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朝顔とねこちゃん(童話)

早起きしたねこちゃんがお散歩をしていると、元気に咲いている朝顔の花に出会いました。「うわあ、きれいなお花だなあ。」
美しい紫色の朝顔の花は、おひさまに向かってすっくと伸びあがっていました。つやのある緑色の葉っぱは一枚残らずピンとしています。

朝顔の花はよく通る声で言いました。
「おはよう、ねこちゃん。きょうはいい一日になりそうだね。」
「うん。ぼくもあさがおさんみたいに、しゃんとして歩くよ。」

ねこちゃんは、朝顔さんの真似をして
背筋をしゃんと伸ばして力いっぱい歩いていきました。


その日の夕方、ねこちゃんはまた朝顔さんのところへ行きました。
朝顔さんにあいさつしたかったのです。

ところが、朝にはあんなに元気だった朝顔さんは力なくうなだれていました。
まんまるに開いていたはずの花は、すっかりしおれています。

「あさがおさん、あさがおさん、どうしたの。だいじょうぶ?」
ねこちゃんの目からは、涙がぽろぽろと流れました。

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「だいじょうぶだから、心配しないで。夏が終わるころになったらまた会いに来て。」
ほとんど聞き取れないくらいのちいさな声で朝顔さんは言いました。

ねこちゃんは、涙をふきながら
「うん。わかった。夏が終わるころに会いに来るよ。」
「空にお魚のうろこが見えたら夏の終わりの合図だから、
きっと会いに来てね。」
「ぼく、毎日空を見るよ。お魚大好きだから、うろこならぜったい見つけるよ。」
もう、朝顔さんに答える力はありませんでした。


それからねこちゃんは、くる日もくる日も空を見上げていました。

そしてある日、真っ青な空一面にうろこみたいな白い雲が浮かんでいるのを見つけました。
「夏の終わりの合図だ!」

ねこちゃんは走って朝顔さんのところへ行きました。

朝顔さんがいたところには、あのきれいな紫の花はありませんでした。
ねこちゃんはきょろきょろあたりを見回しました。

濡れたように光っていた緑色の葉っぱは、茶色くなっていました。
ところどころに茶色い星のかたちのバッジがあって、そこにまあるいものがくっついています。

朝顔のバッジ


「ねこちゃん、約束通り来てくれたんだね。」
「うん。お花はもうないんだね。」
「そうだね。でも、茶色い星があるでしょう。星のまんなかについている、まあるいのを取ってみて。」
ねこちゃんがおそるおそる手をのばして手に取ると、ちいさい丸いものが ぽんとはじけて、中から真っ黒いつぶが出てきました。

たね

「わぁ、6つもあるよ。」
「それはわたしのたね。もうじき冷たい風がふいたら私はいなくなるけれど、そのたねを見たら私を思い出してね。」
「えっ。あさがおさん、いなくなっちゃうの。ぼく寂しいよ。」
「しばらくお休みするだけだから、寂しくないよ。寒い冬が終わって、おひさまがまぶしくなった頃にたねをまいたら、また会えるよ。」
「また会えるんだね!このたねを見て、あさがおさんのきれいなお花を思い出すよ。星のバッジのこともね。」

「じゃあ、きっとまた来年会いましょう。」
「うん。じゃあ、またね。」

ねこちゃんはたねを大事そうにポケットにしまいました。

そして、花が咲いた朝顔さんのように背筋をしゃんとして、元気に歩き始めました。

おわり


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