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毎朝きちんと起きることを成功体験にしてしまおう

 わたしが精神障がい者になってから五年になる。遡れば高校二年生のときにふた月ほど夜遊びにはまり込んだ時期があり、その数ヶ月後に二週間ほど鬱になる時期があったのでそのときから双極性障害だったのかも知れない。

 新卒一年目の冬にあなたは精神障がい者になりましたと告知されたときは様々な感情が出口を見失い頭の中で渦を巻いてなにも考えることが出来なくなった。でもやがて自分が障がい者になったことを認めたくないと必死に足掻くようになり、その後は障がい者になったことを認めざるを得なくなってひどく落ち込んだ。
 自分は精神障がい者ですといまは受容できたのかと問われたら、きっとまだ受容しきれていないんだろうと思う。それはたまに同世代の同じ女性が社会に出て活躍している様子を見聞きしたときに強く感じる。自分もあんなふうになりたかったという思いにとらわれたり、もうそれは叶わないんだと落胆したりといった具合にこころがひどく揺さぶられてつらくなる。

 障がい者になる前のわたしはそれほど上昇志向が強かったわけではないけれど、でも若い女性なりに社会に出てそれなりの地位や居場所がほしいと思っていた。新卒で入った会社も有名な一部上場企業だったし、そこで活躍している女性の先輩方に憧れたりもした。 
 だから酷い鬱になって双極性障害と診断され、復帰の目処が立たずに会社を辞めたときは物凄い挫折感に襲われたし、その後の就職活動も思うようにいかず再就職した会社を一年ほどで辞める羽目になったときに味わった挫折感もとても大きいものだった。そしてわたしは使えない人間になってしまったんだと思い知らされた気になって自己愛も自己肯定感も消し飛んでしまった。そしていまでもそこから抜け出せていないように感じることがある。

 就労移行支援事業所に入ったときにYさんというスタッフさんと知り合った。そのYさんはいまでもわたしのフォローをしてくれていて、わたしはそのYさんのことを少し年上のお姉さんといった風にとても頼りにしている。
 そのYさんが落ち込んで自信をすっかり無くしているわたしに何回も言ったのはちいさな目標を立ててそれを毎日毎日きちんと実行しなさいということだった。それでその目標がきちんと達成できたら自分を褒めてあげなさいという。

 朝起きれたら自分を褒める。歯を磨けたら自分を褒める。朝食をきちんと採れたら自分を褒める。就労移行支援事業所に通えたら自分を褒める。それを夜寝るまで毎日毎日繰り返していく。そして段々と難易度を上げていく。

 正直に言うとその話を聞いたときはなんてくだらないことを言うひとだろうと思った。じゃあきちんと朝起きてパジャマを脱いで服に着替えるだけでも自分を褒めてあげるんですか?しょうもない。
 でもちょうどその頃にtwitter(現ばってん)にある動画が流れてきた。アメリカの偉い軍人さんが士官学校の学生達を前に公演をしている様子を数十秒間の動画に切り取ったものだった。その動画で偉い軍人さんが学生達に言っていたのはYさんが言っていたのと全く同じことだった。

 「とりあえず朝起きろ。どんなに辛くても起き上がるんだ(鬱の時は無理)目覚めることができたらベッドを整えろ。そして着替えて朝食をとる。そうやって毎日自分にちいさな任務を与えろ。そのちいさな任務ひとつひとつを達成していきなさい。ちいさな任務を達成出来ない人間が大きな任務を達成することは絶対にできない」

 一字一句正確にコピーはしていないけれどもざっくり言うとそんな内容だった。

 Yさんはそれをちいさな成功体験を積み重ねていくという言葉で表現した。それがあなたの自信の回復につながるんだよ。そうわたしに何回も言った。
 騙されたと思ってやってみることにした。だって騙されたところで失うものなんてなにもないのだ。

 そのせいなのかはわからないけど、わたしは障がい者雇用枠でいまの職場に就職することが出来た。

 落ち込んで自信をなくして無気力になっていたわたしがなんとか自分の脚でもう一度歩いていこうと思えるようになったのはYさんとアメリカの軍人さんが言っていたちいさな成功体験の積み重ねのおかげなのかもしれない。

 いまでもその習慣を続けるようにしていて、朝がきたらきちんと起きるところから自分を褒めてあげることにしている。そして少しずつミッションの難易度をあげていけばいい。たぶんわたしはこれから先もこの習慣を一生続けると思う。

 
 

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