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トスカーナ・オリーブの夢 収穫の日


10月15日。
この日を収穫の日と決めたのは、世話役フランコの口添えであった。


晴れの日が続いた10月。

フィレンツェ辺りだと、10月半ばは収穫には少し早いかと思われるが、
トスカーナでも南のマレンマ地方は、これくらいの時期の収穫は、普通なのだと言う。
私がお世話になる搾油所は、10月の4日にオープンしており、早速見学させてもらった時には、既に収穫されたよそ様のオリーブが搾り取られているのを垣間見た。

収穫隊の、朝は早い。
私がオリーブ畑に着いた時には、既に収穫を始めていた。
緑の細かい網目のシートを敷き、数人の男たちが、高枝切り鋏みたいな棒でどんどんオリーブを小枝ごと振り落としていく。

「割といい感じだと思うよ。」

世話役フランコも、朝イチからやってきていて、そう言ってくれた。
正直言うと、
何が良くて、何が悪いのかも、分からない。
何しろ、初めての経験なのだから、ただ、黙って見つめるだけである。

収穫隊は手慣れたもので、オリーブを振り落としていく者と、振り落としたオリーブをケースに入れ、網ごと隣の木に移動していく者と分業制で、静かに作業が進んでいく。
もっとも、高枝切り鋏みたいな機械がブイーンと音を立てているので、話し声はかき消されてしまうし、収穫隊はモロッコ人なので、彼らが何を話しているのかは、全く分からない。

収穫隊は、いろんな国のグループがいるらしく、
世話役フランコによると、
イタリア人グループ、アルバニア人グループ、モロッコ人グループ、パキスタン人グループとあって、イタリア人のグループは、値段が高い割に働きが安定せず、アルバニア人グループは、信用できず、パキスタン人グループは、とっても真面目で正確だけど融通効かずで、
彼の知る中では、モロッコ人グループが安定している…とのことだった。
仕事の出来は、個人個人の差にもよると思うけれど、国別で特徴が違うというのも、わかる気がした。
私も長く働いたメルカートの仕事で、いろんな国の人たちと働いたけれど、それぞれにクセというか、国によって共通する何かが、あったような気がする。

いずれにしても、収穫時期に手伝ってくれる人たちがいる…というのは、ありがたい。

黙々と作業が進んでいく中、私の気持ちは、搾油の方に飛んでいく。
午後にはこれが、オリーブオイルになる。
どんなふうに出来るのか、ワクワクもするし、ドキドキでもある。

妙な興奮を味わいつつ、遅めの朝食をとり、搾油所に向かうは午後の2時。
着くと既に、フランコが待ち構えていて、
「お昼食べていないでしょ?」と、ランチに誘ってくれた。

搾油所近くのアグリツーリズモは、とても素敵な場所で、
「これは、外せないよ。」と勧められた前菜の盛り合わせは、絶品だった。
嬉しいのと美味しいので、満悦な気分に浸っていると、
世話役フランコが言った。

「今日の搾油、出来そうにないんだ…」

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