【写真集】「YOSEMITE(ヨセミテ)」アンセル・アダムス

アメリカ・カリフォルニア州のヨセミテ渓谷。かつてアメリカのナチュラリストの草分けであるジョン・ミューアがその美しさを知らしめ、イエローストーンとともにアメリカを代表する国立公園となった自然の園です。

ジョン・ミューアの功績は、ヨセミテとホイットニー山(標高4,418m)を結ぶ340kmの長距離トレイルに彼の名が冠されている(ジョン・ミューア・トレイル)ことからもうかがえます。その先達と並びヨセミテの魅力を広く伝えたのが、写真家のアンセル・アダムス(1902-1984)です。モノクロで写し取られた1930~1960年代のヨセミテの風景は息を呑むほど鮮明で、写真が「光と影」で成り立っていることを改めて感じさせてくれます。

私の手元にあるのは、その名も「YOSEMITE」と題された写真集。アンセル・アダムスの写真に、彼が生前に記した文章や手紙がところどころで添えられています。1995年の本で、同じ年に宝島社から発行された日本語版です(下のリンクはオリジナルの英語版のものだと思います)。

特に魅せられたのは、雪に覆われた冬のヨセミテの静けさ、強風に吹きさらされ斜めになった木、そしてヨセミテを覆う迫力ある雲の写真などです。何十年にも渡り、季節を問わずこの渓谷のさまざまな場所を訪れて写真を撮り続けたのだろうということが感じられます。

この写真集には、アンセル・アダムスが生涯にわたってヨセミテをより強力に保護するよう訴え続けたことが記されています。国立公園になったとはいえ、来園者数の増加に合わせて観光客向けの施設建造といった開発が進められ、そうした流れにアダムスは強い危機感を抱いていたとのことです。

そうした観点からすると、年間数百万人が訪れる現代のヨセミテの状況は嘆くべきものかもしれません。それでも、一般の旅行者にとってこの渓谷が圧倒的なスケールで迫ってくるものであることは変わりありません。

私も10年以上前、いちどだけヨセミテを訪れたことがあります。入り口のゲートをくぐってから実際の渓谷の中心部に入るまで、車で30~40分ほどかかりました。渓谷の中でキャンプするだけの道具も技量・度胸(結構な数のクマが住んでいるそうです)もなければ、アメリカ屈指の人気高級ホテルであるアワニーホテルに泊まる予算もなかった私たちは、ヨセミテ付近の街で手ごろなモーテルに泊まり、毎日そこから車を運転して渓谷の中に入っていきました。

渓谷の入り口からほど近いマリポサ・グローブに立ち並ぶセコイアの巨大さ、展望台から望むハーフドーム、見たこともないほど長い松ぼっくり、辺りを走り回る何種類ものリス(シマリス、エゾリスに似たリスなど)、そして渓谷の中央部から見上げるヨセミテ滝…。今でもなお、いくつもの光景が鮮明に心に残っています。

実はそのとき、ローライ35Sをリュックに入れていきました。初級者のスナップ写真ながら私もヨセミテの景色を写し取りましたが、あまりに風景が巨大なだけに、もう少し視野を広角にできるワイド・コンバーターのようなものがこのカメラにあれば、と何度も感じたことを覚えています。アンセル・アダムスの写真集を紹介するエントリで自分の素人写真を載せるのはあまりに恐れ多いので、それはまた別の機会にしようと思います。

もういちどヨセミテに行くのは、自分にとって経済的にも時間の面でも相当難しいことです。それでも、ぜひもう一度訪れてみたい場所のひとつです。アンセル・アダムスの写真を見るたびに、その気持ちを強くしています。



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