そんなに詳しくもない音楽のお話(第6回人間椅子『怪人二十面相』)

大学生というモラトリアム期間でありながら、持ち前の社交性の低さを遺憾なく発揮していた私は、その輝かしいキャンパスライフを知人ゼロで過ごしていた。バイトも大学近くではなく、地元の駅前の書店でおこなっており、授業が終るや否や駅までダッシュ!という毎日を送った。
さて、そんな学生の頃にいろいろな音楽を聴き始めていた。厳密にいうと高校生の頃から興味は持ち始めていたのだが、当時はそんなにガッツリとバイトもできなかったのでCDのレンタルもあまりできなかった。せっかく買った少ないCDをアホほど聴き込むという楽しみ方をしていたのである。
そしてある日、たまには日本のハードロックも聴いてみたいなと思い、近所のジャスコのCD屋さんに行くことにした。それなりに調べた結果「三十三間堂」「五人一首」「人間椅子」のいずれかがあればいいな!なんて思いつつ、愛車であったヤマハ・ジョグ・アプリオを走らせた。今にして思えば、近所のCD屋さんにそんなものが置いてあるわけもないのである。しかし、そんなことは知っているわけもないのである。

田舎の中規模なショッピングモールの1階にあるCD屋さんに到着し、さっそくJ-POPの棚を探してみた。すると、人間椅子の『二十世紀葬送曲』と『怪人二十面相』があった。一枚3000円。洋楽の輸入盤価格に慣れてしまっていた私は「そうか、2倍の値段がするのか」と思い、どちらか一枚しか購入できないな…!とその両方を手に取ってみた。人間椅子に関する知識はゼロである。曲名からイメージをわかせてみたり、発売年次を凝視してみたりした。You Tubeもなく、インターネッツはダイヤルアップであり、携帯電話ではようやくメールが可能になった時代、まだまだ知らない音楽を聴くことに対してのハードルは高かった。

そんなとき、ふとお店の会計を見るとカワイイメガネっ子がその係をしていた。私は「あの人に気持ち悪いと思われたいなぁ!」と瞬時に思った。よって、より気持ちの悪いジャケットである『怪人二十面相』を選び、会計に並んだ。そこでなにかが起きるわけもなく、起きたこともないけれどもそこは内心の問題である。おそらく「なに?このCDは。というか、こんなんうちの店に並んでいたわけ?で、この暗そうなメガネはわざわざこれを買うわけ?気持ち悪い!」と思われたに違いない!と妄想を巡らせながら帰路についた。

作品をいたく気に入った私は、その何ヶ月後かに『二十世紀葬送曲』も購入した。それをどこで買ったかは覚えていないが、近所のジャスコではないことは確かである。

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