見出し画像

臨床心理士なるみの『ブリーフセラピーびいき』第2回

ブリーフセラピストである私が、なにゆえそこまでブリーフセラピーに惚れ込んでいるのかをしっかり書いて、そのことによってブリーフセラピーの魅力を広く皆様にお届けしていこう。そんな思いから始めました。今回は、社会人大学院生時の実践訓練中、最初に心の中で「ちょっと待ってそれは困る!」となった時のお話です。どうぞおつきあいください。

思わず心のブレーキを踏む

 思い起こすに、精神分析色の強い折衷の心理療法の学びで、最初に心のブレーキを踏んだのは、インテーク面接(受理/初回面接)の実践訓練を受けたときだった。インテーク面接とは、受理面接または初回面接とも言い、治療を始める前に、クライエントの相談内容や要望、これまでの経緯や現在の状況などについて、情報収集をするための面接である。教科書には必ずここで「情報収集に終始するのではなく、ラポール(信頼関係)を築くべし」旨の指示がある。心理療法のオリエンテーションによって内容は変わると思うが、当時自分がいた学びの環境では「来談の経緯、抱えている問題とその経緯、今後どうなりたいか、診断名、症状、現病歴、既往歴、成育歴、家族構成、家庭や職場での人間関係、メンタルステート」といった情報を得るようにと指導されたと思う。かなりプライバシーに立ち入る内容であり、中には話したくないクライエントもいるであろうことは容易に想像できる。驚いたのは、これも有料で行うということだった。

インテーク面接には正直聞きにくい質問も多々あった

 当時自分は30代後半で、埼玉県の福祉事務所で非常勤相談員として勤務していた。身の回りの現実の人々、つまり職場、家庭、保育園の父兄やご近所さんを思い起こし、彼(彼女)らの誰かが、思い悩んだり精神疾患になったりして相談にかかる時、このインテーク面接を受けたらどうなるかを想像した。 インテーク面接を受けた後に「これで何とかなりそうだ。」とか「これでひと安心だ。」となるかどうか。 それはかなり疑問だった。自分自身で想像するなら、正直に言って、そんなことはありえないと思った。例えば、職場の人間関係の問題をなんとかしたいと専門家への相談を決意し、苦労して作った時間で、1時間近くも状況説明と信頼関係づくりで終わってしまっては、その残念さたるや...。学生だった当時はまだ、カウンセリングを学ぶとなると、多少の違いはあっても概ね似たような内容を教えられるものと思っていたため、カウンセリングという業態そのものに限界を感じてしまったものだった。

一発本番のスターティング・クエスチョン

 ブリーフセラピーでは、いわゆるインテーク面接は行わない。相談の申し込みを受理する際に聞き取った簡単な相談概要のメモ一つの情報で、面接を始める。初回面接であっても開始から10分も経たないうちに、「なにがどうなったら、今日ここに相談に来てよかったと思えますか?」と聞く。これをスターティング・クエスチョン(開始の質問)といい、相談が始まってすぐにこの質問を投げかけるのだ。その後も主に質問を使ってクライエントとの対話を進め、当該クライエントが望む実現可能なゴールを作っていく。ゴール設定においても、クライエント自身に対してもかくあるべし、というモデルや理想像は想定しない。完全にオーダーメードのカウンセリングで、最後に介入課題を提案して終わる。1回きりのシングルセッションで問題が解決することも珍しくない。

ブリーフセラピーの面接室は明るい!

 このセッション開始早々のスターティング・クエスチョン(開始の質問)には、ブリーフセラピーが持つ前提、背景理論、治療理論、臨床哲学などすべてのエッセンスが込められていると言っても過言ではない。クライエントの立場でこの質問に向き合ってみるとよく分かる。クライエントはおそらく、できるだけ詳しく今抱えている問題を話さなくてはいけないと考えているし、場合によっては子ども時代からの性格傾向などを話す必要すら想定している。多くの場合、カウンセリングに来て10分もしないうちに、「何がどうなったら、今日ここに相談に来てよかったと思えますか?」と聞かれるとは想像もしていないだろう。また、自分が苛まれている状況や症状について「どうにかなる」かもしれないとは夢にも考えていないこともある。「~相談に来てよかったと思えますか?」と問われることで、「ああ、自分が良かったと思えるような状態を目指すのか。」と漠然と感じることができる。

ポイントは「短期」とか「ポジティブ」にあらず

 このような進め方は、実践に裏打ちされた理論に基づくブリーフセラピーの一般的な形であって、ミニマムで効率的な展開やポジティブな解決に特別に価値を置いて目的的に志向してそうしているわけではない。効率よくポジティブに展開していくのは、むしろ結果的な果実といってもいいかもしれない。初学の頃には自分自身も理論とその表れとしての実践の緊密な関係をよくわかっていなかった。家族療法とブリーフセラピーの数々の背景理論を紐解いていかなければ、「時間の短さ」や「とにかく解決に向かうポジティブな感じ」がブリーフセラピーの特徴のような誤解を与えてしまうと思っている。丁寧に一般の方々にも分かりやすく、肝心要の背景理論について伝えていきたいと思う。

次回に続く

★2022年の春から、細々とオンラインカウンセリングを始めました。原因追求型とは全く異なる、太陽の法則たるブリーフセラピーや家族療法を体験できるセッションはいかがですか?1回こっきりのシングルセッションで終結したお客様もたくさんいらっしゃいます!

https://coubic.com/brieftherapy-yuko/729412#pageContent

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?