5分の短編て一番難しい!初めて書いた脚本を振り返る。

こんにちは。脚本家の下田悠子です。
私は2015年4月、映画美学校の脚本コースに入学しました。
今回は、その年の5月ぐらいに、私が生まれて初めて書いた脚本を振り返ってみようと思います。

この脚本は『5分映画実習』というクラスの課題でした。
指定された撮影場所と5分という制限時間を守り、クラス内で選ばれた3作をチームで撮影するという実習です。
まず、私は5分の短編映画というものを見たことがありませんでした。
いつも観ているドラマや映画の尺でどう展開するのかはなんとなくイメージがつきましたが、5分という制限時間で何を描けるというのか、まったくイメージがつかず、とりあえずショートムービー仕立ての広告や、短編映画を借りて観まくりました。

短編、今でも一番難しいと思っています。
学校では5分、15分、30分と課題の長さが徐々に長くなっていくのですが、なんで難題を一発目にやらせるんだと今でも思っています。
難題だからこそやらせる意味があるんでしょうが、知ったこっちゃねぇと思っていました。



そんなこんなで提出したのがこの作品です。
どういうプロセスで考えて書いたのかは忘れました。
とにかく締め切りまでに文字を埋めたという記憶はあります。

生まれて初めて書いた脚本なので、めちゃくちゃ恥ずかしいですが晒します。当時の書き方のまま、書き写しました。

短編脚本『おとなになりたい』

○オフィスビル・一室(午前)

リクルートスーツ姿の若者達が筆記試験を受けている。
洋子(22)、時計を気にする。焦りから筆圧が上がる。
消しゴムで答案用紙をごしごしこすっている。

試験官「試験終了です。筆記用具を置いてください」

答案用紙が破ける。青ざめる洋子。

○別室・扉の前(午後)

洋子、深呼吸をしてから、

洋子「失礼します!」

○同・中

面接官がずらりと並ぶ。
次々と質問に答える洋子。
洋子「はい、私は常に周囲への気遣いを心がけ」
  「はい、私は学生時代、塾講師のアルバイトを通して多くの子供達と」
  「はい、私は…噛めば噛むほど味が出る…スルメの様な人間です!」

自身に満ちた表情。
面接官たち、互いに目を合わせうなずく。

○公園(昼)

共にリクルートスーツ姿の洋子と恋人の大輔(22)、ベンチで缶コーヒーを飲んでいる。

洋子「…ああ、おわった。もうむり」
大輔「ダイジョブだって!」
洋子「むり。むりむりむりむりむり…」
大輔「面接、うまくいったんだべ?」
洋子「…(頭をかきむしる)」

立ち上がり、煙草に火をつける大輔。

大輔「…洋子の方が先に決まっちゃうかねー」

顔を上げる洋子。

大輔「俺とか、チャラく見られるし」
洋子「…大丈夫だよお、大ちゃんめっちゃ頑張ったじゃん!だって、ほら。TOEICとかも!すごいし!」
大輔「……」

大輔、洋子の方に向き直って、真剣な表情。

大輔「俺、早くちゃんとするからさ。卒業したら、早くお前と一緒になりたいし」
洋子「大ちゃん…」

見つめ合う二人。抱き合ってキス。

○公園(数日後・夕)

日が暮れ始め、人気の無い公園。
ベンチの上で体育座りをしている洋子。

大輔「…まあー…、来年があるべ」
洋子「ごめ…大ちゃん、あんんあ、言ってくれて、ごめ…ほんとに…」
大輔「俺、待つし。ぜんっぜん待つし」
洋子「大ちゃん…」

見つめ合う二人。抱き合ってキス。

○病院・受付(昼)

<産婦人科>のプレートが下がっている。
 
大輔「あの…すんません…」
受付の女「(ハキハキと)はい、どうしましたあ?」
大輔「あー…っと」
受付の女「あっ。貞操帯のお取り外しですかあ!?(元気よく)」
大輔「(キョロキョロしながら)ああ…ハイ」
受付の女「はいこちらです!『子育て免許』のご提示、お願いしますー」

財布から免許証を取り出す大輔。

受付の女「はいご提示ありがとうございますー。あちらでお待ちください!」

頭をかきながら去る大輔。

○手術室

『手術中』のランプが点灯。
大輔の額に脂汗。

看護師の声「はーいじゃあ、パンツ脱いでこっち!力抜いて!」

カチャカチャ、と器具を扱う音。

医師の声「はい、息吸って…、高橋さん?息吸ってー」

大輔、目が血走っている。
ガチャ、キュイイイイイイイイイイン、と機械音。

大輔「ヒッ」
看護師の声「ほーら!あんたパパになるんでしょ!しっかりしなさい!」

看護師、大輔のケツをぱあん!と叩く。
機械音に混ざって隣室から女性の妙に色っぽい声が漏れてくる。
大輔の視線が隣室のほうに移ると、

看護師の声「集中!」
大輔「(ビクッとして)はい!」
医師の声「はい、あとちょっと…、はい!吐いて!」
大輔「…はんっ(裏声で)」

○診察室・扉〜待合室

診察室から大輔。ベルトを直しつつ。
隣の診察室から先ほどの声の主と思しき女性。
二人、目が合って。
二人の間に、壁に貼ってある若い夫婦と赤ちゃんのポスターが見える。
(小さい字で)『貞操帯のお取り外しはお近くの産婦人科へ。※子育て免許を取得された方に限ります』

○公園(夜)

大輔と女性、茂みに隠れて獣のようにセックスしている。
鞄の中で大輔の携帯電話が震えている。洋子からの着信。

○洋子の部屋(夜)

耳に携帯電話を当てている洋子。大輔は出ない。
※以下、適宜カットバックで

○公園(夜)
大輔「あー…!イッ…」

○洋子の部屋(夜)

電話を切ると、壁紙が大輔とのツーショット。
にやける洋子。
『子育て免許突破塾』
『一般常識1000問』
『正しい保健体育』などの参考書が机に積まれている。
洋子、その中の一冊を手に取る。
『図解!四十八手入門!』を開き、ぬいぐるみを相手に色々試す洋子。
洋子、難しい顔をしながら無理な体勢に。

洋子「ああああああああああー!イッ、つ、つった、あ…(苦悶の表情)」

ベッドの上で悶え転がる洋子。
二人の声がマッシュアップして……。

○公園(夜)

大輔・洋子「ああああああああああ!!」

<了>

×     ×     ×

読んでいただいた方、ありがとうございます。
初作品はまさかのPG12でした。
この作品はクラス内で選出され、実際に撮影しました。
撮影稿は看護師と若い女性を同一人物にしたり、柱の場所を変えたりなどの改稿を施したので、実際の完成作はこれとは少し異なります。

今読んでみると、序盤ダルいなぁ、もっと切れるなぁ、と色々と気になりますが、ト書きなんかは意外とちゃんと(笑)書いていて面白かったです。

私は柱?ト書き?ワンシーンワンカット?シークエンス?何ソレ?状態で入学したので、クラス内でかなり焦っていました。
勢いでやばい所に来てしまったなと思っていました。
円山町だし。ネズミ走ってるし。

しかしこの実習では、
「自分の書いたホンが立体的に立ち上がり、完成品になる」
という経験を得ることができました。
この実習の経験がなかったら、もしかしたら挫折していたかもしれません。
普通の人に映画が作れるなんて思ってなかったのに、
(出来は置いといて)完成して、上映することができた。

この時の感動したというより、妙な、ざわざわざらざらした気持ちは忘れていません。

最近、テレビ東京で放送中の『ざんねんないきもの事典』や、自主映画の依頼で短編を書きまくりました。キツかった。短編は一番難しい。
数年経った今でも全然変わっていません。


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