雑誌POPEYEに学ぶ、企画・文章のつくりかた
私は沖縄住まいのローカルガールでありながら、シティボーイ御用達の雑誌POPEYEを定期購読している。
シティボーイに憧れているわけではない。むしろ興味がない。なのに圧倒的に企画と文章が面白くて、あまりにも毎回”つい”買ってしまうので、もう観念して定期購読することにしたのだ。
ターゲット層から著しく外れるはずの自分がこんなに惹かれるなんて...と思いつつ、ひとつ疑問に思うことがあった。そもそもPOPEYEでは戦略的な企画をあまり見ないことだ。「確実に当てに行くネタ」よりも「唯一無二の新しいネタ」が圧倒的に多くて、しかもそれが面白い。
なぜだろう。
どんな編集体制で仕事をしたら、こんな斬新な企画と唯一無二の文章が作り出せるのだろう。
文章のうまさは外部ライターを発掘したのだとしても、企画や構成の面白さは編集によるものなはず。
POPEYEのコンテンツは、たとえば「きゅうりとバナナって形似てない?」というゆるふわな理由で、きゅうりとバナナのレシピを紹介するページをこしらえたり(レシピはとことんお洒落!)、夏特集で「どこにも行かないサマー」を提唱したり(コロナ禍だから、というわけではなさそうなところがまた好き)、読書特集では洗濯したシャツが乾くまでの間、しばし読書に浸るという暮らしを切り取った1シーンを提案していたり、とにかくお洒落とヌケ感のバランスが絶妙だ。
グータラの許容具合もお洒落さの散りばめ方も素晴らしくて、見るたびに「最高!」「うわ〜そうきたか!」となる。そして同時に、いつも頭をよぎる。「企画が通らなさそう」という生々しい感想が。
編集会議で「きゅうりとバナナって形が似てると前々から思ってたんですけど...」から切り出すプレゼンって、どうやったら成功するんだろうか?
こんなこと考えちゃうから凡人なのかもしれない...と思っていたら、ちょうどいい本を見つけた。それがこちら。
POPEYEで20年働いて独立した都築響一さん著書「圏外編集者」
やった!内部事情を知るチャンスだ!と不純な動機MAXで読みはじめたら、もう面白くて面白くて。一気に半分くらいまで読み込んでしまった。
そして一番気になっていた編集体制の答えも奇跡的に書いてあった。ネタバレすると、POPEYEには編集会議たるものがないらしい。衝撃の事実。
じゃあどうやってジャッジするかというと、それぞれの編集者が企画を編集長に持っていき「面白そうだからやらせてください」って言うんだって。超シンプル。
そのアンサーに続くこの言葉を見て、またまた超納得してしまった。
取材は「おもしろいってわかってる」から行くんじゃない。「おもしろそう」だから行く。だれかが取り上げたものは、それなりに内容がわかっているけれど、だれもやっていないものは「ほら」って見せることができない。うまく記事にできるかどうかわからない。でも、おもしろそう。だから行く。そういうこと。
脳みそを地面に叩きつけられた気分になった。POPEYEの面白さを知っていながらアンパイでやってきた自分が情けない。そうだよなぁ、そういうことだよなぁ。
一気読みしながらも付箋だらけになった本を振り返り、とくに胸に刻んだ文を引用したい。
そこにいるのは「ひとりひとりの読者」であって、「読者層」じゃない。
ほんとうに新しいなにかに出会ったとき、人はすぐさまそれを美しいとか、優れているとか評価できはしない。最高なのか最低なのか判断できないけれど、こころの内側を逆撫でされたような、いても立ってもいられない気持ちにさせられる、なにか。
評論家が司令部で戦況を読み解く人間だとしたら、ジャーナリストは泥まみれになりながら、そんな「わけがわからないけど気になってしょうがないもの」に突っ込んでいく一兵卒なのだろう。
ですよね。そうですよね。もうホントに反省。私間違ってました。読みながら心の中でペコペコした。
当てにいけるネタへの嗅覚ばかり磨いてきたけれど、私がこれまで切り捨ててきた中に、誰かに新しい価値観を提案できる企画があったのかもしれない。いや、切り捨ててきた"一見どうなるか読めないネタ"をどう面白くするか、こそが、私が磨くべき技術だったのかもしれない。
この流れで実はもう一冊見つけてしまった編集・企画の本があり、これまためちゃくちゃ良かったので紹介したい。それがこちら。
マガジンハウスで「anan」の編集長を、「POPEYE」「Hanako」では副編集長をされていた、能勢邦子さんの『なぜか惹かれる言葉のつくりかた』
前回、文章術の本は読まないと書いておいて恐縮だけれど、言い訳させてください。この本は「文章術」の本というより「言葉」を吟味し、扱い方を学ぶ本だった。
気付けば付箋だらけになったこの本は、雑誌編集長目線のキャッチーなタイトルの付け方や、言葉・語彙のストック方法、流行語はどれくらい流行っているものを使うかなど、実践型のテクニックと心構えがわかりやすく力強く書かれている。
小難しいことは一切書かれていないリズミカルな文体自体から学べることもあるし、言葉がスパッと潔くて心に留めやすい。とくに好きだった言葉や考えるきっかけになった記述を少し引用する。
企画のコツは、一秒でも早く、一秒でも長く考えること。
ネット検索する前に充分に考え、疑問を疑問のまま書き出しておくと、検索ワードが変わり、収集できる情報も変わってきます。
まず考えるのは「伝えたいこと」が過不足なく伝えられているかどうかです。過不足なくというところがポイントで、欲をかいて無駄な言葉を足すことも、無理して語数を減らすことも、同じくらい必要ありません。
「便所」というといかにも臭ってきますよね、だから「トイレ」と呼ぶようになったのです。「便所」の前は「厠(かわや)」と呼んでいました。「厠」が臭うようになって「便所」、「便所」が臭うようになって「トイレ」と変化したのです。
ひとつ、とても考えさせられたエピソードがあった。1日でグルメ取材を5〜6件こなすライターの話だ。
グルメ取材といえばピークタイムはアポが取れず、食べたり聞いたり撮ったりと忙しいので1件につき1時間半はかかる。お客が多い場合は待つこともしばしば。つまりグルメ取材は1日に2〜3件くらいしか回れないことが多い。だけどその女性は5〜6件。しかも原稿をスピーディーに仕上げる上に、文才もピカイチだと書かれてある。
そんな魔法みたいなことある?!と思いきや、答えは簡単だった。そのライターは取材前にかならず、お客としてその店に足を運んでいるのだそうだ。
実はそのアイディアは浮かんだことがあった。お恥ずかしながら「それができればいいけど、そこまでできない」と決めつけていたことだった。だけどこれを読んで時間短縮と記事のクオリティアップができるなら、ランチ代1000円くらい出せばいいじゃないか、と思うに至った。思考停止ってほんと恐ろしい。最小限しか動かないことを前提に仕事をする姿勢が染み付いていて最悪だ。
反省しつつ、潔く盗ませていただくことにした。ほかにも私はこの本に載っていたテクニックをざっと数えても7つすでに盗むことに成功している。
それにしてもいい文章を書くには、好きな文章をつくる媒体と、その媒体に携わっている人から学ぶのが一番だなぁとしみじみ。ちなみに私のようなローカルガールやPOPEYE未経験者の方は、踏み込みやすい(?)読書特集からデビューがおすすめ。
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