見出し画像

人新世の「資本論」:第5章

とうとう、第5章。折り返しの章となりました。

第4章までは、SDGsは「大衆のアヘンである」という投げかけから始まり、マルクスが晩年に思いを馳せていた「脱成長コミュニズム」を目指す意義が説明されてきました。

そして、第5章のタイトルは「加速主義という現実逃避」。

加速主義(accelerationism)とは、現在の資本主義を加速させることによって社会的変革を達成しよう、という考えです。

筆者は、この加速主義は、現在の環境問題に取り組んでいるように見せて、実はただの現実逃避にすぎないと、批判しています。

それでは、ざっくりとこの章についてまとめてみたいと思います。

■加速主義:技術革新によって危機を乗り越えよう!

加速主義を掲げる一人として、アーロン・バスターニの主張が紹介されています。

アーロン・バスターニの主張
・「完全にオートメーション化された豪奢なコミュニズム」
・人口増加と経済発展は地球に大きな負荷をかけている
・しかし、環境危機は技術革新によって乗り越えられる
・さらに、プラスの循環をもたらし「潤沢な経済」になる

ここで、紹介される技術革新とは、例えば、

Q:牛の飼育に必要な広大な土地はどうしたらいい?
A:人口肉で代用

Q:人々を労働から解放してくれるロボットを動かすための電力はどうしたらいい?
A:無限かつ無償の太陽光発電があるよ

Q:地球にある資源は限られているよね…
A:宇宙資源採掘の技術が解決してくれるよ!

といったものが挙げられています。

技術革新によって気候変動問題に取り組もうとする人たちは、エコモダニストと呼ばれています。

技術革新によって、生産力を上げていけば、あらゆるものの価格が下がり、資源の問題にもお金の価値にも束縛されることない「潤沢な経済」を達成できる、とバスターニは考えます。

■加速主義への反論

① 加速主義は開き直っているだけ

筆者は、加速主義は楽観的な予測である、ただ自然を人類の生存のために管理しようとしているだけだ、と反論します。

第2章で「緑の経済成長」を目指す社会に「現実逃避の思想」と喝を入れたときと同じ状況です。

技術の革新を目指すためにも、大量の資源が使われることになり、その際に排出される二酸化炭素の量を考えると、結局は地球に負荷をかけることになります。

また、搾取する資源が太陽光や希少資源に変わるだけで、気候変動問題を引き起こしている外部化社会から脱却できるわけではありません

② 変革を起こすプロセスにも問題あり

再び、バスターニの主張に戻ると、彼は「選挙主義」により社会革新をもたらそう、と主張しています。

つまり、技術革新をよりスピーディーに行うために、国が補助金や法を制定する必要がある。そして、大衆はそういったリ考えをもつーダーを選挙によって支える必要がある、というものです。

しかし、政治の改革を行うだけで本当に資本主義に打ち勝つことができるのでしょうか。

バスターニは「生産関係の大転換」を目指すコミュニズムを掲げているもにもかかわらず、彼の政治主義を追求する考えでもたらされるのは、「投票行動の変化」のほうです。

結果、票が欲しいリーダーが人気獲得に精を費やし、さらには、日本の未来は専門家の権威に頼るようになり、大衆の主体性が失われいく恐れがあるでしょう。ここでは、気候毛沢東主義に陥る可能性も。

③「資本の専制」がさらに強化されることになる

また、筆者は、資本に包摂された社会のなかで、本来なら統一されていた労働での「構想」と「実行」が分離されてしまったことを危惧しています。

例えば、本来、人間は生きる術として、様々なものづくりの技術や農業の知識をもっていました。しかしその知識が作業の効率化・分業が進む中で失われ、今では多くの無力な労働者が、支持された仕事をするだけです。

このような社会では、「構想」の力をもつわずかな専門家や政治家が意思決定権をもち、閉ざされた情報や解決策が導入される可能性があります。

専門的な知識が必要とする新技術に頼らざるを得ない社会には、市民の意見は無力なものになる危険性があるでしょう。

■民主主義の拡大:世界中で広まる市民議会

「政治の力だけで資本主義に立ち向かうには限界があるのだから、資本と対峙する社会運動により、政治的領域を広げていく必要がある」と筆者は述べています。

その一例として挙げられているのが「気候市民議会」

この議会が生まれた背景として有名な活動が、イギリスの「絶滅への叛逆」(2019)やフランスの「黄色いベスト運動」(2018)です。

「黄色いベスト運動」の背景は、マクロン政権下の時に環境問題の面から「化石燃料税」を導入しようとしたことにあります。

環境のことを考えたら、いいことかもしれません。しかし、二酸化炭素排出に最も責任がある富裕層に対する「富裕税」を削除しようとし、市民に厳しい生活を強いる方針を打ち出したことに、市民は反論したのです。

そしてその運動の結果、マクロンが「気候市民議会」を開催しました。

フランスの市民議会
▪️2030年までの温暖効果がす40%削減(1990年比)に向けての対策案を作成
▪️選出方法
 →くじ引き(実際の国民の構成に近くなるようにランダムで)
 →150人ほど
▪️専門家による参加者へのレクチャー /議論 /意思決定
▪️2020/06 ボルヌ環境相に提出された結果の例
 →飛行場の新設禁止/自動車の広告禁止/エコサイド罪の施工 etc

実は、日本でも2020-2021年にかけ、北海道で全国初の気候市民議会が開かれました。

テーマは「札幌の温室効果ガス実質ゼロに向けて」。
市民20人が選ばれ、4回に渡り議論が交わされました。

この市民議会の開催によって、市民の意見が取り入られながら政治を変えられる可能性があることが証明されるでしょう。

■異なる「潤沢さ」を追求せよ

「経済成長と潤沢さ」を唱えたバスターニの考えを反面教師に、筆者は「脱成長と潤沢さ」を追求する必要があると言います。

「潤沢な経済」は結局は、あらゆるものを搾取し続ける資本主義の延長でしかなく、さらには、閉鎖的な情報に溢れた閉ざされた社会をもたらす危険性があるでしょう。

資本主義がもたらしてくれた潤沢さの裏にある、広がる格差、深刻化する環境問題にこれ以上、見て見ぬ振りはしていけません。脱成長を目指すことで得られる新しい潤沢さとは一体なんなのか、この答えを第6章で見つけたいと思います。


この記事が参加している募集

応援してくださり本当にありがとうございます☺️ 自分の夢を掴めるように、大学生活をがむしゃらに頑張る費用にします!