鑑定士の長のこだわり
「僕はね、いつもオリーブオイルを持ち歩いているんだよ。」
鑑定士の長が、語り始めた。
「どんなに美味しいレストランでもね、オリーブオイルが美味しくないとガッカリしちゃうんだよね。だから僕はいつも、マイオリーブオイルを持ち歩いているんだよ。」
たしかに。
最近増えた、小洒落たようなレストランだったとしても、
どんなに素敵な盛り付けだったとしても、
「オリーブオイルをお願いします。」と頼んで
出てきたそれが、市販の安物だったりしたら、ガッカリしてしまう。
コロナで増えた使い捨てオリーブオイルもまた同様である。
でもなんとなく、
オリーブオイルを持ち歩く…までにはならなくて、
ただただ、ガッカリするだけ。
でも、そういうレストランは、案外、少なくない。
それぞれのテーブルに高級なオリーブオイルなんて、なにしろ、安くはない代物である。
特に、トスカーナ。
経費が高いせいか、トスカーナのオリーブオイルは立派な高級品。
「値段が高いから…ですかね。」
私がそう言うと、長は思いの丈を語り続けた。
「高い?本当に、高いのかなぁ。そういうのはね、例えば、ビステッカフィオレンティーナの金額を1〜2ユーロ上げるだけで、各テーブルに100mlの美味しいオリーブオイルを置くくらいには出来るんじゃないかなぁって思うわけよ。ようはさ、高いか安いかの話じゃなくて、どれだけ新鮮で良質な食材にこだわっているのかっていう、レストラン側の姿勢だと思うわけ。」
鑑定士の長は、そのこだわりが強すぎて、
つい、あるレストランで、「オリーブオイルを持ち込むな。」から始まって、言い争いになったのだという。
「良いんだよ、別に。二度と行かないからさ。でも、食材と真摯に向き合わないレストラン側はさ、その後に何を失うのか、よく分かっていないんだよ。」
わかるような気がした。
皆、真剣なのだ。
作る人も、提供する人も、それを消費する人も。
良いものを作る
良いものを提供する
良いものを消費する
簡単なようだけれど、簡単ではない。
鑑定士の長のこだわり。
それは、オリーブオイルへの愛であり、
食への愛でもある。
ますます、思った。
自分がしている事、ちゃんと代弁しないと…と。
自然が作り出すチカラを、ちゃんとカタチにしないと…と。
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