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トスカーナ・オリーブの夢 トラブルを越えて

「今日の搾油、出来そうにないんだ…」
うつむき加減で、世話役フランコが言った。

聞くと、
オリーブを搾り取る機械の一部が壊れてしまった…というのだ。
週末という事もあってか、壊れた部品を購入するのも容易ではないらしく、
週末に開いているお店を調べて、遠く離れたところまで買いに行く事を考えると、
今日中に搾り取るのは、多分、無理…
という事だった。

オリーブは、収穫されてからの時間が、オリーブオイルの出来にも繋がる。
もちろん、その味には、いろんな要素が含まれるから、それだけが決め手ではないけれど、摘み取ってからの時間は、早いに越したことはない。
そうでなければ、オリーブ自身の重みや、収穫された時の衝撃、その日の気温などで、発酵が進んでしまうからだ。
ちなみに、通常のエキストラバージンオリーブオイルで、24時間以内、BIOであれば、12時間以内に搾り取られるよう決まっている。

今日収穫したのを、今日中に搾り取るつもりでいたから、
果たしてどうなってしまうだろう…と不安になる。

「見込みがついたら、連絡するから!」という事で、
搾油所を後にする。

多分この時、私より、世話役フランコの方が、落ち込みが激しかった…と思う。
あまりよく分かっていない人間の陽気さとは、まさに、自分のことだと、今でも思う。

その夜遅くに、どうやら機械は通常通り動くようになったことの連絡を受けた。

翌朝、早速、世話役フランコからメールが届いていた。
「搾油は、朝の10時に予定しています。」
今なら、間に合う。
朝ごはんも食べずに、家を飛び出た。

搾油所に着くと、搾油の機械が大きな音をたてて、朝から忙しそうに働いている。
搾油所の若者が、こちらに気づきニコニコしながらやって来た。
「YUKIでしょ?フランコから聞いてるよ。ちょっと待っててね。」
そう言うと、奥の方でなにやら別の担当者と話し合い、戻ってきた。

「あと15分したら、君のオリーブを投入するよ。」

前日のトラブルもあって、立て込んでいる最中、わざわざ、先に回してくれた…みたいだった。
こういうところ、イタリアだなぁ…と思う。

若者が、わざわざ、奥の方からオリーブの入った大きなケースを
私のところまで持ってきてくれた。

「結構な数だねぇ。今年は、少ないからさ。割に採れた方だと思うよ。」

お世辞なのか、どうなのか、
本当のところは分からないけど、イタリア人って褒め上手だなぁと思う。

奥の涼しい所で保管されていたオリーブたちは、太陽の光にあたって
キラキラしていた。

いよいよ、搾油が始まる…

ドキドキというか、ワクワクというか、
なんとも言えない興奮に包まれて、
朝ごはんの事も忘れていた…

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