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11月12日のごはん日記

11:30 ゆきの起床、彼氏2度寝

12時にはご飯を食べたい私は、重い身体を3回ぐらい起き上がらせ、冷蔵庫へ向かう。

だらんとした手と身体で冷蔵庫と対話するわけだが、情報量が多い。

それなのに

「君、なぜそんなに食材を蓄えているのに、お肉が少ししかないんかね。」

これでは大食いの彼氏を満足できまい。

となれば居酒屋方式だ。

量ではない。品数で勝負しようではないか。

普段は一品料理を作る私が、彼のために作りたくなくなるまで作ってみる。

まずは一品目。

少し高いから、といつも見ていないふりをする豚バラが、珍しく冷凍庫に眠っていた。

くっ…...私のお腹が悔やまれるが、彼を満たすには、使うしかない。

自分の食べたいものを犠牲にする。これは違う形の愛である。

昨日はお刺身を食べた後、お酒とおつまみをガブガブ食べ飲みした。

お腹に優しいものを、と思い、玉ねぎをスライスし、大根をおろし始める。

豚肉の脂と玉ねぎの辛味を茹でたお湯に残して、水気を切る。

後は豚肉と玉ねぎの上に大根おろしを置いて、ポン酢をかければかんせいだ。

二品目。

彼が起きてくる。

「何が食べたい?」と私が聞く。

冷蔵庫で消費したいものって何?と彼はお腹をポリポリしながら近づいてくる。

「うーん、ラディッシュかな。」

おー、じゃあそれ使おうよ、と優しく彼は言う。

「オーケー。じゃあ私料理しているから、シンクに溜まったお皿洗ってよ」

そういって私は、キッチンで使っていたスライサーを取り出す。

自分好みの薄さになるよう、刃をじっと見ながら手で調整。

そんな私を彼は横からじっと見た。

ただのスライサーに、なぜ職人まがいの眼差しを向けるのかと不思議そうな顔をしている。

彼は私の先にある、袋に入ったラディッシュに目を向けた。

私も同じ方に目を向ける。

「あ、その量で150円って安いよね。普段はこの量で500円ぐらいしていてもおかしくないんだよ。」と私は言う。

やっぱそうだよね、そんな見ないもの、と彼は納得した顔をしていた。

「JAってすごいよね。」

そう言って、私はラディッシュを洗い、根と葉を切り分け、根の先も切り下ろす。

まるで屋台で同じ動作を繰り返すおばちゃんのように、私はラディッシュをスライサーに軽く押し当てて、切っていった。

ピンク色の輪郭が次々に芸術作品のように出てくる。

それを透明なお皿に1枚1枚、丁寧に並べる。

大きいのから小さいのまで、どの位置に配置するかで、作品の顔が違って見えた。

次にラディッシュの葉っぱを先ほどのお湯でゆがく。

食べやすい大きさに切って、水気を手でぎゅうっと絞る。

それをラディッシュの上に戻した。

次に、本来なら豚肉と一緒に食べたかったこやつを載せてみようか。

パクチーの登場だ。

食べやすい大きさに切って、上に乗せる。

味にクセのないラディッシュとクセのあるパクチー。

そんなドレッシングを合わせたい。

私は置き場所がなく、床に直置きしているホワイトワインビネガーを手に取る。

この子こそ、まっすぐなラディッシュちゃんに合うドレスだ。

そしてパクチーの中華感に合わせるため、ごま油を合わせる。

さて、次にパクチーのクセを合わせたい。

ベトナムの魚醤を入れようか。いや、しかしクセが強すぎるかもしれない。

そう思い、私の手はまた、冷蔵庫にピーンと伸びた。

隣にいた彼氏は、とっさに横から伸びた手に合わせるよう、後退りする。

冷蔵庫のドア部分にあったバルサミコ酢を素早く取り、小滴垂らす。

塩胡椒もふわっと入れ、かき混ぜる。これだ。

これこそ、このサラダにふさわしい。

さあ、もうこれでいいのではないだろうか。


そう思ったが、テーブルへ振り返ると、1人でも足りないぐらいの量しかなかった。

くっ、もったいない。本当はパスタのためにトマトを2個買ったが、仕方ない。

3品目を作ろう。

トマトを半分に切り、汁が飛び出さないよう、そーっと刃を入れていく。

半分を半分にスライス。さらにその半分をスライス。

可愛くまな板の上でトマトが寝ている。

それを、さっきの豚しゃぶで残った玉ねぎと一緒に交互にお皿に入れていく。

上には、他の料理に使おうをわざと残したキムチを上に載せていく。

いつもならここにごま油をかけるが、ラディッシュで既に使っている。

ほかに何があるだろうか。

ごま油の代わりとなって、キムチに合うもの…。

あ。

また冷蔵庫に手が伸びる。

彼氏はもう私の隣にいない。

さっきからテーブルと私の間をソワソワと歩いているのが横目で見えた。

私は冷蔵庫から大きな無塩バターを手に取る。

友人とのクッキー作りで残ったバターだ。

本当は電子レンジでチン、としたいが、私も眠くて面倒臭い。

今日は細かく刻んで、キムチにひそませよう。

見た目はまるでフェタチーズのようだ。

これで少しは彼のお腹を満たせるだろう。

「後でスイーツ食べよう」

そう言って、昨日の残り物の炊き込みご飯と一緒に食べる。

「「いただきます!」」





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