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風が吹けば桶屋が儲かる

「こんなボロ屋敷を再整備するのにお金かけてどうするんだろうね」
「観光客がたくさん来て町にお金が落ちて税収が増えるから元がとれるんだって市長さんが言ってたよ」
#ジブリで学ぶ自治体財政

ここ数回の投稿で「政策」とは何ぞやという話になってきていますね。
政策は行政目的達成の手段であって,その目的の正当性と手段の妥当性がなければならない,それを事業担当課が予算要求時に財政課に説明するだけでなく市民や議会にきちんと説明できるようにならなければいけない,というようなことを縷々述べてきており,そうするとあたかも私が今流行りのEBPM(Evidence-based Policy Making,エビデンスに基づく政策立案)の信奉者のように思われがちですが,実はそうでもありません。

もちろん,政策立案にあたっては,統計データに基づき科学的に分析された課題認識に基づき立案されるべきこと,課題解決の手法検討においてはその課題の解決と採用しようとする手法との間に相当の因果関係を持つロジックモデルを構築すべきこと,分析統計の手法を用いて当該政策がもたらす社会的インパクトをあらかじめ推計し,その効果期待によって政策への投入資源や手法を選択すべきこと,そして実際に政策が実施された後にその効果を測定し,課題解決に資する取り組みであったかどうか,手法構築時のロジックモデル及び社会的インパクトの推計について検証を行い,すでに選択した政策実現の手法について必要な修正を講じていくべきこと,これらはすべて理想論として正しいということを理解しています。

そうは言っても,政策が生身の人間,実際の社会を相手に行う壮大な社会実験である以上,実験室の中で行う実験や巨大な電子計算機による演算とは異なり,どこまで理想を追い求めたとしても机上の空論にとどまってしまうだろうというのが私の正直な感想です。
もちろん,これまで国や地方自治体が行ってきた「政策」においてあまりにもデータやロジックモデルがおろそかにされてきた結果,その効果測定も手法検証も不十分であったということは事実で,これをあらかじめ検討することで検証可能な仕組みにするということには意味があると思います。

しかし,EVPMをエビデンス=証拠に基づく政策立案と文字通り読み,これを証拠=データだと偏った理解のまま進めると,実験室での純粋データではないことや採用できる測定方法に限界があること,社会の状態をすべてデータでとらえて表現することが困難なことなどから,データの信ぴょう性や証拠としての能力に疑義を抱く人も多く,一方で、測定データに基づく目標を掲げた場合に成果未達の咎めを回避するために目標達成の基準を恣意的に引き下げるということも起こりかねないなど、データだけに頼ることで判断を誤るという側面もあります。
最近は国の補助金,交付金を受ける場合にKPI(重要業績評価指標)を掲げることが当たり前になってきましたが,何を指標としておくかによっては事業の成果そのものではなくKPIとして置いた指標の達成に一喜一憂してしまうような状況もあり,データ至上主義、EBPM礼賛の風潮そのものも眉唾もののように感じるときがあります。

むしろ,私が重視したいのはロジックモデル。
政策の実現手段についての論理展開です。
課題解決の手段として採用する方法が,どうして課題解決の手段たりうるのか,を論理的に因果関係として説明できることが一番大事で,それが今最も政策立案の議論で欠けていることのように思っています。
EBPMとは「こうやればこうなる」という因果関係を政策の実現手法立案の根拠として用いることであって,データはその過程で現状認識や試算,推計に基づく効果測定が行われる際に用いられるにすぎないと私は理解しています。
大事なのは,なぜ風が吹けば桶屋が儲かるのか。
「風が吹く」「砂埃が舞う」「砂埃が目に入って盲人が増える」「盲人は三味線で生計を立てる」「三味線の胴を張る猫の皮の需要が増える」「猫が減るとネズミが増える」「ネズミが桶をかじる」「桶がたくさん売れて儲かる」
この因果関係に矛盾や無理がなく,手法と課題解決の間に相当な因果関係があることを多くの人が確からしいと感じることだと思うのです。

昨日まで話題にしていた市民全員5万円給付も同じです。
5万円の給付で何を実現しようとしているのか。
実現しようとしている社会の姿に対して給付がどのように影響を与えるのか。
その影響は給付の目的,期待する効果と明らかな因果関係を持つのか。
給付によって解決しようとしていた課題はどの程度解決するのか。
その解決の程度や確からしさに比して,その給付に必要な予算額は適切か。
政策を立案し実施する者が自らこのロジックモデル、論理展開を公言し,課題解決の道筋を市民に約束すれば,これを誠実に履行する必要が生じます。
市民に現金を給付することは政策の実現手法であって,政策が実現する社会の姿を描いたものではありません。
政策立案時に実現したい未来,ありたい姿を提示し,その実現に向けて適切な手法を提案する。あらかじめこれらのことが示され,議論され,多くの人が納得しておけば,政策を正しく評価することができます。
政策は未来のありたい姿を実現することが目的です。
やることを約束するのではなく、未来のありたい姿とその道筋を示すこと、そしてその道筋を誠実に真摯にたどり、その姿勢を市民に見てもらうことが政治も行政にも求められているし、その政治や行政の姿勢、ありように市民が共感して政治家に投票し自治体に納税する、そんな世の中にならなければと思います。

自治体運営に携わる職員、議員の皆さん。
皆さんの自治体の「政策」のロジックモデル、きちんと語れますか?
ちゃんと「ありたい姿」にたどり着けますか?

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2018年12月に本を出版しました。ご興味のある方はどうぞ。

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