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97. 怪我との向き合い方

皆さんこんにちは。三浦優希です。

今日は、アスリートが避けて通ることはできない「怪我との向き合い方」について、自らの体験を基に僕なりの考えを示していきたいと思います。それではよろしくお願いいたします。

大学一年生の時の話

僕が「怪我をすることの意味」を初めて実感したのは、大学1年生の10月のことです。

当時の私は、アメリカに来る前にプレイしていたチェコでプロチームの試合に出場したことがあり、それが原因でNCAAから1年間の試合出場停止処分を受けており、練習のみに参加している身でした。(NCAAでは、原則プロ経験がある選手は試合に出場不可能or一定期間の出場停止処分を受けます)

少しずつ大学生活にも適応し始め、勉強と練習のバランスも良くとれるようになってきていた10月上旬に、私にとってとても嬉しい出来事がありました。それは、11月にハンガリーにて行われるユーロアイスホッケーチャレンジという国際大会に日本代表メンバーとして召集されたことです。この大会は、日本、ハンガリー、イタリア、ポーランドの4か国で行われるものでした。当時の私は、人生の中で最も悔しい思いをした平昌五輪予選以来の日本代表召集ということで(この記事の文末に詳細あり)、心から呼んでいただいたことを誇りに思っていたと同時に、五輪予選での悔しい思いを晴らし代表を勝利に導くチャンスをいただけたことをとてもうれしく思っていました。

また、NCAAからの出場停止を受けていた中で、数少ない実戦を行う機会が訪れたことにとてもワクワクしていました。

嬉しかった出来事はそれだけではありません。代表召集の連絡を受け、11月の大会に向けて今まで以上に練習に集中して準備を進める中、さらに喜ばしいニュースが私の耳に飛び込んできました。それは、1年間試合に出れないことになっていたNCAAの処分が、半年に縮小されたことです。つまり、今シーズンは全く試合に出れないと思っていたのが、同年12月より出場可能になったということです。これはコーチから直接私に伝えてくれたのですが、これを聞いた時は驚くとともに、飛び上がるほど喜びました。「試合に出れる時期が早まった!NCAA D1デビューが今年中にできるんだ!」と気分が高揚していたのを覚えています。

このように、代表召集、そして12月からのNCAA試合出場認可という二つの嬉しいニュースを受け、今まで以上にモチベーションは高まり、具体的なゴール、目標設定が決まった私は来るべき日に向けコンディション調整を進めようと考えていました。


ところが、NCAA試合出場認可の連絡を受けた次の日の練習中に、トラブルが起こります。

私がチームメイトに体を当ててパックを奪おうとしたとき、バランスを崩し転倒してしまいました。その時、右足のスケートが立った状態のまま足首から上が外側にたおれる状態で転び、普段味わうことのないぐにゃりとした感覚のあと激痛が襲ってきました。その後すぐに救急病院に向かい、レントゲンを撮ってもらったところ、右足の腓骨(外くるぶしの上部当たりから膝にかけて伸びている骨)が折れていることがわかりました。

骨折でした。

翌日詳しく病院で診察をしてもらったところ、手術の必要はなく、ギブスが取れるまで約6週間、その後2週間ほどリハビリとなり、フルコンディションで氷上に戻れるのはおそらく3か月後(翌年1月ごろ)になるのではという報告を受けました。手術を受けなくてよいという診断をもらえたのは不幸中の幸いでした。

そして、この骨折によりハンガリーへの代表遠征はやむなく辞退という運びになり、また医師からも「12月のNCAAデビューは難しいだろう」と言われていました。

当時の私の心境

私は、心から日本を代表して試合に出れることを楽しみにしていましたし、前回呼んでいただいた9月の五輪最終予選で悔しい思いをしてきただけに、今回こそ日本代表を勝利に導かなくてはならないと強い責任感を感じていました。自分が体を張って日本を変えるんだと、本気で信じて準備をすすめていました。それがこのような形となってしまいました。代表のお話をいただいた時から、チームへの合流日に向けて最高の準備を進めてきましたが、このようなアクシデントが起きました。日の丸を背負って戦うその日に向けて、万全の体制で練習に臨んでいましたが、どこかに気のゆるみがあったのかもしれません。

あと少しで手が届きそうだった大きな二つのゴールが、目の前で遠ざかっていく感覚は、言葉では表せないほど悔しいものでした。

しかしこの時の私は、自分でも驚くほど全く落ち込んでいませんでした。なぜなら、私はこの怪我を克服した後には、今まで以上に強い自分に会えるということを知っていた(というより確信していた)からです。

今思い出しても不思議だと感じるのですが、実は転倒して転んだその瞬間に、「あ、これは折れてる。代表にはいけないな。」と心の中で悟っていました。なんであの瞬間にこの感情が出てきたかは今でもわからないのですが、怪我をした直後には自分の状況と今後どうなるかを理解し認めている自分がいました。自らに降りかかった出来事を、素早く受け入れることが出来ていました。

今振り返ると、この怪我に対する瞬間的許容が、僕が前を向き続けることを可能にしてくれた大きな要因だったと思います。「現実を受け入れる」というのはとても大変なことかもしれないけど、そのフェーズを乗り切れば次のステップに必ず進むことが出来ます。

変えられること、変えられないことを自分の中で理解できるかどうかです。すでに起きてしまったことは変えられない中で、今後自分がどんなアクションをするかを決めるのは、いつだって自分です。未来を変えるチャンスが自分にあるだけ、僕はラッキーだと考えます。

怪我は成長のチャンス

「怪我」というとマイナスなイメージを持たれる方がいらっしゃると思いますが、私は全くそうは思わず、むしろ「自分がさらに成長できる素晴らしいチャンスを与えてもらえた」と考えていました。怪我から学べることは本当に本当に多いです。

当時の私は人生で初めて松葉杖生活を経験しましたが、毎日が新たな発見の連続でした。まず、何をするにもとにかく疲れます。ほんの少しの移動や大学への登校、ドアを開けること、トイレ、シャワー、食事など、普段だったら何の苦労もなしにしている当たり前のことが突然ハードワークになりました。また、松葉杖で両手がふさがるため、物を持ちながらの移動はできません。その時の私は、足を怪我している人はこんな苦労をずっとしていたんだと初めて勉強できました。そんな中で、気づいたことは周囲の大きな大きな優しさでした。チームメイトやクラスメイト、先生、コーチ、さらには今まで名前も知らなかった人や、初めてあった人などが、私を見かけて車に乗せてくれたり、荷物を運んでくれたりしました。僕のためにわざわざランチを用意してくれた友達もたくさんいました。多くの人に助けてもらうことで、生活を送ることが出来ていました。

下手になる?という心配はあったか

今までは生活の中での気づきの部分に焦点を当てて話しました。続いては、アスリートとしてのパフォーマンスについてです。怪我をした人が真っ先に考えることが「俺はこのままじゃ下手になる!」ということだと思います。

僕は個人的には、怪我をしている時期は確かに全体のパフォーマンスは落ちてしまうと思っていますが、回復後にはそれ以上に高い力を発揮できると考えています。なぜなら、怪我をしている時間を使って、自分が今まで課題としていた部分にフォーカスして取り組むことが出来るようになるからです。僕で言えば、足を怪我していた中で、苦手意識をずっと持っていたコア、上半身のトレーニングを積極的に行うことが出来ました。

練習が出来なければ全体のパフォーマンスレベルが下がることは当たり前なので、その点に対して心配をするのではなく、復帰後に今までの自分を超える能力を出せるパワーをリハビリ期間中に身に着けるという考えで良いと僕は思っています。

また、怪我をしている期間に一番鍛えられることは、観察眼です。僕は、怪我をしたことで初めて練習中にコーチが何を選手に求めているのか、上手い選手はどのように動いているのか、コーチはどこを見ているのか、チームメイトの癖はどういうものなのか、などをひたすら注意深く観察することができました。

最後に

怪我をしている時でも、復帰した後に役立つ要素が実はいろいろなところに転がっています。少し立場や見方を変えるだけで、今まで気づかなかったことを多く発見することが出来るんです。

怪我をした瞬間から、体というものは回復に向かって動き出しています。

あとは、あなたの気持ち次第です。

僕はこの怪我を経験したことで、アイスホッケーができる喜び、周りの人の支えというものを肌で感じることが出来ました。それに、今までだったら気づくことが出来なかったアイスホッケースキルにもたくさん触れることが出来ました。

怪我は、成長のチャンスです。

決してネガティブなものではありません。

目の前の目標が怪我によって途絶えてしまったとしても、自分自身があきらめなければ必ずそれ以上の大きなチャンスを未来のあなたは掴むことが出来ます。それが数週間後、数か月後、数年後になるのかはわかりません。でも、あきらめなければ必ずチャンスは巡ってくると僕は信じています。怪我をしている今だからこそできる準備があります。怪我をしたからこそ、気づける何かがあるはずです。

高くジャンプをするためには、一度深くしゃがみ込まないといけません。

もう一度言います。怪我は成長のチャンスです。

このnoteが、少しでも皆さん自身の怪我に対する考え方を整理するヒントになれば幸いです。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

三浦優希

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*このnoteの初めに出てきた平昌五輪予選の話はこちら↓


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