哀しみを忘れるために心に蓋をして
友と会えばふざけることですべてを笑いとばし、あたりさわりのない会話で今日を一日やり過ごしていた

バイトを7つ掛け持ちし
心が危うく流れ出してしまわないよう
作業で時間をつぶしていっていたあの頃

そんないびつな心を溶かしてく

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媚薬

媚薬

背中の窪みをなぞられて
指を下から上へと書きあげられる度
そこだけ軽い掻き傷が出来たように
赤い筋が浮き上がるのです

これは麻薬か媚薬なのか
脳の一部がマヒしてくるの
少し歪ませた表情から薬指の震えを
他人ごとのように眺めながら
自由に動けるはずと分かっていても
見えない糸が私を縛ります

忘れていたはずなのに
指先から感じる体温を身体が覚えていました
都合の良く自分が見えないということは
一瞬

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