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家系図を描いてみる

家族療法を学ぶ上で基本となる考え方は、家族を1つのユニットとして捉え、症状が出ている人をIP(Identified Patient :患者とみなされている人)と呼ぶ。つまり、症状が出ているのは家族の歪みをIPが体現しているのであり、IPの症状を改善させるには家族の関係が変わる必要があるし、家族には変わる力があるという認識なのだ。

私自身大学で家族療法の講義を受けた時もまず初めに自分のルーツを確認するために家系図を描いた。当時はまだ20歳前後だったが、描いてみると自分の背景のようなものが浮かび上がり、自分の来し方行く末についても考える機会になった。

発達相談でもカルテには当たり前のように家系図が描いてあり、相談に来る子ども(家族療法的な表現ではIP)を取り巻く家族の状況を理解するのに役立っている。

家系図の描き方

自分を中心とした家系図を描く場合、以下のような基本ルールがある(職場や業種によって少しずつ異なる場合がある)。病院などの場合年齢や持病などを該当人物の横に併記する場合などもある。

・男性→□、女性→○(中心になる人は二重にする)
・婚姻関係は二重線、親子や兄弟は一重線で結ぶ(養子は点線)
・死亡の場合は十字、離婚の場合は二重線に×をつける
・同世帯の場合は丸で囲む

例えばある女性Aさんの家系図を描いてみたとする。

家系図の例

・A さんは女性で配偶者と娘の3人暮らしで、息子は結婚して別世帯になっており、男の孫がいる。

・Aさんの生家は父が亡くなり、母は兄弟夫婦と同居している。パートナーは女性の兄弟が2名いて、うち一人は養子。実の兄弟は離別している。

描いてみるとだんだん自分や親が親しく付き合っている親戚とやや疎遠気味の親戚の関係が見えてくる。そして、祖父母の代になってくるとそれまで意識していなかった親族が出てきたりもする。

昔は兄弟の数も多く、幼いうちに死亡した人もいるから親たちに聞きながら描いてみると「え!そんな人がいたの?」と新たな発見があるかもしれない。

今は家系図アプリもあるので、自分で描くのが面倒な人は利用してもいいだろう。

家系図から見えること・見えないこと

亡くなる少し前に父は焼き増ししていた父の祖父の兄弟たちの写真を私に渡し、「この人は〇〇で、この人は△△なんだ」と父が覚えている話を語り始めた。その後しばらく通院先の待合室でもずっと愚痴を交えながら自分の親兄弟のことを話すので内心ヒヤヒヤしたが、今思えば父なりに人生を振り返っていたのかもしれない。

既に聞いた話もあったが、メモ帳などに家系図を描きつつ名前や関係を整理してみると知らなかった父のルーツを垣間見ることができ、なぜ父が上京したのかも想像がついた。

父も家系図があると説明しやすくなったようで「その家系図くれ」と言い、手渡したら嬉しそうにしばらく眺めていた。

後で母に聞くと事実と異なる話も混じっていたようだが、どうやら父の頭の中の家族像を私に語ることで自分のルーツにまつわる記憶を子孫に伝えたかったようだ。

実は父の生まれ故郷は福島第一原発から30キロ以内にあり、2011年の原発事故の影響で地震の被害は少なかったにも関わらず全村避難となった。

今では一部の帰還困難区域を除いて避難も解除となり、徐々に人が戻ってきたがそれでも事故前の人口の1/4前後らしい。

上京して60年以上経過し、家もお墓もこちらにあったが「死ぬ前に一度両親の墓参りをしたい」とリハビリに励んでいた。口では未練がないと言ってはいたものの、やはり復興に向けた故郷を自分の目で確かめたかったのかもしれない。

家系図を作るタイミング

家系図をいつ作るといいのか?と聞かれたら思い立った時と答えるだろう。家族にトラウマ等がある人は無理に作る必要はないが、できれば親(理想は祖父母)が元気なうちに作成するといい。

意外と知らない親戚のことを知るいいきっかけになるし、幼いうちに感染症や事故などで亡くなった親戚は意外と多い。当時の状況などを知ると今の社会保障制度ができた事情などが分かるし、歴史の授業で聞いた話が身近に感じられるようになる。

本格的に作る場合は戸籍を取り寄せるという手もあるが、費用がかかるし住んでいる自治体と本籍地が異なると手続きが煩雑になるから万人向けではない。

自分の祖先について調べてみると思いがけない話を聞くこともあるかもしれない。以前叔父の相続手続きをしていた父からある日「故郷の村に共有名義の山があるけど、どうする?」と尋ねられ、「いやぁ…」となったら叔父の分などを処分した際相当大変だったこともあってか、翌年「山の名義は手放したから」と報告を受けた。

意外と親の土地や財産、お墓や相続の話はしづらいから家系図をきっかけに話し合うのもいいだろう。

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