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誰のために何のために

先日「優先順位の話」で,地方自治体の行う施策事業の優先順位づけについて紹介しましたが,優先順位づけと「行政評価」の関係性でもやもやされている方がおられましたので,追記したいと思います。

「行政評価」とは,自治体の行っている事務事業について,その成果を検証・評価し,事業の必要性や緊急性,手法などについて再検討を行うという一連の流れを指します。
多くの自治体が様々なかたちで取り組みを進めていますが,よくあるのは1年に一度,直近の事業年度の決算に合わせて成果を取りまとめ,評価し,直後の予算編成に反映するということを制度化しているケースです。
その全部を承知しているわけではないので,あくまでも私が福岡市で体験したことをベースに主観的に書かせていただきます。

言いたいのは,制度としての「行政評価」は毎年度の予算編成にはあまり役に立たないということ。
例えば,行政評価の制度として,前年度の事業に対する評価が5段階評価の上位3段階,A~C判定までは予算を現状維持するが,D,E判定であれば予算を削減するというような仕組みが前提になると,自己評価であれば評価基準を甘く設定しがちですし,第三者評価であれば平均点以上の評価が得られるようあらかじめ到達目標を低く掲げるなど,評価そのもので予算査定に差がつかないように形骸化させてしまうことが考えられます。

その結果,ただ評価調書を書いて行政評価担当課に提出するだけで,誰も活用しない「評価のための評価」になってしまう悲しいケースも多々あると聞き及んでいます。
ただでさえ忙しいのに,こんな帳面消しの仕事をさせられたんではたまったものでありませんよね。

もちろん次年度の予算要求を行うにあたり,現在行っている施策事業がうまくいっているのか,いないのかを検証し,改善すべき点を検討したうえで,事業の手法や資源投入量を見直していくことは必要です。
しかし,それは「行政評価」という仕組みのフィルターを通さずとも,職員として,組織として当然努めるべきことであり,むしろ職員や組織に対する業績評価の仕組みのほうがマネジメントの手法としてふさわしいかもしれません。

そして,現状をきちんととらえ課題を認識し不断の見直しを行っていくのは,毎年度の予算編成で財政課から査定され,あるいは行政評価担当課なる第三者的立場から評価を受け,それを予算に反映していくという過程ではなく,議会に対して前年度の事業成果を説明し審査を受ける決算認定(概ね9月から10月にかけて)の場面で,事業を担当した所属自らが説明責任を果たしていく過程で行われるべきだというのが私の考えです。

自分でやったことですから自分で説明するのは当然ですし,成果が出ていない,進捗が遅いということに対しても,その改善策について自分で考え説明していくしかない。
自分で成果を説明し,議会で評価を受けるのだから,成果を出せるようおのずと事業を企画する段階でも,それを実施する段階でも力が入るというわけです。
そういう意味では,評価を予算に反映できるよう,各所属が所管する予算の原案について自分たちである程度裁量をもって組み替えることができる「枠予算」の仕組みのほうが優れているように思います。

しかしながら,個々の事業単位ではなくいくつかの事業を実施することで成果を出す「施策」の単位ではどうでしょう。
「中小企業の振興」「子育て環境の充実」といった施策の単位でみると,その実現に向けて取り組んでいるいくつかの事業の成果が複合的に絡み合い成果として現れますので,どの事業をどう見直せばさらに成果が出るのかは見えづらく,単独の所属で,単年度の予算編成の中でその見直しに取り組むことも困難です。

こうした施策単位の評価については,企画部門や財政部門といったセクションが全体を見渡しいくつかの所属の取り組みを束ねて評価できる仕組みや体制が機能的だと私は思います。
また、施策単位の目標は自治体の目指す中長期的な将来像を描いたマスタープランの実現を図るために設定されていることが多いため,評価に基づいた事業の見直し,再構築は年度単位で行うのではなく,3~5年といった一定の期間をかけて取り組んだものを評価することが望ましいと考えます。

複数年にわたる事業実施の結果得られた成果は,事業そのものの成果かもしれませんが,社会経済情勢化や市民ニーズの変化によるものかもしれません。
そうした変化に加え,突発的な事象や国の施策の方向性など自治体を取り巻く環境変化と合わせて,個々の施策の目指す方向性や施策どうしの優先順位づけなどを全市的な視点で行っていくことは,マスタープランを策定し,その進捗管理を所掌する企画部門が担うことがふさわしいでしょう。

自治体全体で見た場合の施策の優先順位や目指す方向性は,マスタープランあるいはその実施計画の担当課が,その策定やローリングの作業の一環として3~5年のスパンでPDCAサイクルを回し,マスタープランやその実施計画に基づき行う個々の事務事業については,各年度の予算執行から決算,そして翌年度の予算要求という流れの中で,各所属でPDCAを回す。
「評価」はそれを活用する者が主体的に行わなければ意味がありません。

施策評価と事業評価はそれぞれ活用する場面や主体が異なります。
その違いを踏まえ,正しい役割分担とサイクルで行うのであれば,「行政評価」が単に役所の中での書類のやりとり,調書を埋めるだけの作業と揶揄されることなく,市民にとっても,職員,組織にとっても意味のあるものとして機能することになると私は考えています。

皆さんの自治体で今行われている「行政評価」は誰が何のために行っていますか?
それはその評価結果を活用したい人が自らの責任でやっていますか?

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