総合商社とコンサルティングファームの研修に対する姿勢の違い

三井物産は、一人当たりの教育研修費でナンバーワンなのだそうだ。全体的に総合商社は上位にランクインしている。

確かにかなりお金をかけているようには見える。財務モデリングやバリュエーション、M&A契約の実務、EPCの実務他、外部講師を招いた研修は山ほどあるし、また、海外研修プログラムも多い。僕自身今月にアメリカに行く予定でもある。

ただ、コンサルティング会社にいた身としては、どうも研修は、「本気のビジネスではない」という見え方になってしまいがちだ。

というのも、投資業務で求められるリサーチすることは、個人の知的好奇心を満たし、かつ、組織への貢献にもなり一石二鳥だ。その点、研修は、実務から少し離れたテーマを追い求めるため、勉強にはなるが、あくまで勉強にとどまるイメージがある。テーマも自分で選んだものではない。

視野を広げる目的もあるだろうが、僕自身は、自分自身で学びたいテーマはいくつかあるから、その点でも、研修は、上手くハマってない気がする。

一方、プロパー社員の皆様は驚くほど真面目に、研修に取り組んでいる印象がある。これは組織文化だろう。プロフェッショナルファームでよく見られる研修を軽んじる空気があまりない。

なぜだろうか。

まず、コンサルティング会社では、リサーチすること、実業に邁進することが、そのまま何にも増して貴重な研修になるからだろう。プレゼンすれば、クライアントからの贅沢なフィードも得られる。更に言えば、彼らのそうした”研修”はお金にもなる。高額の報酬を支払ってもらえる。その分期待値も高いが、その期待値ゆえにリサーチも徹底的に行う。これがひとつコンサルファーム出身者が研修に対して抱いている正直な感想だろう。

かたや商社ではどうか。商社でももちろん同じ側面はある。客先にプレゼンする時にも業界情報をリサーチし、取りまとめる機会は少なくない。業界インサイダーの情報を取れることが商社の最大の強みの一つでもある。いわゆるインテリジェンスだ。
業務の方が面白く、成果にも結びつくにも関わらず、商社では、研修もみな真面目に受講する。

これは一つには人事制度と固く結びついている。人事システムに研修履歴は登録され、過去にどんな研修を受講したかによって、将来のアサインメントが影響を受ける。これはコンサルティング会社との大きな違いだ。研修を受けること自体が、一つの栄誉であるという認識も少なからずある。

同じ文脈で、出世の登竜門に、経営企画部と、人事部があり、人事からの見え方や認知度が一定程度、将来の評価に結びつく面もあるかも知れない。これが部分的に、商社の人が研修に真面目に取り組むインセンティブにはなる。

より消極的な側面からすると、商社の平均的な人物像として、あまり学術的な態度は尊ばれない面もあるかもしれない。コンサルティングでは、客観的でアカデミックな態度が必然的に求められる。僕の観察範囲では、コンサルタントになりたがる人で、本をあまり読まない、という人は殆どいない。プロジェクトの前には、複数の書籍に目を通すのが普通だ。それが業務のクオリティに影響し、自らの立ち位置に影響するから、動機付けとしては十二分にある。かたや、商社マンのバリューは、学術的な知識ではない。知識は確かに一定程度大切であるが、大抵はパートナーがおり、真の専門家は組織の外部にいる、という態度だ。であるから、自分自身がものすごく何かに詳しくある必要は必ずしもなく、日常的に本を読んだりする人は、コンサルファームのそれと比べると極端に少ない。

よって、研修の組織から与えられた機会が、インプットをする数少ない機会となりえる。少なくとも、業務とは全く異なる機会としては捉えられる。総合商社の人間は学歴強者であり、元々は学習能力の高い人間の集まりである。研修で学習機会が与えられ、彼らにとり座学に取り組む事は元々難儀な事ではない。

以上より、商社の人間にとり、多かれ少なかれ、研修に真面目に取り組むインセンティブにはなるのでは無いだろうか。


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