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What is it for me?

関係者の情報共有のための会議?
どうせ役所が仕事を誰かに押し付ける場なんだろ
出ていく暇がないわけじゃないが
俺がわざわざ出ていく理由があるか?
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
先日、私の母体である福岡市の保健師研修の講師を務めました。
市役所全体を俯瞰することやその中枢の意思決定に関与する機会が少ない専門職も、一般行政職と同様に自治体財政の全体像を知り、その中での自分たちの担う仕事の全体の中での位置づけ、優先順位を理解しておくことは必要だ、という依頼理由から、2年に一度この職群研修で自治体財政の全体像やその将来見通し、財政健全化の必要性などを講義しています。
この内容は私が通常の財政出前講座でお話ししている内容とほぼイコールなのですが、主催者から強く依頼されていることがもう一つあり、それが「どうすれば新規事業の予算が獲得できるか」というテーマです。
自治体財政の全体像や将来見通し、財政健全化の必要性といったテーマであれば、当該自治体の現役の財政課職員が担えばいいと思うのですが、もう一つのテーマのほうは財政課が請け負うわけにはいきません(笑)
とはいえ、一般行政職に比べ役所内部の事務にやや疎い専門職にはこのスキルが必要だ!という主催者事務局の強い意志により、4年前にこのオファーを請け負い、今回が3回目の出講となっています。
 講義の内容、前回の出講時の感想についてはこちらをご覧ください。

 
講義では、個別の事業構築に当たって「それってホントにうまくいく?」という視点でチェックするというのは私が財政課に在籍していたころから常にやっていたことですが、講義の中では特に解決すべき課題とその手法との関係に論理的な乱れがないか、ロジックモデルをチェックするよう説いています。

 11月に第1回の講義でこれらのことをレクチャーしたうえで、12月に行われる第2回の講義で受講生が企画立案した架空の新規事業案についてプレゼンテーションを行い、私がその内容に茶々を入れるという講義スタイルになっており、先日その第2回のプレゼン大会に参加しそれぞれの新規事業案について講評させていただいたわけですが、ロジックモデルとは別に、どの事業にも共通で「それってホントにうまくいく?」と感じたことがありました。
 
保健師さんたちが立案する事業は、高齢者の地域での見守りや介護予防、精神障がいや認知症患者への支援、児童虐待、感染症対策といった今日的課題への対応など、どのテーマも一筋縄ではいかないものばかり。
そのような困難なテーマを解決する手段として共通するのが「関係者、関係機関との連携」という魔法の言葉です。
どの課題についても市役所、保健所の職員だけで解決できるものではなく、医療機関、介護事業者・施設、地域団体、学校、企業等、テーマごとに協力を得たい関係者、関係機関は多岐にわたるため、その連携組織づくりのようなものが問題解決の手法としてプレゼンの中で頻繁に登場しました。
私は容赦なく問いかけます。「それってホントにうまくいく?」
あるテーマでは、医療機関との連携が必要だが関係機関との情報交換のための連絡会議に参加する医療機関が少ないとの課題が示されました。
私はプレゼンターに、なぜ医療機関の参加が少ないのかわかっているのか尋ねましたが、わからないとのこと。
それでは会議体を作ってもわざわざ参加してくれるはずがありません。
 
欠けているのはWIIFM、すなわち“What Is It For Me?”という視点。
私が15年前、東京財団の主催する市区町村職員研修でアメリカ・ポートランドまで行かせてもらい、プロジェクトマネジメントを学んでいたときに教わった、プロジェクトを成功に導くための重要な要素“Ownership”(当事者意識)を醸成するために、プロジェクトに内在させる視点です。
あるプロジェクトに誰かの参画を求める場合、求める側はその誰かの持っている能力や知見、ネットワークなどの資源を活用したいという思惑、つまり自分のプロジェクトを成功させるためにその誰かの参画が必要だと考えているのですが、求められた側からすれば“What is it for me?”(それは私にとってどういう意味があるのか)という疑問がわきます。
自分の能力、知見、ネットワークなどの資源を活用したいというあなたの気持ちはわかるが、私にとってそれはどういう意味があるのか、ひと肌脱いで自分の持つ資源を投入する私にとってのメリットが何かあるのか、と問いたくなる。
そのことがプロジェクトに誘う側できちんと整理できていない、アピールできていない、プロジェクトに内在させていないから、参画してくれないのです。
 
ほとんどの行政職員は真面目です。そしてそれぞれが担っている課題解決の使命は社会的に意義があり、ほとんどの場合、その取り組み自体の意義を否定されるようなものではありません。
しかし、取り組みの意義を理解することと、そのために自分の労力や時間、資源を割いて関わることとは別物で、一私人、あるいは民間法人として行政の施策に関わることには、関わる側から見た意義、利益に基づくモチベーションがなければその取り組みへの参画は始まらないし続かないのです。
行政施策でよくある、イベント、教室などへの市民の参加が少ないという課題についても同じことが言えます。
こんなに役に立つ情報を提供しているのに、こんなにいい体験ができるのに、どうして参加してくれないんだろう、情報発信が足りないのかな、という課題認識を持つ方々はたくさんおられます。
これも単に情報発信の量を増やすだけでなく、そもそもの情報発信の手法や表現、あるいはイベントそのものの建付けにおいて、情報を受け取り参加するかどうか考える市民の“What is it for me?”への配慮が欠けていないか、考えてみましょう。
 
WIIFMを考える上では、相手の立場に立って物事を見る視点が必要です。
自分が他者からどう見えるか、外から眺める第三者の視点を持つことは大変重要ですが、それがいつもできるようになるためにはそれなりの訓練や経験が必要になります。
その一番の近道はなんといっても外部の人と接点を持つことです。
私は財政課を卒業してから、大学、民間企業、NPO、学生などたくさんの方々と一緒に仕事をしてきました。
また、財政出前講座の出講での出会いやSNSでの発信を通じて、他の自治体、議員、行政とは関係のない一般市民の方々と数えきれないほどたくさんの対話、交流を続けています。
そこで得た交友関係から、日頃の仕事や市役所、公務員の世界が外側からどう見えるかということも教えてもらい、また、それぞれの個人やセクターの立場におけるWIFFMを考えるコツを知ることができました。
そういった経験の蓄積を生かしていろんな方々との協業、協働を実現し、そこからまた新たな経験を蓄積し続けています。
 
近年、自治体に求められる役割や機能が変化するなかで、自治体の外側にある組織や人材の力を借り、協力を得ながら物事を進めるという場面も増えました。
民間企業やNPO、地域団体など、頼ることのできるパートナーはたくさんいますが、互いの協力関係を構築するうえで必要な情報共有や意思疎通がうまくいかないということもしばしば見受けられます。
うまくいかない原因の多くは組織文化の壁。
自治体組織が長年育んできた独特の文化が外部ではうまく受け入れられないことや、自治体組織の外側では当然のこととされている常識が自治体職員に通じないということがよくあります。
互いの生きている環境の違い、立脚する法理や社会のルールの違いがそれぞれの組織文化、常識の違いとなってあらわれているわけですが、違う世界に生きる者同士が互いに自分の住んでいない世界のことを知り、その違いの根本を理解しあうために、「対話というインフラ」が必要だと改めて思う次第です。

 ★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
★書籍を購読された方同士の意見交換や交流、出前講座の開催スケジュールの共有などの目的で、Facebookグループを作っています。参加希望はメッセージを添えてください(^_-)-☆
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