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白人ナショナリズムの心理学

インディアナのファーマーズ・マーケットで、ブースを出していたオーガニック・ファームのカップルが、実は白人ナショナリズム団体とつながっているという疑惑が持ち上がり、ひと悶着起きている、という記事を読んだ。


この記事を読んだときの暗澹たる気持ち、どう説明すれば良いだろうか。

まずひとつに、この記事を読むまでは、ファーマーズ・マーケットのような場所にいる人たちはプログレッシブであろう、というナイーブな仮説のもとに自分が生きてきたことである。そして、もはやその希望的観測をもっては生きられないのだ、という悲しい事実。さよなら、ナイーブな自分。だからってシニカルに生きたいわけじゃないんだけどなあ。

とりあえず、白人ナショナリズムにシンパシーを持ったり、支持したりする人が、相当数いることは確かである。白人ナショナリズムとは、白人至上主義の柔らかいバージョンである。白人が文明を築いたのである、白人はプライドを持つべきだ、白人の権利が守られていない…そういうやつだ。マイノリティに対して攻撃的でないだけで、言っていることは至上主義とあまり変わらない。が、自分たちのアイデンティティを強化して何が悪いのだ、と考える人もいるのだろう。

自分が日本人に生まれたのは、単にめぐり合わせだが、かなりラッキーな札を引いたと思う。そこそこ安全で、平和で、食べ物のある場所に生まれたのである。私が生まれた環境より優れた環境に生まれた人もゴマンといるだろうし、そうでない人はもっといるだろう。幸運にもめっちゃ感謝している。ご先祖さまにもめっちゃ感謝している。だけど、日本人に生まれたことは、偶然であり、自分が達成したことではないのだ。だから、ナショナリズムというものが私にはわからない。

だから、白人が文明を築いたのだ、と主張するホワイト・ナショナリズムに対しても、自分が築いたわけではなかろう、なんで自分がしていないことにプライド求める必要があるんだ? と思ってしまう。そこまで書いて気がついた。きっとこういう考えに傾倒してしまう人も、なにか隙間を埋めようとしているのかもしれない。となると、ナショナリズムの台頭は、現代人が孤独だという事象と大いにリンクしているのだろう。

なぜ人は白人ナショナリストになるのか(BusinesInsider)

ヘイトの裏の心理学、白人至上主義に走らせるのはなにか(LiveScience)

2017年に、自分がホワイト・ナショナリズムについて何を書いていただろうと「My Little New York Times」をめくってみたら、希望の物語を見つけた。

以下、2017年9月23日の日記。

ヘイトからの脱却

恐るべき勢いで変貌するインダストリアル・シティでの取材を終えて、山に向かった。帰国して一連のトークショーや仕事に取り組む前に、一晩でいいから、森の中で目覚める日をもうけたかったのだ。いつものように車のなかでたまっていたポッドキャストを聴く。ニューヨーク・タイムスのポッドキャスト<Daily>で取り上げられていた「ホワイト・ナショナリズムのロイヤル・ファミリー」と言われながら、ムーブメントを離脱したデレク・ブラックのインタビューに心を揺すぶられた。車を降りてから、ネットで彼のストーリーを読み漁った。父親はホワイト・ナショナリズムのリーダーで、STORMFRONT.ORGというサイトを運営している。ホワイト・ナショナリズムは、白人至上主義より少しだけ穏健で、彼らは人種差別とは違うと主張する。国家はひとつの人種で作るべき、アメリカは白人の国である、という考え方だ。母親が、白人至上主義者のリーダー、デビッド・デュークと結婚していたこともあって、デュークはゴッドファーザーだという。子供の頃から、STORMFRONTで子供用コーナーを運営していた。ムーブメントの皇族と言われてきた所以である。 彼は大学在学中に、ユダヤ系や移民の学生と友達になり、徐々に教えられてきたことに疑問を抱くようになってムーブメントを離脱した。この過程について、そして家族からの反応についてはワシントン・ポストの2016年のインタビューに詳しい。そしてこの記事を書いたポストの記者が書いた「Behind the story(裏話)」を読むと、デレク・ブラックがムーブメントを離脱した後、一度は静かな生活を夢見て、公の場から姿を消し、最初は取材を拒絶していたこと、記者の粘り強い説得と、白人至上主義の台頭を機に、再び表舞台に出ることにしたことなどがわかる。デレク・ブラックの物語は、2015年に翻訳した「テロリストの息子」のザック・エブラヒムの物語に似ている。二つとも、ヘイトの中心に生まれ、ヘイトを植え付けられてきたが、外の世界で友情を得たことで、ヘイトを拒絶することができた、という変貌の物語だ。偏見は、具体的な人間関係に触れると瓦解することがあるのだ。



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