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【仮想レジアカ】読みやすい楽譜とは。

仮想レジアカは、作曲家向けオンラインアカデミーです。2020年6月・7月の二か月間を仮想のレジデンスと仮定して、一分の作品をプロフェッショナルな演奏家と交流しながら作り上げていきます。詳細はこちらの記事(文字をクリック)より詳細をご覧ください。この記事は「投げ銭」スタイルの有料ノートです。プロジェクト参加者以外にも無料で全文公開しています。コーヒー一杯分で、プロジェクトをサポートしてみませんか(あなたの支援が、シーンを豊かにします)。

わたしたち作曲家にとって切っても切れない関係性にある楽譜。今日は楽譜について大枠からまとめていきます。より詳しくは、作曲家森下周子さんの以下の記事をご覧ください(2019年さっきょく塾のために書かれたものです)。

楽譜の形態

五線譜のほかに、図形楽譜やスペース(スぺ―シャル)ノーテーション、タブラチュア譜、その他、多種多様な様式があります。独自に記号を発明したり、絵や写真を入れたり、長い説明文が入ったり、カラーだったり、楽譜じゃなくて映像であったり、その形は様々です。

なんで五線なのか

そもそも私たちが慣れ親しんでいる五線譜は、どういった経緯で生まれてきたのでしょうか。グレゴリオ聖歌の時代はネウマ譜を用いた楽譜が使われていましたよね。楽譜には音符だけでなく、美しい絵が挿入されていた時代もありました。

私たちがよく見る五線譜は、活版技術の発展によって段々と形を変えながら、今の形に定着しました。活版っていうのは、今はなじみがないんですが、文字をハンコのように押す方法です。それまでは手書きだった訳ですから、割と色んな形の楽譜があったわけですけど、ハンコの形が決まっているのでそれ以外のものは出来ない。上下反対にしても使えるっていう意味で、符頭の形や大きさ、棒の位置なんかも定まっていったんじゃないかと思います。要は活版技術によって、大量印刷の方向に向かっていった。大量印刷に伴って情報速度が上がり、それによって産業革命が進行したことを考えると、その背景には資本主義社会の流れが大きく関係しているんじゃないかと思うんです。何も線は5じゃなくても良かった、13の時代もあったんですから。ただ利便性が良かったのは、この五線なんです。素早く読めて、システム化しやすい=大量生産。

今はFinaleやSibeliusなどのノーテーションソフトがありますから、更に楽譜は画一化しています。世界中で誰でもわかる、誰でも読める。となると、五線を疑問視する人は少ないわけです。

ここで、もう一度楽譜の書き方に立ち返って考えていきたいと思います。本当にそこに音楽的理由があるのかどうか。私たちは、1つ1つの音に対して、それをどう表すべきか、疑問を持って自問自答していく必要があります。

次に、具体的なノーテーション例としてヘルムート・ラッヘンマンのチェロ作品「プレッション」について見ていきましょう。

Lachenmann ラッヘンマン:Pression (1969)

わたしたち世代だと、ラッヘンマン自身の手書きによる初版に慣れ親しんでいますが、2010年に改訂版として新しいノーテーションのものが出版されました。

Issuuで公開されているのは、2010年版。新しいバージョンです。

2010年版と1969年版とぱっと見、大きな違いはありません。中身の改訂ではないのです。ただし、細かく見ていくと、どうやら本質の部分で大きく変化した部分があります。どこだと思いますか?

2010年版は演奏に対してクリアな楽譜になっている。その代わり、ラッヘンマンの手書き楽譜にあった、創作上の重要な意図が若干色褪せてしまっている気もするんですね。

まず大きく変わった点で言うと、フォーマットです。初版が縦長だったのに対し、2010年版は横長になっています。「え?中身関係ないじゃん?」と思うでしょ。違うんです。

この作品、当初はスペースノーテーションで書かれていました。スペースをクリアにあらわすための、短い線が書かれてはいますが、これは所謂小節線ではなかった。

スペースノーテーションに関して私の持論ですが、一種の圧力のようなものを感じるんですよね。実際の距離を目で追うことで、目の運動性が生じる。一秒を1cmで書くのか、2cmで書くのか、見た目の圧力が違うと思うんです。という意味で、縦書きか、横書きか、ビジュアルで受ける音楽的インフォメーションが大きく変わってくる。そして、もう一点決定的な違いがあります。

なんと拍が書かれてるんです。物凄く大きな変化ですよね。拍があるということは、どこかに重心が来るということ。初版では長い持続をどこかに重心やリズムを感じることなく、1つの線の持続が切れることなく、ずずずーっと感じることができたんですが(ところてんをぐっと出していくような)、それが拍子によって分割されることによって、その分さくっと読みやすくなっています。

この作品を書いた当初は、ラッヘンマン自身こんなに多くの演奏家に弾かれると思ってなかったのかもしれません。今やもう現代音楽を学ぶチェリストの登竜門的な作品となったPression。この2010年版が誰に向けたものなのか、それを考えるとこの改編にも多少頷ける部分はあります(個人的には初版が好きです)。監修として演奏家が入っているというのもミソだと思います。 是非図書館でレンタルして、初版と2010年版、見比べてみてくださいね(権利問題で楽譜が貼れないので、図書館で借りてね。図書館になかったら購入希望出しちゃってください)。

どうしたら見やすいの?

まずは自分が演奏家になって気持ちで「楽譜を読む」しかない、と思うんですね。実際楽譜を置いてみて歌ってみると、譜面台と目線の距離に対して、音符が小さすぎないか、譜めくりが間に合うか、ミュートの取り外しに問題がないか、など、検証することができます。理想は、初見でも歌える楽譜。少しでも躓いた箇所があれば、改善方法がないか、検証の余地ありです。

稲森安太己さんのハンス・アブラハンセンのレッスンについての記事でも楽譜について書かれていたので、是非読んでみてください。稲森安太己さんの楽譜は非常に読みやすく、随所で見えない様々な工夫がされており、わたなべも多くを学ばせて頂いています。

実際に演奏家から聞こえてきた問題点(随時更新)

・手書きの場合、玉の大きさが違うと読みづらい。
・異常に小さな音符で書かれている時など、見えない場合がある(近眼・乱視や老眼などの問題)
・音符間の間隔が不均等なため、早いパッセージの時に読み間違いが起こりうる。
・上記と同様に小節間の長さ。
・高音/低音楽器における加線で書かれた音符の位置。書かれた高さが実際の音高と異なる場合、読みづらい。
・紙媒体だけでなく、タブレット端末で見た時に、読めるかどうか。
・複雑な楽譜の場合は、コンピュータ浄書されているほうが読みやすいように思う。沢山情報がある場合は、なるべく目に負担がかからないように均一に書かれていると良い。また鉛筆で書くと、コピーされた時に色が薄くなって見えにくい場合がある。
・楽器の表記に間違いがある場合がある(例:チェロの正式名称=Violoncello)。

これまでの記事まとめ

今後のスケジュール
音楽動画作りの基礎の「き」。
仮想レジアカ対談ー大瀧拓哉(ピアノ)×山田岳(ギター)
仮想レジアカ対談ー薬師寺典子(ソプラノ)×木村麻耶(箏)
仮想レジアカ対談ー北嶋愛季(チェロ)×橋本晋哉(チューバ)
仮想レジアカ対談ー黒田鈴尊(尺八) ✖ 今井貴子(フルート)
仮想音楽家レジデンス・アカデミー(公募記事)
前回の仮想音楽家レジデンスの報告・作品紹介
ギターを知ろう(エレキ編)
チューバ・セルパンを知ろう(歴史編)no.1
チューバ・セルパンを知ろう(歴史編)no.2
フレキシブル編成とは。

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