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【ドキュメンタリーから学ぶ】命名はセンスなり

数年前に海外ドラマのマイブームが終わり、その後はネイチャーもののドキュメンタリーをよく見るようになった。特に好きなのは昆虫ものだ。といっても昆虫自体が好きということでもなく、実際家に侵入してくるタイプの虫たちにはいちいちビビる。ふだんはジッと見るものではないし、その勇気もないし、近づかれると怖い。勝手に家に入って来ないでほしい。

ちなみに子供のころは田舎に住んでいたので、Gとそれに似た姿のコオロギ、あとは便所に出てくるウマオイ以外であれば、手でつかめたし虫取りなんかも楽しんでいた。大人になるとなぜ触れなくなるのだろう。

しかしなんとなくまだ興味はあるのだ。とにかく知れば知るほど彼らはあまりに不思議な存在で、好奇心をそそられる。あの形状といい生態といい。どアップの顔や腹側の映像も、ゲッと言いつつ見てしまう。怖いもの見たさでもあり根性試しでもあり?

とにかく大人になった私は彼らとは画面越しに安全な距離を保ちながら、甚だ失敬かとは思いつつも、ドキュメンタリー番組や図鑑などでジーっと観察させてもらっているのだ。

あれやこれやと番組を見ていると、非常に感動的な昆虫に出会った。名は「アリノタカラ」。生態はもちろん面白いのだが、私が最も気に入ったのはその名である。

アリノタカラって、蟻の宝?それが虫の名前とな。
付けた人はなんとロマンチストか。めちゃくちゃ素敵やん。

アリノタカラは、ミツバアリというアリの巣の中に住み着いて共生している小さな虫で、植物の根っこから汁を吸い、その体からシミ出た汁を、さらにその巣の女王アリが吸うという関係。そして女王アリが巣を引っ越す時にはアリノタカラを一緒に連れて行くのだそう。ただの共生ではなく、いなくては生きていけないレベルの絶対的共生関係らしい。そりゃアリにとっては宝のような存在と言えよう。

これほど気の利いた名はこれまでに聞いたことがない。個人的にはまさに傑作だと感心している。小説だったら読んでみたい。芥川龍之介か三島由紀夫か、はたまた江戸川乱歩の作品タイトル並みに、「センスの塊」のような命名わざである。羨ましい限りだ。

命名にはセンスが必要なのだ。対象がペットであれ人間の子どもであれ。

そのスタイルとしては、対人間なら意味を込めるか、発音などの音の好みがもととなるのが主だろうか。日本人なら画数も考えるかもしれない。ペットなら同じく意味を込めるか、または見たままか、好きな人物の名前から拝借するかなどもよくあるパターンに思う。
ただしペットではない生き物となれば何でもありのようである。
たとえば、

ハダカデバネズミ・・・ザ・見たまま。豚ゴリラ的な?
そしてちょっとまんま過ぎてショッキングだ。一応、悪口ではないとしても、見たままの命名は小学生レベルだし、悪気はなくとも割と残酷である。しかも彼らの目は退化しており、なんとも弱々しい見た目がとても切ない。
人間に勝手にそんな名前で呼ばれているなど、地中の彼らは知る由もない。いや、知らなくていい。悪口ではないし。にしても失敬だが。

キリンゾウムシ・・・虫なのにゾウで、さらにキリン?
マダガスカルに生息する首の長いゾウムシ。確かに首は長く、カブトムシのオスの角のようではあるが、首もとから3分の1あたりから折れてその先に頭がある。オスのほうが首は長く、メスは少しガッシリ体型。メスは柔らかい葉っぱを細かく噛みながら丸めて筒状にし、その中に卵を一つ産んで器用に包み込んで地面に落とす。誰にこれを教わるのか、なんでその方法を取るのか、謎過ぎるプログラミングだ。

ムカシトカゲ・・・で、今は何?モト冬樹的な?
というかそもそもこれはトカゲではないらしい。見た目はトカゲなので紛らわしい。ニュージーランドに棲む生き物で、寿命が150年くらいあるという。1時間に1回しか呼吸をしないとな。時間の流れが違う、まるで棲む世界が違う生き物のようだ。同じ時代の同じ星にいるとは思えない。なんで「ムカシ」なんだろうと思ったが、ひょっとしてそういうことなのか?半分ロマン系?

ちなみにハダカデバネズミとムカシトカゲに関しては、ぜひ自分でも検索してみてほしい。生態や個体の特性が非常に興味深く、さまざまな研究がされている。

まあとにかく、命名はセンスだ。

そういえばその昔、人間界では「悪魔くん騒動」というものがあった。自分の子どもに「悪魔」と名付けようとした親がマスコミで叩かれた件。あの当時は親の倫理的なところを非難されていたかと記憶する。まあ親のセンスで子どもが迷惑しかねないことだから批判されても仕方がない。キラキラネームが横行するずっと以前の話だが、あれがまんまの漢字ではなく「阿苦魔」とか「亜久魔」なんかだったらシレっとやり過ごせたかもしれない。ただ親が暴走族なだけということで。いや、どうだろ。
人間の命名は、創造力より想像力のほうが重要になるのかもしれない。


そういう私は今メダカを飼っている。姫スイレンを育てるためにボウフラ対策で飼っているだけなのだが、これまで全部で9匹。毎日見ているからさすがに個体の判別はできるが、名前はというと、

ビッグママ、アルファメール、ラメ子、ジャンボ、ムスメ、ムスメじゃないほう、底にいるやつ、ジーザス、メス

意味あり系、まんま系、名前とは言えない系?、数が増えるとまあこんなものである。ペットのような、ペットでないような・・・。メダカたちよ、人間(私)が勝手に呼んでいるだけだから気にしないでくれ。悪口ではない。

ああ、命名は難しい。
気の利いた名前を付けれる人になりたい。
今年もメダカの子が生まれる。


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