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セフレ以上、恋人未満。短編小説

「もうキミ、要らない。」
そう言われると目が覚めた。
夢か。
息を忘れていたかの様な感覚で冷や汗をかいている。暖房が暑過ぎたのか、それとも…。そう思いながら息を整え、隣に目をやると愛おしい彼が寝ていた。

彼。いや、正式にお付き合いをしているわけでは無い。
単に、彼の一人暮らしの家のベッドで、隣で寝ている関係。
いや、違うな。

セックス?そんなものはやり終えた。私達は"身体の関係"が既にある。



私達は1ヶ月前に出会ったところで、境遇が似ていたせいか打ち解けるのが早かった。

私の中では早々と"友達"では無く"男"として見ていた。
惚れたもの負け。
その言葉に激しく同意出来るほど私は彼に負けまくり、惹かれまくった。


手を出されたのも早かったと思う。
そもそもの私は、石橋を叩いて叩いて叩きまくって動くタイプの人間だが、この彼においては違っていた。
それが何故か嫌だとか、自分らしくないとは思わなかった。
それほど愛おしいが勝ったのだと思う。



「私は好意があるから、嬉しいよ」
そうキスをされる直前に伝えた。
愛おしい顔が近づいては離れて、近づいて。
テレビの音も聞こえない、目だけを見つめ合う、あの瞬間は心臓が止まりそうな程緊張し、顔が熱っていたと思う。

「かわいい」
そう返答が来た時に、脳内では疑問に思うことがあった。

"可愛いは嬉しいが、私を好きではないのか"
そう思わずにはいられない、もどかしい返答。

"ああ。好きと言って欲しい。嘘でも構わない。好きと言って欲しい"
喉から手が出る程、求めたんだと思う。
その想いが伝わったのか
「俺も好きだよ」
そう彼が言ってくれてからは、何があったか覚えていない。


涙は出なかったが、その瞬間は
今何時か、とか、帰らなくちゃ、とか、お酒くさくないかな、とか、
そういったことは全て忘れて、溺れるかの様にキスを重ねた。
もしかしたら目の奥では嬉しくて泣いていたと思う。


そっと手を繋いでくれる優しさ、
ゆっくりとした丁寧な言葉遣いの安心感、
運転している姿のスマートさ、
肌感も合えば、匂いも全て受け入れられる。
全てが一つずつ惹かれていく。




私は恋愛経験が一般女性より少ない。
ごく一般的な顔立ちをしているが、ガードが硬過ぎたのか、
それとも気を許して無さすぎたのか、あまり恋愛に発展する人は居なかった。

お付き合いをしても、お別れを言い出す時はいつも私からだった。

だからだろうか。
夢でさえも、"要らない"と言われた時は目の前が真っ暗になった。
ベッドから落ちたのかと思えるほど、心には傷が付いた。


もう一度確かめてみる。
私たちは付き合ってはいない。





「セフレにはなるつもり無いけど」
「都合の良い女になるつもりも無いけど」
「身体重ねたら、達成感で捨てられるよね?」

男の立場なら、ウザイなと思われても仕方のない事をベッドで横たわりながら尋ねる。
それでも
「俺はそんなつもり無い」
その無責任な一言に、何故か心を許してしまい唇を重ねる日々を過ごす。

「この関係はなに?」
そう聞いた時、もう彼女になる?とでも、俺のものになる?とでも、なんとでも言って欲しかった。
「恋人未満かな」
そう言われた時は、冷静に目を合わせて意識のあるキスを重ねた。




恋愛とは。
本命彼女になる方法は。
こうすれば意中の彼と付き合える。
そんな話題のネットやYouTubeを読み漁り、
一人でああでも無い、こうでも無い、を繰り返した。

彼の好みの洋服を着たいと思うし、一番の理解者になりたいとも思う。

けれど、分からない。
彼の思考が記載されてる説明書は無いだろうか?
どうやれば攻略出来る?

そう思いながら彼から呼ばれると、尻尾を振って会いに行く。そんな日々が続いた。



「好きだけど、付き合うのは早い気がする」
曖昧な、覚悟の薄い、やんわりとした言葉を使われた時、
"断られた"と思えば良かった。
それを都合良く"付き合える可能性があるのか"とポジティブに解釈しなければ、
こんなに辛い思いをしなくて済んだはずだった。







私は今、彼に好意がある。
けれど、これはいつまで続くのだろう。
彼にとって、癒しだとか、安心するだとか、そういった女性にならない限り、
彼は私を"一番"には考えないだろう。

他にセフレが居るとは考えられないし、そんな余裕のある人でも器用な人でも無さそうだ。

それでも彼の中での"私"は彼女では無く、仕事や趣味よりも価値の低い、"恋人未満"という低い立ち位置にいる。

悔しい。けれど現実である。





3ヶ月がタイムリミットだと思っているが、
もうそれまで待てば、私が抜け出せない気がする。

好きにならなければ良かった、そう思う前に、覚悟を決めよう。

早いかも知れない。けど。そんな事を言ってられない。
それほどの想いが募る。



「待たせてごめん。クリスマスも一緒に過ごしたいし、もう付き合おっか。」

そう言ってくれる事を信じて、今日も貴方の夢を見る。









チョコレートに牛乳



続編も出来ました。
セフレ以上、恋人未満の結末。






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