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仮想レジアカ対談ー大瀧拓哉(ピアノ)×山田岳(ギター)

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仮想レジアカは、作曲家向けオンラインアカデミーです。2020年6月・7月の二か月間を仮想のレジデンスと仮定して、一分の作品をプロフェッショナルな演奏家と交流しながら作り上げていきます。詳細は以下の記事より詳細をご覧ください。

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仮想レジアカに参加する演奏家による対談をシリーズでお届けします。第四弾は、ピアニスト・大瀧拓哉とギターリスト・山田岳。
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(仮想レジアカ限定公開動画)

山田岳のこれ聞いて欲しい(ギター編)

(大瀧拓哉、以下大瀧) 山田さんの知っているギターを含む現代曲で、特に印象に残っているものって何ですか? ギターの曲って僕あまりよく知らなくって、ソロでもアンサンブルでも、とりあえずこれを聴け! というのがもしあれば教えていただきたいです。

(山田岳、以下山田)個人的に印象に残っている、ということで言うと、ルチアーノ・ベリオ(Luciano Berio, 1925年10月24日 - 2003年5月27日)のセクエンツァXI(Sequenza XI)ですね。

僕はまだバッハとかを知る前にここから入ったので、強烈でしたね。でも未だに、それまでの西洋音楽の文脈の中でのギターという楽器の立ち位置から言ってもエポックメイキング的な作品と思います。奏法も、基本的なところからかなり攻めたところまで網羅されているので、参考になると思います。

あとは、マスターピースとして、ヘルムート・ラッヘンマン(Helmut Lachenmann)「コードウェルのための礼砲(Salut für Caudwell)」は言わずと知れた超名作なのでぜひ研究してほしいです。ここで記譜法の概念なんかも決定的に変わったと思います。あとエレキギターはまだあまり作品多くないんですが、ファウスト・ロミテッリ(Fausto Romitelli)の「Trash TV Trance」他、彼のオーケストラ作品にもエレキギターはかなり効果的に使われているのでとても参考になると思います。

(大瀧)めちゃめちゃ興味深いです!是非聴いてみたいと思います。ロミテッリは1度アンサンブル作品弾きましたが、すごくカッコいいですよね。

大瀧拓哉のこれ聞いて欲しい(ピアノ編)

(大瀧) ピアノは膨大に曲がありますし、結構趣味が偏ってるかもしれないのですが、フレデリック・アンソニー・ジェフスキー(Frederic Anthony Rzewski)の「不屈の民」変奏曲は、僕にとって一番と言って良いくらい大切な作品です。

まだ現代音楽をよく知らないときに初めて聴いて恋に落ちるくらいの感じで好きになって、内容の複雑さと幅広さに加えて恐ろしいくらいの難しさなので未だに全く飽きないし、ピアノ弾きとしては常にチャレンジングな気分にさせてくれる曲ですね。 

あと今まで弾いて忘れられないアンサンブル作品は、カールハインツ・シュトックハウゼン (Karlheinz Stockhausen)のコンタクテ(Kontakte)ですね。楽譜見ても音源聴いてもわけわからないし、「え、音楽って何だっけ」って気分になるし、なのに何故か強烈に好奇心をかき立てるものがあって勉強すればするほど面白くて・・・。初めて聴いてから仕上げるまで、これこそ現代音楽の難しさと面白さ、というのが詰まってる曲でした。

(山田)コンタクテ、僕も初めて聴いたときは衝撃でした! ああいった、予想を超えたところからくるエネルギーみたいなものはいわゆる現代音楽の魅力のひとつですよね。シュトックハウゼンは「マントラ(Mantra )」も大好きな曲なので、ぜひいつか日本で演奏してください! 

(大瀧)マントラもいいですよね! シュトックハウゼンもロミテッリもそうですが、大掛かりだったりエレクトロも使って準備が大変な曲がもっと日本で聴けるようになったらいいなぁ、と思いますね。 

これだけは知っておきたい(ギター・ピアノ編)

(大瀧)現代音楽の作曲家がギターの作品を書くことは増えてきていると思いますが、若手の作曲家がギターの為の新曲を書くときに、どんなことを参考にして欲しいとか、演奏者からの要望みたいなものはありますか?

(山田)ギターという楽器は、良くも悪くもある種の固定化されたイメージを纏ってると思うんですね。それは民族楽器的な出自も関係しているし、エレキギターとかだとことさら強く「ギターぽい」というイメージがあると思う。もちろんその面を突き詰めてクリエイティブなこともできるし面白いと思いますが、僕はいつも作曲家には、「あまりギターと思って書かなくていいです」とお願いしています。そうするともちろん奏法上の不都合も出てきますけど、そこは奏者と協働できる部分でもあると思うし、それ以上にギターのこと知ってると出てこないような音楽が生まれた方が、僕個人としては興味あるし面白いですね。 

(Orpheus Instituteによる「Salut für Caudwell」研究プロジェクト)

文献ではないですが、先ほど少し言及したラッヘンマンの「Salut für Caudwell」のスコアは読むだけでもとても面白いのでぜひオススメします。いわゆる五線譜の伝統的な記譜法はほとんど出てこなくて、タブラチュア譜というのがルネサンス期にあったんですが、その系譜のような形で、音程ではなくて両手の所作を示す楽譜になってるんですね。だから楽譜を眺めても全然音としてソルフェージュできないんだけど(笑)、むしろ先に言ったようなギターを弾ける人だと絶対に書けない音楽なんです。

(大瀧)それすごく面白いですね!

(山田)ピアノは、作曲家は弾ける人多いと思いますが、そうじゃない人が作ったものとの違い、みたいのありますか? 拡げるという意味でも、作曲上のヒントが詰まっていると思います。

(大瀧)ある意味ピアノと逆ですね。こちらはちゃんとピアノで弾ける曲書いて〜って思うこともしばしば(笑)。 ピアノってそもそもが模倣楽器なんですよね(と言うと大袈裟ですが)。オケの模倣としてのバレエやオペラの練習にも使われますし、ソロの作品でも例えばバッハの時代から、コンチェルトの様式を鍵盤楽器一台でやろうとイタリア協奏曲書いたり、リストがベートーヴェンの交響曲を全部ピアノソロに編曲することによって自身のピアニズムを拡大していったり。

ピアノがめちゃくちゃうまい人が書いた曲って弾いたらすぐにわかりますし、そのような人は(恐らく弾きながら作曲してるから?)ピアノ本来の響きの美しさを際立てる人が比較的多いと思います。ショパンやドビュッシーが典型的だし、現代だとトーマス・アデス(Thomas Adès)がそれだと思っています。 

(注:トーマス・アデスは、イギリスの作曲家。Gyorgy Kurtagから室内楽を習っていたことから、ピアノ作品に関連してクルタークの名前もここに入れておきたい)

ただ、ピアノがうまい人と弾けない人が作ったものがどちらが優れてるってことは全くないとは思っています。例えばチャイコフスキーのピアノ協奏曲のように超名曲でも弾きにくいものもありますし。 なので僕が個人的に若い作曲家に対して思うのは、「所謂ピアノ的な美しさだけでなく、明らかにピアノ的でないことを取り入れたらどうなるか?」。そういう視点で考えたら面白いんじゃないかなって思いますね。

練習すればギリギリ弾けるっていう、そのバランスがピアニストの挑戦心をくすぐると思ってます (もちろんそれは超絶技巧という意味だけではなく、です)。例えばジョージ・クラム(George Crumb)のマクロコスモスや、リゲティ(György Ligeti)のエチュードなど、表現としてはピアノ的じゃないのに、ちゃんと身体的には合理的に出来てる。きっと参考になるんじゃないかな。

「ある意味ピアノと逆」って言ってしまったけど、逆なようで、同じなことを求めているのかもしれませんね。「五線の外側にアイディアを拡げる」って、一つの共通点かもしれないです。
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大瀧拓哉(ピアニスト)

新潟県長岡市出身。長岡高校普通科卒業。愛知県立芸術大学及び大学院を首席で卒業。ドイツ国立シュトゥットガルト音楽演劇大学大学院修了。アンサンブルモデルン・アカデミー(フランクフルト)修了。パリ国立高等音楽院第三課程現代音楽科修了。中部ショパン学生ピアノコンクール金賞、野島稔よこすかピアノコンクール第3位など、いくつかのコンクールで入賞後、2016年フランスで行われたオルレアン国際ピアノコンクールで優勝。及びモーリス・オハナ賞、オリヴィエ・グレフ賞受賞。これまでにフランス、イタリア、ブルガリア、日本、韓国などで多くのリサイタルや音楽祭に出演。アンサンブル奏者としてもドイツ、フランスを中心にヨーロッパ各地でコンサートを行い、これまでにアンサンブル・モデルン(ドイツ)、アンサンブル・アンテルコンタンポラン (フランス) など、ヨーロッパの著名な現代音楽アンサンブルと共演している。協奏曲のソリストとしても、オルレアンシンフォニーオーケストラとのバルトーク第3番、パリ音楽院ロレアオーケストラとのリゲティのピアノ協奏曲、新潟セントラルフィルハーモニー管弦楽団とのチャイコフスキー第1番、ショスタコーヴィチ第2番などを共演する。また講師として日本のみでなく、フランス各地10箇所の音楽院でのマスタークラスや、ソウル大学音楽学部でのワークショップを行い好評を得る。2017年にフランスでデビューCD“ベラ・バルトークとヴィルトゥオージティ”をリリースし、フランスの各紙で高評価を得る。これまでに内宮弘子、斎藤竜夫、松川儒、掛谷勇三、ヴァディム・サハロフ、トーマス・ヘル、ウエリ・ヴィゲットの各氏に師事。2019年夏に日本に完全帰国。

山田岳(ギターリスト)

中学生のときジミ・ヘンドリクスに憧れエレキギターを始める。その後ブルースやヘヴィメタル、パンク、プログレなどに傾倒したのち、クラシックギターを佐藤紀雄氏、ダニエル・ゲーリッツ氏に師事。現代音楽の演奏を活動の主軸とし、広く内外の作曲家との交友を通して多くの独奏曲や室内楽、協奏曲などの初演に携わり、ギターのための新しいレパートリーを開拓している。またアコースティックギター、エレクトリックギターに加え19世紀ギター、バロックギター、リュートなどピリオド楽器の演奏も得意とし、時代にとらわれない幅広いレパートリーを持つ。近年では楽器の枠を超えたパフォーマーとしての活動、ダンサーや造形家とのコラボレーションによる舞台制作など、様々な切り口で新しい表現へのアプローチを試みている。サントリー音楽財団サマーフェスティバル、秋吉台の夏、ベルリン・ランドシュピーレ、トーキョーエクスペリメンタルフェスティバルなどの音楽祭に客演。海外からの招聘も多く、これまでドイツ、ベルギー、ハンガリー、マレーシア、中国、シンガポール、ベトナムの各都市にて公演、また東京音楽大学、国立音楽大学、ゲント音楽院、ラサール芸術大学、セギ大学、ハノイ音楽院などでレクチャーやマスタークラスを行う。2017年、ALM Recordsより初のソロアルバム「Ostinati」をリリース。ギターのあらゆる可能性を示した鮮烈な録音として話題を呼び、「レコード芸術」誌にて特選盤に選出、加えて第55回レコードアカデミー賞にノミネートされた。第41回クラシカルギターコンクール第1位、第38回イタリア・ガルニャーノ国際ギターコンクール最高位、ドイツ・ベルリン国際ギターコンクール2006第3位、第9回現代音楽演奏コンクール"競楽IX”第1位。第20回朝日現代音楽賞を受賞。桐朋学園芸術短期大学、福山平成大学非常勤講師。

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仮想レジアカ対談集

黒田鈴尊(尺八) ✖ 今井貴子(フルート)
北嶋愛季(チェロ)×橋本晋哉(チューバ)
③薬師寺典子(ソプラノ)×木村麻耶(箏)
大瀧拓哉(ピアノ)×山田岳(ギター)

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