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ここで飲む幸せを噛み締めた1杯のWATER

「とりあえず、生で」
居酒屋や懇親会などで、私はそれを言えた事がない。

「すみません、カシオレでも良いですか?」

そう言って、女子アピールや可愛く見せたいとかでは無い。
本当は私だって周りと同じように生ビールをグビグビ飲みたい。

私は炭酸飲料が飲めない。

この事実が全てを掻っ攫っていく。
別に今に始まった事では無い。物心がついた頃には"私は炭酸が飲めない"と自覚していた。
飲まず嫌いでは無い。
本気で本当に身体が、舌が受け付けないのである。


「なに可愛子ぶってんねん」とか、「空気読めないなぁ」とか、よく言われたものだ。

たまに、「そんなこと言って、本当は飲めるんでしょ?」とかほざいて、あれよこれよとお酒を飲まそうとしてくる最低な奴らも居る。
そういう時は心の中で、
「私を酔わせたいわけ?お酒飲んでやるよ。日本酒一升瓶持ってこいよ」と思っている。
そう、私はお酒は弱くない。

最近では、「アレルギーなんで。アレルギーは命と背中合わせなんで。責任とれます?」としつこく求愛してくる目上の男性に言ったこともある。
それぐらい、炭酸飲料においての拒否反応が酷い。


でも、たまに。
ごくたまに、飲みたくなる時もある。いや、違う。
"みんなが普通に飲めるなら、私もそろそろ飲めるんじゃないか"
といった淡い期待を持ってしまう。
その時は相手のグラスを一口貰い、そしてすぐに後悔する。
年に1回は確認作業をしているが、やはりまだダメみたいだ。


私は社会人留学を経験した。
はっきり言って、外国に行くなら炭酸を飲めるべきだ。だって、水よりもコーラが安価だから。

「炭酸飲めへんからビールも飲めへん」
そう言った時、日本では基本的に「カクテルなら飲める?」と言われる。
だが、外国の現地(現地民がよくいく居酒屋)ではカクテルなど存在しない。勿論日本酒も無い。

「じゃあ水でいいや」周りはビール、私だけ水。


そんな生活が4ヶ月続いた。

楽しい留学だと思えたのは仲間が居たからである。私は独りでは無かった。クリスマスもお正月も、日本では出来ないようなことを、留学仲間と楽しんだ。


でも、お別れが来る。みんなが順番に帰国や別の国へいくのだ。

正直に言うと、留学というタイミングが合っただけで、
日本だと出会うことのない、きっと全く別世界のメンバーばかりだったと思う。
性別も元職業も年齢も学歴も出身地も違う。

だから、帰国すれば会う事はきっとほぼ無い。
みんなそれを分かっていた。


「今までありがとうな〜日本でも楽しくやれよ!」
また逢いたい。けどもう逢い難い、その事実を言わず、私達は乾杯を繰り返した。



そこで、ハッと気づく。


何人目かのお見送り会、つまり飲み会を現地の馴染みの汚い居酒屋で始める時、
私の前には水が用意されていたのだ。
単価がビールより高い水。
誰も、何も言わずに、そっと置いといてくれていた。
ビール以外は水しかない。だから分かりやすいのかも知れない。
けれど、私にとってはすごい温かかった。

この場所でこのメンバーで飲む事は
きっともう一生無い。

それを分かっているからこそ、誰も言わないし、誰も求めていない様な雰囲気を出す。
でも、どこか儚げで。切なくて。

たった水一本で、私はこのメンバーと出会えて本当に良かったと思った。

家族でも友達でも旧友でもない、ただ約4ヶ月の間、朝昼晩ずっと一緒に過ごしただけの関係。
それがもう、愛しい兄弟のような。

See you again.
また一緒に、次は日本で、また呑もう。


その約束はせずに、私達は次のステージへ進み続ける。

チョコレートに牛乳




社会人留学をする人は勇気と覚悟の持ち主だと思います。
私はダラけましたが、すごい方々ばかりでした。
あの環境を知る事が出来ただけでも、行く価値はありました。

仲間。
あれほど、男女問わずの関係性を築けたあの時間は、もう今後無いと思っています。

ありがとう。

社会人留学についてまとめてます。
良ければ合わせて見てください。

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