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優しさを煮詰めて丸めたあめ玉

あれは12月が始まったばかりの数日間のこと。
息子の調子が悪かった。
はじまりは突然の嘔吐。
「きもちわるい・・・」とトイレにかけこみマーライオンばりのリバース。
これがこの日のリバース祭り(次から次へのお着替え&めくるめく洗濯&とにかく拭き掃除)の幕開けであった。

日頃元気のかたまりのような息子が、顔色悪くぐったり横たわる姿にはそれはもう胸がしめつけられた。
できることなら代わってやりたい。本気で思った。
でも、私は彼にはなれない。
いや、私は本当に彼にはなれないと確信する瞬間があった。

それは、トイレに座って空虚を見つめていた彼が、まゆげをハの字にして背中をさする私に向けて、ふっと微笑んで見せた時だ。
ゲッソリしながらのニッコリ。
心配している私の心が分かるのだろうか。
なんならそれを和らげてくれようとしている。
苦しくて苦しくて苦しい最中の3歳児がなせる技とは思えない。
34歳の私にだって、吐き気の渦中にいればできないかもしれない。
しばし呆然としたのち、ヒーン!と彼の肩を抱きしめてちょっと泣いた。

そのあと束の間の寝顔を見て思った。この子は優しさの権化なのだと。
世の中のあらゆる優しさを集めて鍋で煮詰めてペースト状にして、冷蔵庫で一晩寝かせて、手のひらでひとつひとつ丸めてあめ玉にしたものを主食として召し上がっているに違いない。
それをお腰につけたきびだんごよろしく、あたりに配って歩いているに違いない。
それを私もこの晩、ひと粒いただいたのだ。

幸いにも夜が明けるとともに息子の嘔吐は治まった。
翌朝、病院では胃腸炎とのことでお薬を出してもらい、少しずつ柔らかいものを食べ、日々元気を取り戻していった。
心底ホッとした。
ちなみに交代で看病にあたった夫が数日後胃腸炎にもだえ苦しむことになったのだが、それはまた別のお話。
これからいくつもの夜を越える中で、息子からもらったあの優しさのあめ玉を私は何度でも思い出すだろう。

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