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坂倉将吾が攻守に見せる進化

有望株ひしめく広島の若手野手陣の中で、小園海斗と並ぶ将来のコアプレイヤーとして期待されるのが、4年目の坂倉将吾ではないでしょうか。

捕手ながら高卒1年目から二軍で.300近い打率を記録し、3年目の昨季は3番打者や外野手として起用されるなど、捕手としては出色の打力に大きな期待がかけられています。

今季は本人の強い捕手志望から、捕手一本での勝負を打ち出しており、ここまでは全て捕手として出場を続けています。そんな中、ここまでの実戦で既に3本塁打を放ち、OPS.900台を記録するなど持ち味の打力を発揮。加えてスタメンマスクを被る機会も増え、會澤翼に次ぐ二番手捕手としての地位を着々と固めつつあります。

そんな坂倉について、実戦のここまでの成績から、攻守における成長度合いを確かめていこうと思います。

1.打撃面

1-1.基本成績

まずはここまでの基本的な打撃成績を確認していきます。

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OP戦や練習試合を含め、ここまで全43打席に立ち、既に3本塁打と長打力を見せつける一方で、打率も.293と3割目前の数値を記録し、OPSは.911と捕手としては破格の打力をここまでは見せていることが分かります。昨年のOP戦はOPS.479、シーズンもOPS.610にとどまったことを考えると、その成長具合が窺えるのではないでしょうか。

※これ以降、一球速報データのないOP戦開幕前に行われた練習試合の成績は、除いた形の成績を使用しています。

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続いて投手の左右別成績を確認すると、母数の違いこそあれど、対右投手のOPSが.250も上昇し、K%も12.1%低下するなど明らかに対応力が上がっています。対左投手についても、打数こそ少ないものの、OP戦開幕前の練習試合では中日の福敬登から本塁打を放ったように、対応力は上がっていると考えてよいでしょう。

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最後に打球の性質や、打席内アプローチを確認しておくと、2020年の特徴として挙げられるのが、Pull%が70.4を記録する強烈なプルヒッターぶりです。ここまでの安打は全て引っ張った痛烈な打球から生まれているため、この方針は存外間違いではないと考えられます。ただあまり極端すぎるこの傾向が続くと、シフト等の対策が講じられ成績低下に繋がりかねないため、センターから逆方向の打撃も磨いてほしいところです。

もう一点特徴として挙げられるのが、前年から比較してコンタクト力が大幅に上がっている点です。スイングを行った際にボールにコンタクトした割合を示すContact%や、空振り率を示すSwStr%は大幅に向上し、リーグ平均レベルまで持って行っていることが分かります。強烈な打球を飛ばせる引っ張りの打球の割合を高めながら、コンタクト力も上げたためにここまで打撃成績を伸ばせたのでしょう。

1-2.球種/コース別成績

坂倉の打撃を解剖するために、ここからは球種やコースといった部分に踏み込んでいこうと思います。

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球種別成績については、2020プロ野球オール写真選手名鑑さんを参考に、球種ごとの成績を出すわけではなく速球系/曲がる系/落ちる系の3種に大別して集計しました。この3種の中だと、速球系に強く本塁打はいずれも速球系でOPSは1.349という数値を記録しています。曲がる系も長打こそなくOPSは.714にとどまっていますが、打率は.333を記録していることから、しっかり対応できていると言えるでしょう。2019年の曲がる系打率は.111だったことから、対応力が上がったことも窺い知れます。

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続いてコース別成績を確認してみると、2019年はアウトコースのボールに手を出すケースが多く、打席結果の44%はアウトコースを打ったもので打率は.259とまずまずの成績を残しました。一方で甘めのゾーンである真ん中については、全体の36%で手を出しながら打率.182を仕留めきれず、成績を伸ばせなかった要因ともなっています。

そんな2019年との対比的に2020年のコース別成績を見ると、アウトコースに手を出す機会は減り、真ん中のゾーンをしっかり叩いて打率.412/2本塁打を記録しています。アウトコースに手を出す機会が減った(44%→15%)一方で、インコースに手を出す機会は増えている(20%→35%)ため、もしかするとより目付けを真ん中からインサイドに変えたのかもしれません。いずれにせよ、甘い球をしっかり仕留められるようになったことで、打撃成績が向上したことが分かります。

1-3.打撃フォーム

ここまでは成績面から坂倉の打撃について、その特徴を確認していきましたが、ここからは少し趣向を変えて打撃フォームの面から特徴を探っていこうと思います。

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まず坂倉の打撃フォーム中で良い点を挙げると、踏み込み足を下ろしてバットをトップの位置に収めた時、画像中の丸印で記しているようにわき腹の部分にしわが出来ている点です。これは下半身は投手方向にベクトルが向きながら、上半身はその逆向きのベクトルとなっているためで、強い打球を放つために必要な割れをしっかり作れていることが分かります。

軸足を見ると、膝が外側を向く外旋状態をキープできており、下半身にしっかり力を溜めることができています。以上より、トップ形成時は非常に良い形のフォームと言えましょう。

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ただこの後のフェーズに多少の問題があるのですが、それがインパクトの瞬間です。良い打者の特徴として、インパクト時には踏み込み足を伸展させ、その踏み込み足を支点として回転していくのですが、坂倉の場合は踏み込み足の伸展が十分でなく支点となりきらず、骨盤の回転が弱いために軸足股関節の内旋も弱くなっています

西川龍馬インパクト

西川龍馬のインパクト時と比較すると、西川はインパクト時に踏み込み足を伸展させ、へそを投手側に向くまで骨盤を回していることがよく分かるかと思います。ただ今の状態でもこれだけ打てているため、この部分が改善されれば末恐ろしい打者となりそうです。

2.守備面

2-1.フレーミング

坂倉というとどうしても打のイメージが先行し、守備面についてはあまり触れられず、評価も然程高くないように思います。実際、本人も倉コーチも守備面(特に配球)はまだまだと語るように課題は山積状態なようです。

ただ守備面の筋は悪くなく、むしろ既に広島捕手陣の中ではトップクラスとも言える技術を既に持っています。それはフレーミングです。フレーミングとは、ストライクゾーンギリギリのボールを球審にストライクコールさせる技術のことで、年間単位だとフレーミングの優劣で30~40点ほど失点が変わるという試算があることから、捕手の守備面では最重要な能力となってきます。

そのフレーミングについて、坂倉は正捕手の會澤翼、磯村嘉孝らよりも優れたものを見せています。上記動画を見て頂けると良く分かると思いますが、ゾーンの外から内へしっかりミットを移動させられており、ストライクコールをされやすいフレーミングが出来ています。

ストライクボールの判定に敏感なK・ジョンソン低めに伸び上がるようなストレートを投じる森下暢仁カットボールやツーシームでボールを動かしながらコーナーを狙う野村祐輔らとはおそらく好相性だと考えられるため、これらの投手の先発時は優先して起用するのも良いかもしれません。

2-2.盗塁阻止能力

なかなか数値に表しづらい捕手としての守備能力ですが、古くから数値で評価されているのが盗塁阻止能力です。敵チームの盗塁企画に対して、どれだけ阻止できたかを割合で示しますが、2年前の日本シリーズで甲斐拓也が広島の盗塁企画を次々阻止したことで注目を浴びたのは記憶に新しいところでしょう。

その盗塁阻止能力について、坂倉は如何ほどのものなのか確認してみると、二軍を主戦場としていた2017年は.382、2018年は.302とまずまずの水準を記録しています。加えてこのOP戦以降では、13度の盗塁企画に対し4盗塁阻止で阻止率.308と一軍クラスでも通用するだけのスローイングレベルは持っていそうです。

とてつもない強肩というわけではありませんが、捕球からスローイングに移るまでの時間が短く、かつコントロール良くきっちりフォーシームを放れているため、盗塁阻止率において一つの基準となる.300以上の阻止率を記録できているのでしょう。ですので、盗塁阻止面においても、決して弱みとなることはないはずです。

その他守備面では、ブロッキングや配球面も守備評価の対象となってくるでしょう。ブロッキングについてはOP戦以降の出場68イニングで4暴投を記録しており、その他の捕手と比較しても多く記録*してしまっています。暴投は捕手だけの責任ではないとはいえ、坂倉のブロッキング能力の稚拙さも一因かもしれません。

※DELTA社の下記記事によると、2016年のデータながら暴投発生率の最も悪い炭谷銀仁朗ですら805イニングで30被暴投であることから、坂倉の数値の悪さが分かる

配球面はなかなか数値で語ることの難しい分野ですが、坂倉本人や倉コーチがまだまだ勉強と語っていることから、ここもまだまだこれからというところでしょう。試合前試合後に配球チャートを振り返りながら勉強しているようですので、その努力が実ることを期待したいところです。

3.まとめ

打撃面
・プルヒッティングを磨きながらコンタクト力も高め、OPS.610→.911まで向上
・速球系に強さを発揮し、甘い球を確実に仕留められるようになったことも成績向上の一因
・トップ形成までは良い形だが、インパクト時の踏み込み足伸展や軸足股関節内旋不足で、フォームはまだまだ改善の余地あり
守備面
・ミットを外から内に使うフレーミングは広島でも随一のレベル
・動作の素早さやスローイングの正確さで盗塁阻止能力も高い
・ブロッキングや配球にはまだまだ課題あり

以上が本noteのまとめとなります。

まだまだ母数は少ないものの、データから見るに確実に一軍レベルのボールには適応してきており、守備面でも想像以上にハイレベルなものを見せつけていることが分かります。

3年連続ベストナインを獲得している會澤翼や、磯村嘉孝、同年代の石原貴規、中村奨成とライバルは多いですが、まずは2番手捕手としての立ち位置を確立し、一軍での捕手経験を積みながら成長していってほしいところです。

データ参照:2020 プロ野球オール写真名鑑
      1.02-Essence of Baseball(https://1point02.jp/op/index.aspx)
      データで楽しむプロ野球(https://baseballdata.jp/)

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