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ファルマコンを探して

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1990年の夏、美術館でもギャラリーでもない場所で、現代美術の展覧会が行われた。あれから30年。今となってはなかなか語られることがない。 そんな展覧会「ファルマコン’90」につい…
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記事一覧

ファルマコンを探して (12) ふたりの愛で天国へ❤️❤️❤️

ファルマコンを探して (12) ふたりの愛で天国へ❤️❤️❤️

前回は「週刊新潮」や「FOCUS」といった週刊誌が「ファルマコン’90」を取り上げた記事を紹介しました。いろんな媒体が展覧会に興味を持ってくれること自体は確かにありがたいわけですが、一方で週刊誌の興味が本当に展覧会そのものに向けられていたかと言うと疑問符がつきます。
いや、はっきり言ってしまえば、下種な狙いが露骨に見え透いていて、その清々しさに思わず笑ってしまうほど。ああ、週刊誌ってやっぱりそうい

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ファルマコンを探して (11) 展示風景が見てみたい part 3

ファルマコンを探して (11) 展示風景が見てみたい part 3

新たな雑誌記事検索システムを使うことができ、また新たに「ファルマコン’90」関連の記事を入手することができました。なかには展示風景を載せているものもあったので、ここでまたしても取り上げてみようと思います。

まずは「日経アート」90年9月号。

第6話で取り上げた「美術手帖」のものと撮影場所はほとんど変わらないですが、角度が違うので原口典之の「Untitled FDS」と「Untitled FBS

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ファルマコンを探して (10) 相互理解は一歩一歩確実に

ファルマコンを探して (10) 相互理解は一歩一歩確実に

第4話で触れたAC&Tコーポレーションが設立されたときに発行された会社案内パンフレットを見せていただく機会がありました。

せっかくなので会社設立についてのステイトメントを全文引用したいと思います。

 日本は現在、自他ともに認める経済大国であり、国際的にも重要な地位を占めています。しかし、一方では、貿易摩擦など諸外国との深刻な軋轢も出始めております。
 世界同一国家化の前ぶれとして急速に進みつつ

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ファルマコンを探して (9) これじゃあ“絵好ミック・アニマル”だ‼︎

ファルマコンを探して (9) これじゃあ“絵好ミック・アニマル”だ‼︎

すごい時代だったんだなぁ、と思わず溜息を吐きたくなりました。バブル期にまさに泡のごとく湧き上がっては弾けて消えていったアートビジネスに関連した資料に目を通しての感想です。「月刊美術」1990年4月号の特集「アートビジネス最前線」はそういった意味でかなり刺激的な内容でした。
今となっては「え、あそこが!?」と思うような会社が絵画の販売に手を出していたりします。たとえば、自動車のディーラー。日産自動車

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ファルマコンを探して (8) 現代美術なんて興味のない人たち

ファルマコンを探して (8) 現代美術なんて興味のない人たち

バブル期は日本の企業や実業家が「ジャパン・マネー」でさまざまなものを買い上げました。美術品もその例に漏れず、印象派をはじめとする絵画が日本にもたらされました。
安田火災海上保険がクリスティーズでゴッホの「ひまわり」を58億円で落札したのが1987年。当時のオークション最高額を更新しました。その後90年には斉藤了英氏がゴッホの「医師ガシェの肖像」を125億円で、ルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレ

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ファルマコンを探して (7) 1990年の夏、恐竜の夏。

ファルマコンを探して (7) 1990年の夏、恐竜の夏。

前回取り上げた「美術の窓」1990年9月号の「ファルマコン’90」レポート記事には、実はもう一枚、写真が添えられていました。
それがこちら。

「同時期に開催された『大恐竜博』を訪れる家族連れで賑う」というキャプションは、暗に「ファルマコン’90」が入場者が少なく閑散としていることを揶揄しているんじゃないか、と邪推したくなるのですが。
それはさておき、「ファルマコン’90」の会場の外では「大恐竜博

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ファルマコンを探して (6) 展示風景が見てみたい part 2

ファルマコンを探して (6) 展示風景が見てみたい part 2

あれから更にあれこれと検索をしまして、またいくつか資料を手にすることができました。

美術手帖にも取りこぼしがありました。1990年12月号に「『ファルマコン’90』が提示した場」というタイトルで美術評論家の高島直之氏による展評が寄せられています。
紙面3ページを使っての結構長い文章で写真もいくつか載っているのですが、そのうちのひとつは珍しく設営風景のもので目を引きました。

リチャード・セラ「M

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ファルマコンを探して (5) バスキアは今も人びとを魅了する

ファルマコンを探して (5) バスキアは今も人びとを魅了する

図録をパラパラとめくっていて「おや?」と目に止まったのがこちらのページ。

バスキアの作品「Untitled」ですが、ここ数年現代アートを見ている方はすぐにピンと来たかと思います。

2016年に前澤友作氏が5730万ドル(当時のレートで約62.4億円)で落札した、まさにその作品です。
週刊ダイヤモンド(2017年4月1日号)にはオークションの様子を前澤氏が語っています。

「40億円から始まって

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ファルマコンを探して (4) 経営者は現代美術の夢を見るか

ファルマコンを探して (4) 経営者は現代美術の夢を見るか

図録には作品リストが載っていて、作品の所蔵先も記載されています。せっかくなのでリストにしてまとめてみました。

⚫︎ 個人蔵(日本) 72
⚫︎ 個人蔵(海外) 14
⚫︎ 株式会社 福武書店 2
⚫︎ 有限会社TES 12
⚫︎ ツルカメコーポレーション 35
⚫︎ 川村記念美術館 1
⚫︎ Dia Art Foundation 1

⚫︎ 作家蔵(日本) 22
⚫︎ 作家蔵(海外) 1
⚫︎

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ファルマコンを探して (3) バッグの落札といつかの展覧会

ファルマコンを探して (3) バッグの落札といつかの展覧会

美術手帖1990年8月号に掲載された「ファルマコン’90」の紹介記事によると、この展覧会に投入された予算は4億5千万だそうです。ひとつの展覧会に!と驚きたくなりますが、幕張メッセを1ヶ月間借りる時点で相当な金額になっていると思われます(現在幕張メッセを借りようとすると1日約220万かかるらしい。30日だと6600万!)。
そこに巨大な作品の運送費や設置費用、会場の運営費や人件費なども加わると、巨額

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ファルマコンを探して (2) 展示風景が見てみたい

ファルマコンを探して (2) 展示風景が見てみたい

「ファルマコン’90」を調べるにあたって、まず入手しなければ話にならないと思い購入したのが図録です。

古書店のサイトを覗いてみても在庫がなく長期戦になるかと思いきや、タイミング良くネットオークションに出てきて落札できました。表紙が破れていたり書き込みがあったりしていたせいか、思ったより安い価格設定だったのも助かりました。
466ページもあってずっしりと重いこちらの図録。発行はアキライケダコーポレ

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ファルマコンを探して (1) ひと夏のまぼろし

ファルマコンを探して (1) ひと夏のまぼろし

国際展示場のような広大な空間を会場にして、国内外の著名なアーティストの作品を一度に見て回ることができる、、、そんなスケールの大きな展覧会がもし今の時代に開かれたら。
国内でさまざまな芸術祭やアートフェアが乱立しているほか、現代アートのイベント的なものも頻繁に行われているといっても、モーターショーや見本市が行われるようなところで自分の背丈を超える数メートル規模の平面や立体の作品に次々と出くわす経験は

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