見出し画像

PFAS汚染を追って〜綾部市で考えた、国の今後の対策と行方〜

PFAS汚染を辿れば辿るほど、その傾向(汚染源)がだいぶ見えてきたが、「え!?ここでも」ということが増えた。それだけ、“フォーエバー”ケミカルの残留性が強いということだ。
今回は、京都府・綾部市へ。ここでもPFASを使用していた工場・基地はない。


環境省調査で、なぜ高いのかは気になっていた

新緑溢れる5月20日、京都駅から電車に1時間ほど揺られ到着したのは、綾部市
京都駅からは、舞鶴方面に向かう列車に乗り込む。
いわゆる“京都の街並み”とは違う、緑豊かな山々を北上した。

綾部駅周辺は、ビジネスホテルや観光案内所もあり、整備されている。

報道ベースでは、あまり情報が出ていないが、先に断っておきたいのは、筆者は危機感を煽りたいわけではなく、この“残された”対策をどう国がリードしていくかを問いたい。

本題に移る。
汚染発覚は、昨年9月に京都府から、綾部市内の環境基準点で、暫定指針値50ng/L超過の報告を受けたことに始まる。
その後、府は井戸も含め水質検査を実施。汚染源とされる事業者とも面談をし、対策を求めるなどしてきた。詳細は後述するが、幸いにも飲用水(浄水・簡易水道含)にPFAS汚染がなかったとはいえ、全国各地で広がる汚染のニュースから住民の方からの不安の声があったことは事実だったという。

また、環境省が取りまとめてきた「公共用水域及び地下水のPFOS及びPFOA調査結果一覧」からも明らかであるが、市内の犀川(さいがわ)がなぜ高いのか?筆者自身も、同調査を取りまとめていた際、疑問であった。

令和1~4年度公共用水域及び地下水のPFOS及びPFOA調査結果一覧(環境省) 50ng/L抜粋
筆者編集

河川を辿ると濃度が高まる

「素人でもたどれば汚染源がわかる」
先の視察でお世話になった、丸尾まき兵庫県議の言葉だ。

昨年8月の調査では、犀川の小貝橋で220ng/Lだったが、その上流にある支川天野川との合流地点では、8月23日に2,800ng/L(PFAS合算)。その後、9月25日には、6,300ng/Lという値が検出されていた。
すなわち、天野川を上流に行けば、自ずと汚染源が特定できるというわけだ。

そして、事業者放流原水では、49,000ng/L(8/23)
同事業者による、活性炭交換後でも36,000ng/L(9/20)と非常に高い値が検出されていたのだ。

京都府資料(2023/9/29)

ここで整理すると、汚染源→天野川→犀川→由良川と水は流れていくわけだが、上記図の通り、PFASは“薄まって”いく。
とはいえ、高い値を検出した周辺には住民の方もお住まいで、農産物も多く育てられ、自然環境豊かな場所だ。今、地域の皆さんはどう考えておられるのか。

飲用水への影響はない。農水用の水も守られはした

今回は、中島ゆうこ綾部市議のコーディネートで地域の方のお声を伺うことができた。
中島さんとともに訪れたのは、市内・物部町須波岐(ものべちょう すわぎ)地区。綾部駅から、約20分。山々に囲まれ、由良川や犀川に沿って向かった。
その途中、物部保育園の前を通った。
「水道水への影響は確認されていないとはいえ、一部の保護者の方が心配している」と中島さん。

その理由は明らかだ。
(仮に)川の汚染が染み渡り、土壌汚染につながりかねないからだ。
子どもたちが遊ぶ際に、何らかの形で曝露もされてしまうかもしれない…。
しかしながら、土壌の規制値は国内にはない。

続いて、高い数値を検出した天野川を渡った。ご覧の通り、とても綺麗な色だ。
右には、田んぼ・田園風景が広がっている。

橋から上流を望む。

須波岐地区に到着。
「綾部つむぎ」という現地の創作お料理屋さんのお弁当をいただく。これがまた美味で、綾部をより好きになった。

須波岐地区は、50戸くらいの集落。農業も盛ん。
汚染発覚は、寝耳に水だったが、そもそもどんなものかもわからなかった。
9月の発覚以降、京都府と市も自治会をはじめとした関係機関との意見交換、調査の実施をしてくれてはいるものの、今後どうなるか。
行政が積極的に関与してほしいと、地域の方がお話をされた。

この間、PFAS問題に積極的に取り組んでおられる原田浩二先生(京都大学)とも面談をされたという。
先生は、「地元の行政(京都府・綾部市)が向き合うことが一番大事」と仰ったとのこと。この言葉が最も印象に残られたそうだ。

また、3月には、国立環境研究所が現地調査に。
同下旬には、農水省による説明会、翌4月には、現地調査とサンプル(水質と土壌)が採取されたという。
特に、環境研究所には、自らメール。「PFAS問題は、社会事象の問題なので、対策にあたることが責務なのではないか!」と送ったことが、調査につながったのではないかとおっしゃられていた。

資料等をもとに貴重なお話を伺った

また、同地域の地理的状況についてもご説明いただいた。
今回の汚染源は、天野川の上流にある、産廃施設が原因とされるが、その真横には、市内で最も大きい早間池がある。この池からは、天野川に加え、農地にも直接水が流入するというが、幸い池の汚染は確認されなかった。

柵を超えた先に、早間池

とはいえ、先の保育園の保護者の方の心配の声にもあるように、土壌への汚染はどうなのか。
東京多摩地域や大阪摂津のように、地下水の動きを読むことは難しいが、そうした意味でも、土壌の基準をどうするか、農水省調査が期待される。

提供資料等をもとに、Googleマップに筆者加筆・作成
なお、あくまでも断定内容でないことを付記する
汚染されていない用水路。
広がる田園風景。
由良川。高い数値は出ていない

埋め立てられた産廃処分場。負担増の費用と今後は?

汚染源とされる産廃事業者と行政側は、少なくとも2回の面談を実施している。また、昨年9月には、事業者宛に文書を発出している。
PFAS低減効果が期待される活性炭をどう活用するか、ということが主だったというが、先述したように、“激減された”とはいえる値にはなっていない。
また、9月に導入された活性炭は、PFAS除去に特化したものではなかったという話も聞く。

ちなみに、費用は50万くらいだったようだ。
とはいえ、今後暫定指針値に下げるまで、どのくらいの年数がかかるのか。
また、産廃処理場にPFASを含む“何か”がどれくらいあり、残っているのか。
全て未知数だ。

低減するまでの間、都度50万円の負担を事業者がしていくのか?
事業者任せになるのか?
PFAS汚染による様々な影響が考えられていなかった当時の負の遺物が、ここに埋められてしまっていることで、責任も、対策の所在も問われることになってしまっている。
そもそも、どこまで値を下げればいいのか、安心・安全なのか。国が速やかに示すべきことに変わりない。

産廃処分場は既に埋め立てられており、揚水浄化施設だけが残る。
一部加工しています。
埋め立て期間は、平成16年から令和5年までと長いが、今は丘のようにしか見えない。

まずは知ること、そして国が対策を示せ。

市や京都府の対策状況についても伺うことができたが、繰り返しで恐縮だが、国が様々な規制・基準を示すべき。
そして、環境省任せだったり、農水省とそれぞれが分業で取り組むのではなく、横断的に対策にあたることが急務であることに変わりない。

そこに住む住民の方の不安をどう取り除くか。
そのためにこそ、PFAS対策の議論はより加速すべきだ。

綾部バラ園「春のバラまつり」も開催していた。
おすすめスポット。

環境省・農水省は対策を加速させるか?

5月15日、吉備中央の町議の皆さんが衆議院議員会館に来られ、環境省に要請書を提出。意見交換も実施された。下記引用記事をご参照いただきたいが、「環境省は、活性炭処理の現状を把握するため全国の業者に対する実態調査にとりかかり、2024年度中に結果を公表するという。」

この動きに加え、農林水産省も「農林水産省が優先的にリスク管理を行う対象に位置付けている危害要因についての情報(有害化学物質)」等で、農畜産物の含有実態を調査する方針を示しており、今後の対策が期待される。

内閣府食品安全委員会のパブコメ取りまとめもそろそろと思う。
「もう製造も輸入も禁止しているから、問題ない」
その一言で片付けられるほど、容易ではないPFAS対策。

“永遠”の科学物質を永遠に対策し続けることなく、根絶するためには、欧米諸国にならって対策を深化・スピードアップするしかない。

綾部市の名産。ぜひ、多くの方に綾部に訪れていただきたい。魅力がたくさんの街だ

【動画ダイジェスト】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?