2021年マイベスト本【エッセイ・対談・小説・歌集】

エッセイが好きだ。対談が好きだ。小説と歌集は、文章の仕事でありながら、文章の仕事から離れさせてくれる文章として好きだ。

2021年は特に多くのエッセイを読んだ年だった。コロナ禍で自粛ばかりで、自分の心に向き合いたかったから。他者の雑談に触れないと、自分について気付く機会がとても減るのだと知ったから。

ということで、2021年読んだ中でも特に面白かった本をまとめて書き記そうと思う。今回はエッセイ、対談・往復書簡、小説、歌集。

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2022年も素敵な本に出会えますように。

エッセイ

・わたしを空腹にしないほうがいい 改正版

著者のくどうれいんさんが好きすぎて、聖地巡礼がてら岩手まで行って買った本。片道10時間かかったけど、行ってよかった。なんせ、この本が書店のみならず雑貨屋や自動販売機(!)でも販売されていたのだから。いかに地域の方に愛されているのかが伝わってきて、1ファンとしてはにやにやが止まらない。

本は作家くどうれいんさんが初めて出版したZINEだ。俳句をタイトルにした短編のグルメコラムがたっぷり詰まった一冊。「食べること」と「暮らすこと」を味わい深く表現する、身体においしい一冊。料理苦手なんだけど、これを読むと無性に料理したくなるから不思議だ。Amazonや書店では買えません。(1部書店、オンラインでのみ販売)


・牧師、閉鎖病棟に入る。

やさしい表紙、柔らかく読みやすい筆致。とは裏腹に、そこに書かれている物語とメッセージはとてつもなく大きくて恐ろしくて、絶望的だ。普通に生きている、社会を平和だと感じて日々を送っている人こそ、一読すべき一冊だと思う。ここに書かれていることは、明日自分に起こることかもしれないし、私たちが作り上げてしまった世界なのかもしれないから。

・Neverland Diner 二度と行けないあの店で

100人の書き手が「二度と行けないあの店」を綴るエッセイ集。638ページにも及ぶ鈍器本なんだけど、筆者の数が凄いのではなくて、これだけ力のある筆者ばかりを揃えたことが凄い。書く仕事を辞めたくなるほど、全員が全員、面白い文章を書くのだ。(やってられない!)

「二度と行けない」の定義やページ数、文章の味わいが筆者それぞれの個性を活かしたままで(統一していないのがとてもいい)、読後感もバラバラ。でもそれぞれの「二度と行けない店」が面白い。こんなお得なエッセイ集にこれまで出会ったことがない。

・心はどこへ消えた?

臨床心理士である経験を織り交ぜながら、社会から「心」を見つけ出すエッセイ、というか物語集。

人々の悩みに触れながら、プロでしか持ち得ない技術でその人の本心を引き出す。その作業はいつだって苦しみを伴うのだけど、そうすることでやっとクライアントの本心が見えてくる。そこでやっと「心」に出会う。私たちは誰もかれもが、思っているよりもずっと傷つきながら生きているのだ。

・言葉にできない想いは本当にあるのか

書店で一目惚れして買った一冊にハズレなし。表紙の余白と手触り、テキストの置き方などすべてが好みで即購入した。作詞家のいしわたり淳治さんが、スルーしてしまいがちなテレビ番組での芸能人の一言から流行語まで、さまざまな言葉を拾い上げ、観察し、面白がって、味わうコラム集。その考察なんと118ワード。

ライターとして言葉の味わい方を学びつつ、そのひとつひとつが純粋に楽しくて、毎日少しずつ読んでじっくり味わった本。

・平熱のまま、この世界に熱狂したい 「弱さ」を受け入れる日常革命

ありのままに生きたいと言いつつ思いつつ、自分の弱さからは目を逸らしてばかりだった。弱さにこそ、自分らしさが潜んでいるのに。そんなことに気づかせてくれた一冊。

著者はかつてアルコール依存症だった話を赤裸々に語り、朝顔を育てなくなって日々の彩りに気付けなくなったことについて気付く。弱さの受容と日常生活への感度の高さが積み重なって、私の目にはとても強い、芯のある人に映る。そこで気付く。等身大の自分を等身大のまま存在させることこそが、「ありのまま」であり、「強さ」なのだと。


・ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

イギリスに住むブレイディさんの主に息子さんとその周辺の事情を伝えるノンフィクション。異国情緒で行われている学校教育の数々はとても新鮮だし、それに対する著者の知的な思考や子どもへの目線が純粋に面白い。

衝撃を受けたのは、中学校の授業でFGM(女性性器切除)についてビデオを用いて学ぶことだ。授業を終えた後、生徒同士でアフリカ系移民に対して差別的な意識が向いてしまうことや、そもそも映像が結構生々しいことについて著者はこう書く。

教えなければ波風は立たない。が、この国の教育はあえて波風を少し立ててでも少数の少女たちを保護することを選ぶ。そして、こうやって波風が立ってしまった日常を経験することも、様々な文化や慣習を持つ人々が存在する国で生きていくための訓練のひとつだろうか。

余談だけど、私はこの本ではじめてFGMを知った。そのあまりにも悍ましい慣習が嫌でたまらなくて、人生ではじめて高額(私にとっては)の募金を行った。私も波風につき動かされたひとりなのだ。


・ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2

ぼくイエを読み切った後すぐに続編が出たので即買った。今は半分くらい読んでいるのだけど、異国で育つ子どもが成長する姿に純粋にジーンとくるし、相変わらず子どもの成長過程の深いところに気づいていく著者の知的さに憧れる。深い観察力と洞察力を私も身につけたいと思いながら、そのエッセンスを少しでも吸収したくて本を読んでいるところがある。


・おいしいもので できている

THE・偏愛本。食べ物への偏愛が詰まった一冊に、やられてしまった。最初のエッセイで1番好きな卵料理を「月見うどんの卵黄を破ってうどんをすする最初の一口」と表現した時点で、もう惚れた。自分が素敵なグルメエッセイよりも、人間らしさが全開の偏愛本が好きなのだと知る2021年となった。

対談・往復書簡

・ネコは言っている、ここで死ぬ定めではないと

著名な歌人である穂村弘さんと、精神科医で元産婦人科医の春日武彦さんがコミカルに「死」を語る本。短歌の世界には「挽歌」という死者をいたむジャンルが存在しているし、医師は否が応でも死と向き合うのが仕事。そんなふたりが「死」を見る目線は、思ったより客観的で人間的だ。

私は常々「死」について好奇心的に関心を持って生きてきたのだけれど、その好奇心をちょうどよく満たしてくれる一冊だった。(ほとんどの「死」に関する本はしんどくなって最後まで読めないことが多い)途中挟まれる対談風景と、それを客観視するネコのイラストもいい。

・ご本、出しときますね?

これも今年読んだ中で最高レベルに面白かった一冊だ。今年っていうか、私の読書人生で上位に入る対談本だった。そもそも私はオードリー若林さんの聞き上手さと少しの卑屈さ、知的好奇心の旺盛さが大好きで、それは日々あらゆる人に取材する身として、喉から手が出るほど欲しい才能でもある。

インタビュアーの師として見ている若林さんが対談形式で引き出す、小説家の面白さは、ちょっとびっくりするくらい特別に面白い!小説家の独特な感性に触れる旅へいざなってくれる一冊。

ちなみに本について語ったブログが2021年結構読まれた。


・往復書簡 限界から始まる

私が2021年読んだ本の中で最も「凄かった」本。なにが凄いって、お二方のの”本気”の言葉のやりとりと、その言語化。どれだけの時間、どんな風に自分と向き合えばこんなに心を言語化できるのだろうか。

読みながら心は終始グツグツヒリヒリしてて、だけど言語化に感動もしていて、自分の中からもいろんな感情(おそらく蓋をしていたものも含めて)が溢れ出して、所々でコントロール不可能なまでに嗚咽しながら涙を流した。なんかもうホント、凄い本。


小説

・ファーストラブ

先ほどご紹介したオードリー若林さんとの対談本に島本理生さんが出ていた、という理由で買った本。(映画化もされているのに全然知らなかった..)父親殺害の容疑で逮捕された女子大生をめぐり、臨床心理士の主人公と弁護士であり義弟の男性が女子大生をインタビューしたり過去を探ったりする物語だ。

幼少期の心の痛みが人間にどう影響するか、目の前にいる人が言っている言葉にどんな深層心理があるのか。追求と人間に関する細かい心の描写の数々がリアルで面白かったのと同時に、人生で自分がいかに浅はかに他人を判断しているか考える機会となった。

・ライオンのおやつ

たしか2021年の年始ごろに読んだ本だったのだけど、表紙を見ただけで未だに泣けてしまう。本は、余命を言い渡された女性が瀬戸内の島にあるホスピスに行き、過ごす日々を描いた物語。そこでは毎週日曜日、入居者が人生でもう一度食べたいおやつをリクエストできる「おやつの時間」があった。

思い出のおやつ、出会い、別れ、終焉、不安、穏やかな日々、揺らぎ...。そのすべてに終始涙が止まらなかった。嗚咽しながら読んだ本。今ある1日を丁寧に、大切にしたくなった。

・コンビニ人間

読書会にて色んな人が話題にしていたため購入した一冊。感情がなく、それを隠さなければいけないと思いながら生きてきた女性が、コンビニバイトに出会うことでやっと自分の居場所を見つけられた、という話。

多様性を受け入れる時代、というならば、他人を理解しようとすること自体、間違えているのかもしれない。怖いながら、「他者」について考えさせられた。(ちなみに読書会では、トラウマになりそうだという感想を述べた人もいた)


・何者

こちらもオードリー若林さんとの対談本にて購入。物語は就活中の学生たちによる焦りや不安、就職活動の壁とマウントなどが数人の学生との交流により描かれた本。

私は就活をしたことがないので、正直共感するところはあまりなくて、しばらくは感情が盛り上がることなく淡々と読んだ。途中、読むのをやめようかとも思ったのだけど、合間合間に挟まれた人間の小さな卑怯さとか弱さとか強さがなんだかリアルで最後まで読み進めたところ、終盤に一変。

どんでん返しってほどじゃないんだけど、ああ、これは水面下で広がりつつある社会と個人の問題なのかもしれないと、大きな課題を突きつけられたような衝撃をくらった。現代を生きるすべての人に、絶対に最後まで読んで欲しい一冊。


・滅びの前のシャングリラ

凪良ゆうさんの作品が好きだ。2020年に本屋大賞を受賞した「流浪の月」を読んで一気にファンになってしまったのだけど、本作を読んで凪良ゆうさんの魅力がわかった。人間の心を描く描写が凄まじいところだ。どんな目線で人を観察すれば、ここまであらゆる人の感情を、人生を描くことができるのだろう。

で、本の内容は一ヶ月後、小惑星が地球に衝突するニュースを受けて、世界が変わっていく物語。滅亡を前に荒廃していく世界の中で「人生をうまく生きられなかった」4人が、最期の時までをどう過ごすのか。そのひとつひとつの描写、そして終わり方がもう圧巻。

・こころ

今更ながら夏目漱石。なぜだか惹かれる年長者のもとへ足繁く通い、質問と観察を通して少しずつ距離が縮まるような、離れるような不思議な物語。見知らぬ人の思想を尊敬し、足繁く家に通う姿に携帯がない時代の良さに思いを馳せつつ、主人公の知的さに驚く。

偶然の出会いから興味へと発展させ、さらに時間をかけて関係を築き、理解したい気持ちを追求し続ける主人公の姿勢に惹かれ、自分が「観察する人間」になりたいのだと知った。

歌集

・水中で口笛

くどうれいんさん第一歌集。彼女の短歌の映像のつくられ方と、無邪気な可愛らしさ、世界の面白がり方や味わい方がぜんぶ好きだ。岩手県という地で生まれ育ったことの東日本大震災を思わせる複雑な気持ちも、短歌でしか表現できない形で詠まれている。

「水中では懺悔も口笛もあぶく やまめのようにきみはふりむく」(この短歌で流れる映像が凄い。ダイビングで同行者がのっそりと振り向くスローな時間経過と、それに伴う水中での音と息遣いが聞こえてきそう)「将来は強い恐竜になりたいそしてかわいい化石になりたい」「疎開してきみがこちらで住むことになってしまえばいいとは、さすがに」「ハムカツをげんきに頼むハムカツをげんきに頼むわたしを頼む」「噛めるひかり啜れるひかり飲めるひかり祈りのように盛岡冷麺」

・広い世界と2や8や7

永井祐さんの短歌の魅力がずっと説明できないでいる。言葉の美しさを感じたり、味わい深いものはあんまりないような気がするのだけど、ささやかに惹かれ続ける一首一首に気付けば中毒になってしまう。この感覚をなんと呼べばいいのかずっとわからない。そのわからなさが妙に心地よくて、何度も読んでしまう。

「もし子供がいたら我慢して雪遊びに付き合う自分になってるだろう」「一人カラオケ わたしはなぜかしたくなく君はときどきやっていること」「きみもいいやすくなるからぐちを言うなるべく面白くぐちを言う」「カートリッジを変えたみたいに金髪がきれいになっている朝の人」

・心がめあて

鈴木晴香さんの短歌が好きだ。感性が大好きだ。彼女の短歌を読むひとときは不思議と、女性であること、人間であること、私には好きな人がたくさんいるのだということを、ひとつひとつ認めていく作業のようだった。

「素裸で体重計に乗っている知りたいのはこんなことだろうか」「生きることすべてが予感じみている栞ははじめから挟まれて」「時すでに遅めの昼ごはんの人、話が合わないけど好きな人」「わたしの原材料の水、その他。その他の部分が雨を嫌がる」「春巻きの中身が醤油皿に崩れ見られるはずのなかったものたち」

・崖にて

リズムがすごく心地よくて、ハープの音色を聴いてるようなひとときが楽しめる歌集だった。音の良さとは裏腹に、心地よいリズムにのせられる言葉は女性であることの生きにくさや悲しさ、社会への課題などが込められている。そのバランスも含め、私にはとてもストレートに響いた。

「うし、みつ、どき 静かに立てり 今わたしこの世に刺さるブローチだから」「父は父だけの父性を生きており団地の跡のように寂しい」「して、自由にして、お前は 噴水はまっすぐ上がりとてもいい子」「自由とは速さ、たとえば鳥の糞 長女のように街は立つなり」「服を来ても少し震えているチワワどこへ行くのだろう旧姓は」

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以上、私が今年影響されたエッセイ、対談・往復書簡、小説、歌集でした!2022年も素敵な本に出会えますように。

ちなみに年末年始用に読んでいる本・雑誌は以下。読みまくるぞ〜〜〜!


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