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eスポーツの教育効果①

23年2回目の投稿になります。

前回の記事において、eスポーツが不登校支援に一定の効果が認められる事例が存在することを指摘しました。

今回から数回にかけて、アカデミックサイドでの証拠を確認することにしたいと思います。

今回は望月先生の以下のレビュー論文を取り上げました。


論文の要旨

研究の目的:研究蓄積がない日本において、今後eスポーツに対するどのような研究が必要かを明らかにする

方法:先行研究のシステマティックレビュー

研究動機:eスポーツに対するポジティブな動向と同時に多くの懸念点が指摘されていることを踏まえ、eスポーツに関する研究を蓄積させることは喫緊の課題である

<eスポーツに対する懸念事項(望月論文による)>
・IOCがeスポーツを受け入れていない(オリンピックの価値観と矛盾するという理由)(Wade, 2018)
・eスポーツのメダル競技への採用は時期尚早である(4Gamer.net, 2018)
・WHOがゲーム障害を依存症であると承認した
・日本国内においてもeスポーツを部活動として取り扱うことへの反発があった(産経ニュース, 2019)
・「現時点では、国としてeスポーツをスポーツとして認めたことにはならない」(重政, 2018, p. 10)
・法的観点から見た賞金制度に関する懸念点が存在する(高木, 2018)

システマティックレビューを通じて得られた研究トピック
・eスポーツはスポーツか?
・eスポーツはビジネス・産業として成長するか?
・eスポーツに教育的価値はあるか?

今回は最後の「eスポーツに教育的価値はあるか?」に関する部分を整理してみます。

望月論文の知見:eスポーツと教育的価値(先行研究の証拠)

望月論文は「eスポーツに教育的価値はあるか?」という課題に関する研究を以下の2つに分類しています。
・伝統的スポーツへの学習転移に関する研究
・eスポーツ特有の教育効果に関する研究

<伝統的スポーツへの学習転移に関する研究>
(筆者は…学習転移という言葉についてまだ深く理解できていません)

・Hayes and Silberman(2007):体育の専門家が正との身体活動レベルを高める動機付けをさらに促進するために、カリキュラムにビデオゲーム技術を組み込むことに関心を示している
→効果があるかどうか、ではなくあくまで専門家側の関心?

・Buns and Thomas(2011):バスケットボールを題材にして、wiiによるバスケットボールを実施した群としていない群の間で、バスケットボールに対する知識と技能に明確な差が見られた

・Barnett et al.(2012):デジタルゲームをプレイすることで、オブジェクトコントロールなどの児童における基本的な動作スキルが実際に向上する

<eスポーツ特有の教育効果に関する研究>

・Hilvoorde and Pot(2016):eスポーツにはプレイ理論における「ミミクリ(模倣)」が含まれており、ゲーム内の設定や物語に対するロールプレイミングや表現行為を学習する「美的」な教育効果がある&認知的、戦略的、模倣的な能力との組み合わせはeスポーツ独自のものであり、同時にデジタルリテラシー強化の方法の1つである

・Gabriela et al.(2018):eスポーツゲームをプレイすることで意思決定の改善、知識の習得と熟考のようなインフォーマルに行われるゲームベースの学習など学習生態学の検討に必要な個人および集団学習プロセスがある

・Lemcke and Weh(2018):eスポーツを通じて高度なコミュニケーション能力を伸長させることや、戦略的な計画を立てる能力を育むこと、学校生活においてうまくいっていない生徒に対して適切な課題を提供することができる
→ここでいう「うまくいっていない」というのは学習進度?あるいは人間関係?あるいはそれ以外?

・Rothwell and Shaffer(2019):eスポーツはSTEM教育の観点から有効であり、伝統的なチームスポーツと比較して、身体的な準備が必要ない代わりに精神的準備が必要であり、能力として修得した場合に多くの雇用主に求められる人材になる
→これは企業側(やキャリア支援サイド)にとって面白い知見では?

終わりに

とくに個人的な関心があるのはLemcke and Weh(2018)とRothwell and Shaffer(2019)でしょうかね。
次回はこれらの論文を見ていこうと思います。

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